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愚者たちの輪舞 ―ブランタール公の凱旋―  作者: 中里勇史
帝国監察使

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21/117

出陣

 ベルウェンは、どこかで何かしているらしい。ふらりと出ていって、ふらりと戻ってくる。

 この日もふらりと戻ってきた。


「お姫様に付けた連中が戻ったぜ。プルヴェントには向かわず、アルデプロートとかいうところに行ったらしい」

「スハロート派の領地ですね。プルヴェントよりもっと東の辺りかと」


 ムトグラフが答える。いつの間にやらナルファスト公国における各陣営の配置まで頭に入れつつある。

 居眠りしていたウィンがむくりと起き上がった。一応聞いていたらしい。


「そこにサインフェック副伯(スハロート)がいるのかな」

「それが姫さんも空振りだったようだな。しばらくするとそこから南の方に向かったんだと」

「妹にすら居場所を知らせてないなんて、サインフェック副伯は用心深いねぇ。それとも居場所を教えられない理由でもあるのかな」

「サインフェック副伯と公女(ウリセファ)様の間に対立が生じているということでしょうか」


 アデンが口を挟んだ。


「サインフェック副伯と公女殿は仲が良かったそうじゃないか。ワルフォガル退去時も二人は行動を共にしてる。それなのに、今じゃ公女殿までサインフェック副伯を探してる。公女殿は自分の判断でここに来たような口ぶりだったし」

「サインフェック副伯もティルメイン副伯(リルフェット)も行方不明。一体何がどうなっているのでしょうか」

「お姫さんの護衛もあの二人の騎士だけのようだ。公爵様のご令嬢ってのはもっと厳重に守られてるもんじゃないのか」


 ベルウェンが「納得いかねぇな」と言わんばかりに口をひん曲げていると、一人の傭兵が天幕に入ってきた。ひとしきり報告を受けたベルウェンが、ウィンたちにその内容を説明した。


「ふん、まぁ予想はしていたがな。デルドリオンから西に、まあまあ整備された道が延びている。大将も通ったから知ってるだろう。ここには襲撃者の馬の蹄跡が残ってた。しばらく行った先でやや道を外れて南に向かったらしい。で、ラモリーン街道に出たようだ。ラモリーン街道は整備されている上に往来も多いから蹄の跡は確認できなかった。この宿営地からの痕跡を自然に伸ばすと、ラモリーン街道を南、つまりプルヴェントへ向かうような線が描けるな」

「なるほど。それが偽……」

「偽装かどうかは判断できねぇな」

「最後まで言わせてくれよ」


 ウィンは悲しそうに抗議した。


 何もかも決め手に欠ける。

 スハロート派と交渉しようにも、やって来たのはスハロートと意思統一しているようには感じられないウリセファだけ。スハロート自身の意思表示はいまだなされていない。


 監察使の宿営地に夜襲を掛けてきた連中はスハロート派であるという状況証拠だけを残していった。あれだけ正体を隠していた襲撃者がスハロートの紋章だけ落としていくなど、もはや笑わせようとしているとしか思えない。


 おそらく、ここに座して交渉を呼びかけても事態は変わらない。であれば無理やり状況を変化させるか……。


「よし。明後日、全軍を動かす。ベルウェン、副伯(フォロブロン)、準備してくれ」

「目的地は?」

「取りあえずプルヴェントへ」


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