ケルヴァーロ下向
第二報が届いたのは十二月五日の早朝。
ロレンフスの執務室に、侍従長、フォロブロン、ケルヴァーロが集められた。ケルヴァーロは侍従長を見て、「なぜこいつがここに居るんだ」という顔をしたが、フォロブロンが視線で制するのに気付いて発言は控えた。
【敵はヌヴァロークノ王国。三〇〇〇の兵が上陸してミラロールを占領。続いて続々とヌヴァロークノ人が上陸。オルドナ伯はミラロール郊外の戦闘で敗死】
「ヌヴァロークノだと?」
「オルドナ伯が敗死……」
一同は息をのんだ。
「ナインバッフ公、ミラロールとは?」
「オルドナ伯領の港町ですな。北海に面していて、南側は高い崖で守られている、天然の要塞のようなところだ」
「北海……ヌヴァロークノ軍は海から攻め込んだということか」
「恐らく。陸から攻めてもまず落とせない。しかし、海からということは……」
同じく北海に面したトルトエン副伯でもあるフォロブロンが後を続ける。
「オルドナ伯領には有力な水軍があったはず」
「ヌヴァロークノ軍の上陸が続いているということは、制海権を取られたのだろう。厄介だな……」
ケルヴァーロは頭をかきながら床を睨み付けた。
これが十数日前の情報だとすると、オルドナ伯領は今頃一方的に蹂躙されている可能性が高い。
それからしばらくして、クーデル三世の親書を携えた早馬が到着した。
「ヌヴァロークノ王クーデル三世は、帝国にオルドナ伯領の割譲を要求する。要求を受け入れるなら、他領には危害を加えない」
「そ、そんな要求を飲めるわけがなかろう」
ロレンフスは怒りを露わにして親書を握りつぶした。
ヌヴァロークノに救いの手を差し伸べるつもりだったが、事態がこうなっては帝国の威信に懸けて領地を与えるわけにはいかない。ヌヴァロークノ王国は、完全な敵になったのである。
ロレンフスは、久方ぶりに明確な命令を下した。
「ナインバッフ公、ヌヴァロークノを撃退してクーデル三世を捕らえよ」
「御意」
ケルヴァーロはロレンフスに一礼すると、領地に下向するため退出した。
「私の領国もナインバッフ・グライスに属します。ナインバッフ公と共に下向致します」
とフォロブロンは言ったが、ロレンフスは認めなかった。
「いや、アレス副伯は我が幕僚として帝都に残留せよ」
「しかし……」
反論しかけたフォロブロンを、ロレンフスは目で制した。
「皇帝軍を出さねばならなくなるやもしれぬ。それまで待て」
ロレンフスの指揮能力が突然戻ったことに、フォロブロンは驚いた。これまでの屈託は何だったのか。
そんなロレンフスを、インジョウは忌々しげに眺めていた。




