表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚者たちの輪舞 ―ブランタール公の凱旋―  作者: 中里勇史
帝国監察使

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/201

ブロンテリル村

 ウリセファ一行は、ブロンテリル村に無事到着した。一日に二〇キメルほどしか進めず、三日を要した。


 さほど整備されていない路面は馬車を激しく揺らし、ウリセファ一行はその震動に悩まされた。

 アトストフェイエはたびたび休憩を所望し、進行は遅れがちだった。馬車酔いがひどかったウリセファは、この休止に大いに助けられた。

 実はウリセファの顔色が悪いことを察したアトストフェイエの配慮であったのだが、ウリセファはそれに気付かなかった。


 この三日間の旅で、ウリセファは別のことに気付きを見いだしていた。

 彼女は、石畳が整備された市街や主要街道でしか馬車を使ったことがなかった。そのため、馬車が乗り心地の悪い乗り物であることを改めて思い知った。


 ――車輪の振動を吸収するような仕組みがあったらいいのではないか。


 公国に平穏が戻ったら、母のために揺れの少ない馬車を作らせようと彼女は決意した。


 リルフェットはブロンテリル村が気に入ったようだ。ワルフォガルからほとんど出たことがないので、田園風景が新鮮に映ったのだろう。

 村の人々はウリセファ一行を大いに歓迎した。ウリセファのことを姫様姫様と言ってありがたがっている。身を隠すために来たのだとウリセファが説明すると、村人は「絶対に公妃(アトストフェイエ)様と副伯(リルフェット)様を隠してみせる」と請け負った。

 彼らはなけなしの野菜や卵を持ち寄り、ウリセファたちに素朴な料理を振る舞った。リルフェットがその料理を恐る恐る口にし、「おいしい!」と言うと大いに喜んだ。

 この日、アトストフェイエは部屋から出てこなかった。村人たちにナルファスト公(オフギース)の死を伝えると彼らは大いに嘆き、彼女の気持ちを慮って我が事のように泣いた。

 初めてやって来た領主にこんなにも尽くしてくれる村人に、ウリセファは驚き、忸怩たる思いをかみしめた。


 ファイセスをはじめとする騎士たちや村人の献身を受ける資格が自分にはあるのだろうか。彼ら彼女らに、自分は何一つしてやったことなどないというのに。


 ――自分にできることで彼らに報いなければならない。


 その前に、まずは母上とリルフェットが村での生活に馴染むのを見届ける必要がある。二人の生活が落ち着かなければ村を安心して離れることはできない。


 続いて情報を集めることにした。といっても自分には何もできない。騎士たちに、近くの街に行ってほしいと依頼した。「自分にできること」などと言いつつ、人を頼ることしかできない自分が歯がゆい。


 騎士たちが集めてきた話を総合すると、スハロートの居場所は依然として不明。レーネットにも大きな動きはない。また、監察使が軍勢を率いてナルファストに乗り込んできたという話題で持ち切りだという。監察使が何をするつもりなのかは分からないが、ナルファストの情勢を大きく左右することは間違いない。


 スハロートの行方も気掛かりだが、帝国が何を考えているのかを知っておく必要がある。あるいは、監察使からスハロートの情報を得ることができるかもしれない。やみくもにスハロートを探すよりも、居場所が分かっている監察使に会いに行く方が確実でもある。


 一人で出立の準備をしていると、ファイセスに目的を聞かれた。デルドリオンにいる監察使に会いに行くと言うと、ファイセスも同行するという。

 ウリセファは一人で行くと主張したが、ファイセスはそれを受け入れなかった。


「公女様が母君と弟君をお守りしたいと思うのと同様、皆も公女様をお守りしたいと望んでいます。我々にはそうする権利があります」


 彼は、母上とリルフェットの護衛として村に三人残し、ウリセファには二人が同行すると主張して騎士のソド・ワインリス・レッセソンと村の少女エネレアを連れてきた。


「男だけでは細かいところに気が回りません。おそばに女性がいた方が何かと便利でしょう」


 そう言って、エネレアを侍女としてそばに置くことを提案した。


「ファイセス卿は細かいことに気が回る方ですね。ではエネレア、これからよろしくお願いします」


 エネレアは、私が声をかけると失神しかけた。


「公女様に親しく声をかけられるなど、辺境の村の娘にとっては想像を絶する出来事なのです」


 ファイセスは、そう言って笑った。

 彼に支えられて態勢を立て直したエネレアは、涙を目にためてぶるぶる震えながら叫んだ。


「はい! い、命に代えて、姫様のお役に立ちます!」

「死なれては困ります。死なない程度にしてね」


 ウリセファは笑った。

 とてもとても久しぶりに心から笑った。

13世紀当時の馬車は、車体に車軸が直接固定されているため地面の凹凸の影響を受け、極めて乗り心地が悪かったと思われます。まあ、酔います。

14世紀ごろに、座席を吊り下げる懸架式馬車が登場します。これで車軸の影響を軽減できましたが、吊り下げられている=ブラブラしている訳で、ベストとは言えなかったでしょう。

バネによるサスペンションが導入されるのは17世紀。

ウリセファは、方法はともかく13世紀レベルの馬車の問題点に着目した、先見性の高い女性であったことになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ