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愚者たちの輪舞 ―ブランタール公の凱旋―  作者: 中里勇史
ナルファスト公国へ

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アトラミエ

セレイス卿(ウィン)。アトラミエが貴公と二人だけで話したいそうだ。私は同席を禁じられてしまった」


 レーネットは笑って肩をすくめた。

 そう言われても、公妃と二人きりになるわけにはいかない。ウィンが難色を示すと、レーネットは苦笑した。


「貴公は変なところで律義だな。ならば、アトラミエの侍女を付けるということでどうだろう」


 その条件をアトラミエがのんだので、ウィンと公妃の会談が成立した。


 二人で話がしたいとはどういうことなのか。アトラミエとの接点といえば、レーネットについて尋ねられたことだけである。やはりそれに関連しているのだろう。

 「話が違う!」と叱られるのだろうか。

 間違ったことは言っていないはずだが、女性の視点では違って見えるということもあるかもしれない。


 ウィンは震え上がった。


ナルファスト公(レーネット)についてセレイス卿に質問してから一年もたつのですね」


 と、アトラミエは話を切り出した。相変わらず表情はほとんど変わらないが、気のせいか無表情というほどではない。


「継承戦争が終わった直後だから、一昨年(二二一年)の一〇月ですね」

「あのとき私は、父上(皇帝)からナルファスト公に嫁ぐか否か、選べと言われていました」

「選べ? それはまた珍しい」


 貴族において結婚とは政治に属する領域であり、当人に選択権などない。

 帝国において、貴族の女性には外交官としての資質が求められる。実家の利益の代弁者でなければならず、同時に婚家の利益と擦り合わせる才覚が要求される。実家の利益を主張するだけではうまくいかない。

 女性は政略結婚の駒であり、愚か者に駒は務まらないと考えられている。ゆえに、貴族の女性は作法のみならず政治についても教育される。女として愛され、政治的なパートナーとして信頼されなければ駒たり得ない。

 美しいだけではだめなのだ。


 そのため、皇帝の言葉はアトラミエを困惑させた。


 大国かつ戦乱状態にあったナルファスト公国に嫁げというのは、アトラミエの能力が高く評価されたことを意味する。

 アトラミエであれば、この難しい国とティーレントゥム家の架け橋になると期待されたのだ。帝国に生きる貴族の女性として、これは最大級の名誉であった。


 だが、「選べ」とはどういうことか。皇帝の、父の真意を測りかねた。

 何より、選ぶための判断材料がなかった。

 女は、「行け」と言われたところに行くものとして育てられた。行く先がどんなところかなど知らない。知らなくてもよかったのだ。

 選択権がないのだから。


 だから、選択権を与えられると逆に困惑する。


 彼女は、兄たちに相談することもできず、一人首をかしげていた。そのとき、ちょうどナルファストから帰ってきたウィンに出会った。ウィンに聞けば、多少は判断材料ができるかもしれない。それがあの質問だった。


「セレイス卿の話を聞いて、ナルファスト公をお支えしたいと思いました。家族になって差し上げたいと思ったのです」


 アトラミエは、ナルファスト公に嫁ぐと父に伝えた。


「ナルファスト公に嫁ぐに足る能力があるとお認めいただき、ありがとうございます。この名誉ある務めを必ずや成し遂げてご覧に入れます」


 皇帝はアトラミエの決断を是とし、「多くの家族を失ったナルファスト公を支えてやるがいい」と言った。まさにアトラミエがしようと思ったことだった。

 皇帝がアトラミエにその任を期待していたのだと思うと、自分の決断がより誇らしかった。


「実際のナルファスト公はいかがでしたか?」


 その質問に、あまり表情を変えなかったアトラミエは少しほほ笑んだ。一年前よりも、もう少し柔らかく。


「セレイス卿から伺った以上の方でした」


 どうやらこの政略結婚は幸せな形で進んでいるらしい。

 もちろん、互いに不幸な結果になる政略結婚も多い。だが政略結婚が即不幸というわけではない。当人たちの努力で結果を変えられることもある。


 ウィンが安堵していると、アトラミエが急に表情を硬くして姿勢を正した。


「前置きが長くなりました。二人でお話ししたかったのはここからです」

「えっ!」


 美女が表情を硬くすると、とても迫力がある。まさに「氷の美貌」であった。ウィンは帰りたくなった。


「何でしょう……」

「セレイス卿のことを、父から聞きました」

「……」

「兄たちも知らないとのことです。あ、ロレンフスは知っているのでしたね」


 自分のことを知られるというのは、実に居心地が悪い。どんな顔をしたらよいのか分からず、ウィンは視線を泳がせた。


「私はセレイス卿を何と呼べばいいのでしょうか。やはり……」

「これまで通りセレイス、とお呼びください。あ、ウィンでもいいですよ」

「セレイス卿……ウィン……ああ、ウィンがいい。ウィンにします」

「ではナルファスト公妃のよろしいように」

「ウィン、これからもナルファスト公と私を助けてくれますか?」

「もちろん。いつでもお気軽にお呼びください。でも、できれば暖かい季節に」


 そう言ってウィンはわははと笑った。

 アトラミエも、ふふっと笑った。

設定上は、「この時代最高の美女」のアトラミエが再登場。

美女がどれだけ美女かを表現するのは難しいですね。

彼女には、後の章で見せ場があります。

イマヒトツつかみどころのない彼女はどんな人物なのか、お楽しみに。

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