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愚者たちの輪舞 ―ブランタール公の凱旋―  作者: 中里勇史
【第三章】 純白の花嫁

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帝都・冬

 帝国監察使ヘルル・セレイス・ウィンは、平民街の一画にあるごくありふれた酒場で、昼間からやる気が感じられない目に磨きをかけていた。


「旦那、死んだ魚みたいな目になってますぜ」

「その言い方はやめてよ、ラゲルス」


 その表現を使う女性の顔が頭に浮かんだので、ウィンはそれを打ち消すかのように麦酒をあおった。


 帝都に戻ってから一カ月が過ぎ、季節は冬になっていた。

 帝都は内陸部なので乾燥しており、雪が降ることはめったにない。その代わり気温は低い。寒さに弱いウィンにとってはつらい季節である。

 ちなみに、暑さにも弱い。


 ウィンはこの一カ月何をしていたかというと、何もしていなかった。部屋でごろごろしたりアデンと話したりするのに飽きると、こうして昼間から酒場でぼんやりしている。


 ウィンが怠惰な時間をむさぼっている間にも、事件は起こっていた。最近では、スソンリエト伯が逃亡した。

 当初はおとなしく尋問に応じてカーリルン公位簒奪計画について素直に供述していた。

 スソンリエト伯とその家臣、ウィン、傭兵隊長ベルウェン・ストルムの証言によって、宮内伯のヴァル・カルロンジ・サルナーガがカーリルン公位簒奪に関与していたことも明らかになった。

 そうしたさなか、スソンリエト伯は突然脱獄して行方をくらましてしまった。まるでカルロンジの破滅を見届けるまで待っていたかのように。

 少なくとも、ウィンはそうだと考えていた。


 帝国司法院の追及によって、カルロンジがナルファスト公国の近くまで下向してナルファスト公国の貴族たちに指示を出していたことも判明した。この件については宮内伯のヴァル・マーティダ・ディーイエから聞いただけなので詳しくは分からないが、カルロンジの関与は限定的だったようだ。

 それについてはウィンの肌感覚とも一致している。カルロンジはあまりにも「底が浅い」。あれはやはりただの使い走りだ。しかし、カルロンジが牢で自害してしまったため、背後関係はうやむやになってしまった。


 あの男が自害などするとは思えないのだが、詳しい調査は行われなかった。自害ということで、早急に幕引きとなった。

 まるで、何者かの意志が介在しているかのように。

 帝都の闇は深い。どうすれば闇の中を探れるのか。


 マーティダは、今でも深入りするなとウィンに言い続けている。


 そのマーティダに呼び出されたのは一二月一六日のことだった。その日はとても寒く、出かけるのは嫌だったがマーティダの呼び出しとあらば行かないわけにはいかない。


「こんな寒い日に何の用だろう」

「用の有無に気温は関係ないと思いますが」

「またどうでもいいことに突っ込む……」


 アデンとくだらないことを言い合っているうちに、皇帝宮殿に着いた。外廷にあるマーティダの詰め所を訪ねると、彼は怖い顔で待ち構えていた。


「遅い」

「参内用の服が見つからなかったもので……」

「言い訳はいい。本題に入る」

「はい……」

「今回は仕事の話ではない。ナルファスト公国に行ってきなさい」

「はい?」

「二月にナルファスト公(レーネット)大公女(アトラミエ)の婚礼が執り行われる。非常に異例なことではあるが、セレイス卿(ウィン)アレス副伯(フォロブロン)、ムトグラフ卿、ベルウェン、ラゲルスの五名を招待したいと、ナルファスト公直々のお話があった。行ってきなさい」

「公爵の婚礼に!?」


 公爵の婚礼といえば、ベルウェンら平民はもとよりウィンやムトグラフのような下級貴族が招待されることなどあり得ない。資格があるのは帝国爵位を持つフォロブロンくらいだろう。


「だから、異例だと言っている。旅費は先方持ちだ。行ってきなさい」

「はあ」


 こうしてナルファスト公国行きが決まった。

 ナルファストについては気にもしていたので行きたくもあるが……。


「寒いのが嫌なんですね」


 アデンが痛い所を衝く。

 寒風が吹きすさぶ中を約一カ月も旅するのはつらそうだ。今回は歩兵を連れていく必要はないから日程は短縮できるが、そもそも一日でも嫌だった。


「でも行かないという選択肢はありませんよ」

「分かってるよ。でも、急に病に倒れたりどこかの諸侯の調査に行かなきゃならなくなったりするかもしれない」

「諸侯の調査に行くならナルファストに行くのと同じじゃないですか」

「……それもそうか」


 そして、出発日まで何ごともなく、無事ナルファストに出発することができた。

次回、ナルファスト編です。

後々の重要人物も登場します。

興味を持っていただけましたら、ブクマなどでご支援いただけると励みになります!

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