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礼拝堂

 神殿では、聖女専用の部屋があるらしい。

 そこは、一夜を明かせるだけの設備が整っていた。


「リンを呼びますよ」

「ううん。1人で大丈夫」


 今日はそこに泊まることにした。

 フィスロがリンちゃんを呼んでくれるって言ったけど、急には悪い。

 それに、もともとはお手伝いさんなどいないところで生活していたのだ。

 1人で身の回りを整えることなんて、お茶の子さいさいである。


 聖女の部屋は、やっぱり神聖な感じがした。

 どことなく魔力が帯びているような。

 疲れていたのに、すっと気分が和らぐ気がする。


「それでは、おやすみなさい」

「うん。おやすみなさい」


 フィスロは、隣の部屋で休むらしい。

 おやすみと言い合ってから、部屋に入る。


『カップルでお泊りって、憧れません~?』


 なぜか、いつかのお昼休みにリアが言っていた言葉が思い浮かんだ。

 

「そんなんじゃない。絶対そんなんじゃない」


 私は、その言葉を唱えながら眠ったのだった。





「スイ様。昨日、なにか呪文を唱えていませんでした?」

「唱えてないよ」


 翌朝。

 フィスロと顔を合わせた瞬間、そんな言葉を投げかけられた。

 うっ。

 まさか、ブツブツ言っていたのが聞こえていたのでは!?


「わしは何も聞こえんかったぞ」


 神殿長が、あくびをしながら言った。

 うん。それでいいのです。


「えぇ、気になります」

「気になるな! ってか、何も言ってないってば!」


 フィスロに関することを呟いていたんだから、あまり干渉しないでよっ!




 今日は、神殿の礼拝堂に行く日。

 きちんと聖女服に身を包んで、神殿長の後を続く。


「青薔薇聖女様だ」

「黒髪が綺麗ですね」


 すれ違う神官さんたちの言葉が、次々と耳に入ってくる。

 ちょっと恥ずかしい。


「ここが、礼拝堂になります」


 大理石の廊下の先にあった、大きな扉。

 重厚な造りのそれを、2人の神官さんが開けてくれる。

 

 開けられていく扉。

 その隙間からは、眩しいばかりの光が差し込んでくる。

 礼拝堂という神聖な場所にふさわしい、美しい光景だった。


「ようこそ、聖女様」


 この礼拝堂は、私がこの国に召喚されて降り立ったところ。

 だから、どこか懐かしい雰囲気を感じる。


「あれ、絵画なんてあったっけ?」


 礼拝堂の奥の中央には、初代聖女らしき人の像。

 それを囲むように嵌められた、大きなステンドグラス。

 そして、たくさんのベンチ。

 神殿と聞いて真っ先に想像するような、そんな世界が広がっている。


 そんな礼拝堂の壁には、何やら絵画が飾られていた。

 召喚されたときには気付かなかったのかな。


「ずっと飾られているものじゃ。ルーア王国の歴史とも言える絵画たちですぞ」


 神殿長が教えてくれた。


 絵画を見るために、そっと壁際へ近づく。

 陽の光を浴びて、絵画は煌めいていた。


「へぇ。歴代の聖女と王族の絵だ」


 見ていけば、それぞれの絵でも共通点がある。

 聖女が国民に手を差し伸べている絵。

 王族と手を取り合っている絵。

 全ては、国の争いごとが終結した後の出来事のようだった。


「各聖女様の功績を描いたものです。スイ様も、いつかここに絵が飾られますぞい」


 え!


「真面目に仕事をしないと、ただ本を読んでいるだけの聖女様が描かれてしまいますねぇ」

「ちょっと! 心配したことを言葉にしなくていいじゃない!」

「おや。その心配するお気持ちがあるだけで、フィスロはとても嬉しいです」

「余計なお世話!」


 いつも通り、フィスロとやり合う。

 神聖な礼拝堂だけど、仕方ない。


 やり合いが収まってから、もう一度絵画を見て回る。

 そのとき、私は1枚の絵に目が留まった。


 国王と聖女が、何やら交わしている絵だ。

 聖女は国王に杖を。

 国王は聖女に指輪を。


 杖には青い宝石。

 指輪には緑の宝石。


 その絵は、他の絵と同じでただの友好の証を描いたもの。

 それなのに、目を奪われてしまった。

 どくん、と胸が跳ね上がる。

 杖と指輪、宝石に目が離せなくなる。


「これは、『運命』じゃ」


 はっとすると、隣に神殿長がいた。

 遠くでフィスロが、真剣な目で佇んでいる。


「かつて、聖女と国王が交わした契りじゃ。いつかの世で巡り合うであろう予言を記し、それを絵に起こさせた。いずれ、この『運命』を背負う者たちに向けてな」


 だから、この絵画は『運命』という名が付いているらしい。

 そんなことを神殿長は語ってくれた。


「詳しくは、国王陛下が知っておる。聞いてみるといい」


 ふと、フィスロを見た。

 フィスロは、私をじっと見つめていた。


 その、エメラルドグリーンの瞳で。


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