礼拝堂
神殿では、聖女専用の部屋があるらしい。
そこは、一夜を明かせるだけの設備が整っていた。
「リンを呼びますよ」
「ううん。1人で大丈夫」
今日はそこに泊まることにした。
フィスロがリンちゃんを呼んでくれるって言ったけど、急には悪い。
それに、もともとはお手伝いさんなどいないところで生活していたのだ。
1人で身の回りを整えることなんて、お茶の子さいさいである。
聖女の部屋は、やっぱり神聖な感じがした。
どことなく魔力が帯びているような。
疲れていたのに、すっと気分が和らぐ気がする。
「それでは、おやすみなさい」
「うん。おやすみなさい」
フィスロは、隣の部屋で休むらしい。
おやすみと言い合ってから、部屋に入る。
『カップルでお泊りって、憧れません~?』
なぜか、いつかのお昼休みにリアが言っていた言葉が思い浮かんだ。
「そんなんじゃない。絶対そんなんじゃない」
私は、その言葉を唱えながら眠ったのだった。
*
「スイ様。昨日、なにか呪文を唱えていませんでした?」
「唱えてないよ」
翌朝。
フィスロと顔を合わせた瞬間、そんな言葉を投げかけられた。
うっ。
まさか、ブツブツ言っていたのが聞こえていたのでは!?
「わしは何も聞こえんかったぞ」
神殿長が、あくびをしながら言った。
うん。それでいいのです。
「えぇ、気になります」
「気になるな! ってか、何も言ってないってば!」
フィスロに関することを呟いていたんだから、あまり干渉しないでよっ!
今日は、神殿の礼拝堂に行く日。
きちんと聖女服に身を包んで、神殿長の後を続く。
「青薔薇聖女様だ」
「黒髪が綺麗ですね」
すれ違う神官さんたちの言葉が、次々と耳に入ってくる。
ちょっと恥ずかしい。
「ここが、礼拝堂になります」
大理石の廊下の先にあった、大きな扉。
重厚な造りのそれを、2人の神官さんが開けてくれる。
開けられていく扉。
その隙間からは、眩しいばかりの光が差し込んでくる。
礼拝堂という神聖な場所にふさわしい、美しい光景だった。
「ようこそ、聖女様」
この礼拝堂は、私がこの国に召喚されて降り立ったところ。
だから、どこか懐かしい雰囲気を感じる。
「あれ、絵画なんてあったっけ?」
礼拝堂の奥の中央には、初代聖女らしき人の像。
それを囲むように嵌められた、大きなステンドグラス。
そして、たくさんのベンチ。
神殿と聞いて真っ先に想像するような、そんな世界が広がっている。
そんな礼拝堂の壁には、何やら絵画が飾られていた。
召喚されたときには気付かなかったのかな。
「ずっと飾られているものじゃ。ルーア王国の歴史とも言える絵画たちですぞ」
神殿長が教えてくれた。
絵画を見るために、そっと壁際へ近づく。
陽の光を浴びて、絵画は煌めいていた。
「へぇ。歴代の聖女と王族の絵だ」
見ていけば、それぞれの絵でも共通点がある。
聖女が国民に手を差し伸べている絵。
王族と手を取り合っている絵。
全ては、国の争いごとが終結した後の出来事のようだった。
「各聖女様の功績を描いたものです。スイ様も、いつかここに絵が飾られますぞい」
え!
「真面目に仕事をしないと、ただ本を読んでいるだけの聖女様が描かれてしまいますねぇ」
「ちょっと! 心配したことを言葉にしなくていいじゃない!」
「おや。その心配するお気持ちがあるだけで、フィスロはとても嬉しいです」
「余計なお世話!」
いつも通り、フィスロとやり合う。
神聖な礼拝堂だけど、仕方ない。
やり合いが収まってから、もう一度絵画を見て回る。
そのとき、私は1枚の絵に目が留まった。
国王と聖女が、何やら交わしている絵だ。
聖女は国王に杖を。
国王は聖女に指輪を。
杖には青い宝石。
指輪には緑の宝石。
その絵は、他の絵と同じでただの友好の証を描いたもの。
それなのに、目を奪われてしまった。
どくん、と胸が跳ね上がる。
杖と指輪、宝石に目が離せなくなる。
「これは、『運命』じゃ」
はっとすると、隣に神殿長がいた。
遠くでフィスロが、真剣な目で佇んでいる。
「かつて、聖女と国王が交わした契りじゃ。いつかの世で巡り合うであろう予言を記し、それを絵に起こさせた。いずれ、この『運命』を背負う者たちに向けてな」
だから、この絵画は『運命』という名が付いているらしい。
そんなことを神殿長は語ってくれた。
「詳しくは、国王陛下が知っておる。聞いてみるといい」
ふと、フィスロを見た。
フィスロは、私をじっと見つめていた。
その、エメラルドグリーンの瞳で。




