表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/70

運命

「またいらしてくだされ」

「はい!」


 神殿長に見送られて、神殿を去る。

 礼拝堂を見て、他の施設も見て。

 書庫の連携システムについての今後を話し合ってから、私たちは王宮に帰ることになった。

 

 帰りの馬車。

 フィスロと向かい合って座り、ガタゴトと揺られる。

 その間、ほとんど会話はなかった。


「……スイ様」


 ふと、フィスロが口を開いた。


「まだ王太子殿下にお会いしたいと思っていますか?」

「王太子に? まぁ、ちょっとはそう思ってるよ」


 隠されているんだから、それなりの理由があるはず。

 きっと、礼拝堂に飾られていた『運命』の絵画が関わっているのだろう。

 だから余計に会ってみたい気もした。


 だけど。


「これでもっと首を突っ込んだら、きっと司書教諭ライフが送れなくなる……!」


 そう。

 私の天職・司書教諭の幸せライフの道は遠のいてしまう。

 聖女の方が前面に出てきて、司書教諭はおまけみたいになるだろう。

 それだけは避けたい。


「スイ様は、そのままでいてくださいね」


 そんな私を見て、フィスロがふっと笑った。

 どこか哀しげな、エメラルドグリーンの瞳だった。


「……補佐官、辞めないでね」


 急に、そんなことを思ってしまった。

 フィスロがどこか遠くに行ってしまいそうな。

 確かではないけど、それを予兆させるような予感がしたのだ。


「……」


 この言葉に、フィスロはただ無言だった。




 王宮へ着くと、リンちゃんが出迎えてくれた。

 そのまま聖女殿に行くかと思いきや、フィスロは官僚みたいな人に連れていかれてしまった。

 残っている仕事があるから、と。





「おかえりなさいませ」


 ヒースは、深々と頭を下げた。

 出迎えたのは、ルーア王国の王太子。

 王位継承権第1位の青年だ。


「視察はいかがでしたか?」

「……頃合いだ」


 王太子は、羽織っていた白い服を1枚脱いだ。

 縛っていた、襟足の長い銀髪。

 それをするりと解き、ソファへ向かう。


「この後、聖女は陛下のもとへ行かれる。きっと、その際に呼ばれるだろう」

「姿をお見せするのですか」

「……いや」


 王太子は、その瞳を光らせた。


「聖女の覚悟がどれほどまでか、しかと見極めてからだ」


 ルーア王国の平和。

 王太子が隠された秘密。

 これらを知ったとき、聖女はどんな反応をするのだろう。


「初顔合わせは、そのときでなくても良い。最悪、婚姻式の際でも良いのだ」

「……そう仰られておりますが、本当は心配なのではないですか? 聖女様が幻滅するのではないか、と」


 ヒースは、乳兄弟の弟に向かって微笑んだ。

 王太子は、困ったように微笑むと、窓へ視線を向けた。

 その目線の先には、荘厳に建つ聖女殿。

 かつて、『青の聖女』と『緑の王』が造り上げた、平和の象徴。


「……スイ」


 初めて敬称を取った名前は、清く透明に空気へ溶けていった。

 泡沫のように。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ