運命
「またいらしてくだされ」
「はい!」
神殿長に見送られて、神殿を去る。
礼拝堂を見て、他の施設も見て。
書庫の連携システムについての今後を話し合ってから、私たちは王宮に帰ることになった。
帰りの馬車。
フィスロと向かい合って座り、ガタゴトと揺られる。
その間、ほとんど会話はなかった。
「……スイ様」
ふと、フィスロが口を開いた。
「まだ王太子殿下にお会いしたいと思っていますか?」
「王太子に? まぁ、ちょっとはそう思ってるよ」
隠されているんだから、それなりの理由があるはず。
きっと、礼拝堂に飾られていた『運命』の絵画が関わっているのだろう。
だから余計に会ってみたい気もした。
だけど。
「これでもっと首を突っ込んだら、きっと司書教諭ライフが送れなくなる……!」
そう。
私の天職・司書教諭の幸せライフの道は遠のいてしまう。
聖女の方が前面に出てきて、司書教諭はおまけみたいになるだろう。
それだけは避けたい。
「スイ様は、そのままでいてくださいね」
そんな私を見て、フィスロがふっと笑った。
どこか哀しげな、エメラルドグリーンの瞳だった。
「……補佐官、辞めないでね」
急に、そんなことを思ってしまった。
フィスロがどこか遠くに行ってしまいそうな。
確かではないけど、それを予兆させるような予感がしたのだ。
「……」
この言葉に、フィスロはただ無言だった。
王宮へ着くと、リンちゃんが出迎えてくれた。
そのまま聖女殿に行くかと思いきや、フィスロは官僚みたいな人に連れていかれてしまった。
残っている仕事があるから、と。
◇
「おかえりなさいませ」
ヒースは、深々と頭を下げた。
出迎えたのは、ルーア王国の王太子。
王位継承権第1位の青年だ。
「視察はいかがでしたか?」
「……頃合いだ」
王太子は、羽織っていた白い服を1枚脱いだ。
縛っていた、襟足の長い銀髪。
それをするりと解き、ソファへ向かう。
「この後、聖女は陛下のもとへ行かれる。きっと、その際に呼ばれるだろう」
「姿をお見せするのですか」
「……いや」
王太子は、その瞳を光らせた。
「聖女の覚悟がどれほどまでか、しかと見極めてからだ」
ルーア王国の平和。
王太子が隠された秘密。
これらを知ったとき、聖女はどんな反応をするのだろう。
「初顔合わせは、そのときでなくても良い。最悪、婚姻式の際でも良いのだ」
「……そう仰られておりますが、本当は心配なのではないですか? 聖女様が幻滅するのではないか、と」
ヒースは、乳兄弟の弟に向かって微笑んだ。
王太子は、困ったように微笑むと、窓へ視線を向けた。
その目線の先には、荘厳に建つ聖女殿。
かつて、『青の聖女』と『緑の王』が造り上げた、平和の象徴。
「……スイ」
初めて敬称を取った名前は、清く透明に空気へ溶けていった。
泡沫のように。




