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解決

 禁書を持ち出した犯人は、誰か。

 持ち出された禁書は、どこにあるのか。


「解決の鍵は、天窓だと思うんだよね」

「確かに、そこが開いていたのが不思議ですよね。書庫なのに」

「うん。もしかして、天窓を開けざるを得ない状況にあったのかもしれないね」


 書庫は、だいぶ薄暗かった。

 明かりを入れるために、窓を開けたのかもしれない。


 図書室の奥の部屋。

 司書さんがお茶を出してくれたため、私とフィスロはごちそうになっていた。

 ちなみに、ヒースさんは帰ってしまった。

 もしかしたら、本物の王太子殿下だったのかもしれない。

 そう思うと、いない方が肩の力が抜けるような気がした。


「天窓を開けざるを得ない理由、ですか」


 司書さんは、カップを手にしながら首を傾げた。


「暗い部屋だとできない作業をしていたり、とか?」

「本棚の整理ですかね」

「確かに、明るい方が作業しやすいよね」


 こんな感じに、3人で悶々と考え続ける。

 犯人の狙いが想像できないし、禁書がどこにあるのかさえ分からない。

 そもそも、結界魔法が張られていたのに、どうやって中に入ってきたんだろう。


「もう1人の司書さんにも、お話を聞きたいですね」

「そうだね」


 今日はお休みって言っていたし、今日は会えないかもな。

 そんなことを思いながら、紅茶を1口すすったとき。


「どうも」


 誰かが部屋に入ってきた。

 短髪の男性は、私を見てびっくりした顔になる。


「あれ、聖女様じゃないですか。どうしたんです?」

「こちら、ネコ好き司書のトアさんですわ」


 司書さんがトアさんを紹介してくれる。

 へぇ、この人があのネコ好きな司書さんなんだ。

 ネコのために仕事を休むなんて、ネコに愛情を全力で注いでいるんだね。


「聖女様は、ここで起きた事件を調査してくださっているんですよ」

「そうなんですか」

「トアさんは、どうしてここに?」


 そんな司書さんの問いかけに、トアさんは思い出したように言った。


「うちの可愛いミアちゃんがいなくなっちゃって。探しに来たんです」

「ミアちゃん?」

「ネコの名前ですよ」


 フィスロがこそっと教えてくれた。

 うーん。なんでも知ってるね、フィスロは。


 あれ、でもなんでここに探しに来たんだろう。

 ネコなんて、図書館に入らないよね。


「それが──」

「にゃあ」


 トアさんが説明しようとしたとき、どこからかネコの鳴き声がした。

 ここには、あと奥の書庫しかない。

 ……まさか。


「この声は、ミアちゃんだ!」


 トアさんは、ぱっと顔を輝かせて書庫の扉を開ける。

 瞬間、何かがちらりと顔を覗かせた。


「あれ、ミアちゃん。それは持ってきちゃだめだよ~」


 扉から出てきたのは、艶々の毛並みを持つネコだった。

 優雅に歩くネコの口には──。


「ありゃ、禁書じゃん。ミアちゃん、もとの場所に戻そうねぇ」

「……お、お」


 お前が犯人かーい!





「ミアちゃんがすみません」


 トアさんは、がっくりと項垂れていた。

 その前には、司書さんが仁王立ちで立っている。


「ネコを飼うのに反対はしません。ですが、なぜ書庫にネコを入れたんです!?」


 ごもっともだ。

 司書さんの剣幕に、トアさんは若干涙目で答えた。


「入れたつもりはなかったんです……。図書館の庭で一緒に遊んでいたら、ミアちゃんがどこかに行っちゃって。今日は、ミアちゃん探しでお休みを貰ったんです」


 トアさんの話を整理すると。

 出勤時にどうしてもトアさんから離れたがらなかったミアちゃんを、トアさんは図書館の庭で遊ばせていたらしい。

 その日の仕事は書庫整理で、薄暗い書庫内を、天窓を開けて得た光の中で作業を行ったそうだ。


「その窓を開けたまま帰ってしまって。書庫はほとんど誰も使わないので、僕もすっかり忘れちゃったんです。その日からミアちゃんがいなくなって、必死で探していたときに、そう言えばネコには効果のない結界魔法を書庫にかけてたことを思い出して、ここに来たんです」


 ネコにはかからない結界魔法だったから、もしかしたらミアちゃんがいるかもしれない。

 そんな考えを持って、ここに現れたのだろう。

 でも、それは遅かった。

ミアちゃんがこっそり禁書で遊んでいたときに、司書さんが来て禁書がないことに気が付いた。

トアさんがミアちゃんを探している間に、王太子殿下にまで話が行く事件になってしまったのだ。


「ごめんなさい!」


 トアさんは、深々と頭を下げた。

 つまり、ネコをちゃんと見ていなかったってことだよね。


 まったく。

 禁書が盗まれたっていうから、すごく張り切っていたのに。

 犯人はネコで、犯猫だった。

 

「……平和だ」


 本当に平和である。


「それが、ルーア王国です」

「誇らしげに言わないでよ、フィスロ。疲れがどっと来たから」


 なんだか、書庫内で必死に解決しようとしていた自分がバカみたいだ。

 まぁ、平和に越したことはないんだけどね。

 やるせない感じっていうか……。分かる?


「聖女、いらないね」

「だから司書教諭だけにしよう! はだめですよ」

「平和なら聖女はいらないでしょ!?」


 そろそろ、司書教諭の方を本業にしたいよっ!




 こうして、王宮図書館の珍事件は幕を閉じたのだった。


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