現場
「禁書ってことは、持ち出しが難しいってことだよね」
王宮図書館。
国内外の本が、ほぼ全て揃った図書館だ。
分類分けをしっかりとされているし、読書空間としても最高な場所。
いつか、ここで1日中本を読みふけりたい。
「そうですね。保管されていたのは、司書しか立ち入ることができない書庫だそうです」
フィスロが、書類を見ながら教えてくれた。
図書館の中をぐるっと見てみる。
大きな本棚がずらりと並んでいて、司書カウンターからは死角が多い。
犯人は、なんらかの方法で書庫に潜り込んで、この死角を利用して逃げたに違いない。
「盗まれた当日には、どなたが図書館にいらしたんですか?」
「私です」
問いかけに応じたのは、壮年の女性司書さんだった。
柔らかい栗色の瞳をそっと伏せて、遠慮しがちに口を開く。
「その日は、本棚の整理を主にやっていて。カウンターから離れることが多かったんです」
「他の司書さんは?」
「あと1人いました。今日は非番で、飼いネコの買い物に行くそうです」
あら、そうなんだね。
ネコは癒されるからおすすめだよ。
そんなことはさておき、図書館の中を調べることにする。
まずは、禁書が保管されていたという書庫へ行こうかな。
*
書庫は、カウンターの後ろにある扉の向こうだった。
司書全員が持っているという鍵を使って、扉を開ける。
「うわ、すごい!」
扉を開ければ、そこは本の香りがぎっしりと詰まった場所。
紙の匂いと、ほのかに香る陽の香り。
書庫には、小さな天窓が付いていた。
「窓があるんですね、スイ様。珍しいです」
「陽が差し込むと、本が焼けちゃいません?」
「えぇ。だからいつもは閉まっているんですけど」
天窓は、開いていた。
向こう側から、陽の光と澄んだ青空がこちらを見ている。
「犯人は、ここから入ったんでしょうか?」
「そうかもね。でも、少し狭い気がする」
「私も、それを疑いました。でも、その窓は小さすぎて人が通れないんです」
確かに、人が通ることができる幅ではない。
ならば、転移魔法で入ってきたという可能性は?
「ここは結界魔法を使っています。悪用されると大変なことになる本も多いので」
なるほど。
そうなると、ますます不可解な事件だ。
王太子殿下にこの話がいったのが、なんだか納得できる気がする。
一歩間違えれば、国全体を危機に陥らせてしまう事件。
次期国王として、解決しなければならない事案なのだろう。
「ねぇ、フィスロ」
ふと、気になったことをフィスロに聞いてみた。
「王太子殿下は、この場にいなくていいの? 聖女の私が解決しちゃったら、王太子殿下の手柄じゃなくなっちゃわない?」
「大丈夫ですよ」
フィスロは、即座に頷いた。
そして、自分の背後の方に意識を向ける。
「王太子殿下は見ておられます。そして、きちんと指示を出してくださいます。聖女様と王太子殿下は、どこかで繋がっているものなんですよ」
最後の言葉は、よく分からなかった。
ただ、フィスロの視線の先には、険しい顔をしたヒースが佇んでいた。
◇
「捜査はどうです?」
スイ様が、司書と話し込んでいる最中。
静かに近づいてきたヒースに、こっそりと話しかけられた。
「まぁ、なんとか」
「なんとかって、お前なぁ……。犯人は分かっているんだろう?」
ヒースは砕けた口調になった。
おもしろそうに眉を上げ、フィスロを見つめる。
聖女補佐官は、淡く微笑んだ。
「これは、聖女様が解決するべきことだ。スイ様の領域だからな」
「そうか。まぁ、健闘を祈る」
そう言って、ヒースはフィスロの肩をぽんと叩いた。
「これは、王太子殿下の事案だからな」
「分かってる」
そんなこと、痛いくらい分かっている。
フィスロは、スイの方へ視線を向けた。
将来の『──様』は、いとも真剣に司書の話を聞いていた。




