ユ:新商品のターゲット層
真っ先にやってきたガチ勢クランは、森一味以外の掘り出し物も購入するために手早く買い物を済ませて去っていく。
次にやってきたのは万能ミニ植木鉢の流行に乗っかりたいプレイヤーだから、これも他の露店に有用な植物がないか確認するために手早く買い物を済ませて去っていく。
つまり、客がじっくり腰を据えて新商品を吟味するのはここからだ。
前二種類の客も見ないわけじゃないし買いもするんだが、優先順位が違う。
そしてそもそもここからはやってくる客層も違う。
何せ、落ち着いたところを見計らってやって来たのは、さっきまで近くで延々とメモにペンを走らせていた集団だからだ。
「知恵の林檎ください」
「……はいどうぞ」
使えるアイテムというより情報を買いに来ている検証勢っぽいショッ◯ー達は、まずは日課と言わんばかりに初手で知恵の林檎を購入。
その林檎をインベントリに入れたり齧ったりしながら、じっくりと品物を確認している。
「……知らない素材があるな。全部買っておくか」
「あ、新刊じゃんすか。1冊くださーい」
「何の本? ……え、理の女神と技術神の昔話? タイムリー……ってか神話じゃん??」
「へぇ~、精神向上のイチゴ……『豊穣神のプライドを守りきった』? なんでイチゴに豊穣神のプライドかかってるんだ??」
フリマは詮索NGだから、検証勢は俺達に質問したくても出来ないもどかしさを抱えながら買い物を続けるしかない。
「え、『封印魔法習得セット』!?」
「はぁあ!?」
「自前で【解析】は必要だが……この小箱が封印になっていて、解くとスキル経験値が入るのか……で、こっちの輝石が魔道具。【封印魔法】が入っていて、これを使って封印のかけ直しができる……!」
「うわ、【封印魔法】の素振り用グッズじゃん!」
「え、すげぇ!? 森〜っ……じゃなくて、この店のヒトすげぇ!!」
いやまぁ森夫婦も別に匿名なんだけどな……
声に出して仕様を確認する事で周りに説明している状態になっていた検証勢達は、他のシ◯ッカー達が声につられて集まってきた事でススススッとまた邪魔にならない位置にスライドした。
にわかに『封印魔法習得セット』が売れ始めて忙しくなったキーナ。
その原因となった検証勢達は、避けた所で購入した新刊を読み始めた。
「……あの、何かのヒントになる神話なのかと思ったら……あの……?」
「これラブコメだな? ただのラブラブストーリーだな?」
「思ってたんと違う……」
「後でダブチーに見せるわ」
すいませんね、その本に関しては本当にキーナの趣味の本だから……実話ではあるんだけどな……
* * *
さて、同盟で壁際に固まって出店している俺達だが……俺達夫婦とアルネブさんの店にだけは、共通の看板が出してあった。
まるで時計を描いたような看板は、魔女集会の物らしい。
文字も無い看板だから、ほとんどの客はちょっと目をやるだけですぐに視線を外すんだが……何人かは看板に目を止めてからキーナとアルネブさんに声をかけるヒトがいた。
「こんにちはー、看板仲間でーす」
「あ、どうもー」
「フフ、こんにちは」
看板仲間……もとい、魔女仲間なんだろう。そのタイプの客には、キーナとアルネブさんはこっそり取っておきの商品を裏から出して格安で売っていた。
「これね、『夢見桜花の花弁』。最近手に入ってね、まだあんまり広めない方がいいかもだから、看板仲間だけ特別に……」
「私も看板仲間向けのランタン作ったのよ、よければどうぞ」
「わ、やったぁ。うちは明日店出す予定なんで、是非来てくださいね」
そう、最近庭に咲いた夢見桜花の素材は、普通に店に並べるのは今回控える事にした。
それも結局は敵対錬金術士関係だ。微睡みの木を素材として探しているなら、この花弁もマズイかもしれないと考えた。
それならユメツツミ豆をお裾分けした時のように、今回は秘匿してくれるだろう魔女仲間にだけ限定販売する事にしたわけだ。
……まぁ予想外だったのは、それをバッチリ検証勢がガン見していた事だな。
「なん……だと……?」
「何かの符丁が無いと売ってもらえない商品が……?」
「くっ、匿名イベントでそれは予想外……っ!」
「闇市かな?」
闇市言うな。
キャッキャしてる妻に後ろめたさなんて欠片も無いだろ。かわいいだけだ。
ショックを受ける検証勢を他所に、キーナは何も気にせず看板に反応する魔女仲間にだけ小さな袋に詰めた花弁を販売していった。
「……! ……!!」
「えっ、なんで? えっ、看板? なんの看板……ど、どういう知り合いなんだ??」
男女のコンビの男の方をひたすらに困惑させていたのが印象的だった。
どういう知り合いかは自分の相方から聞いてくれ。匿名イベントで説明するつもりは無いからな。
次回掲示板回なので1日空きます




