ユ:ボス戦現場で相談タイム
俺達は大急ぎで地上へ降りてネビュラに乗り換え。
全速力で駆け付けたボス戦の現場は……中々にカオスな状況になっていた。
まず近付く途中から見えていた巨大カタツムリのボス。
これが見上げるほどにデカい岩で出来たような巻貝で、病院や大学の建物みたいなサイズをしている。
頭を出していないのにジリジリと前進する速さは、カタツムリらしい速さなんだろうが、本体がデカすぎるせいで『放っておいたらまずいな』とひと目でわかるくらいの速度になっていた。
そしてそのカタツムリの殻に攻撃するプレイヤー達の魔法が、花火よりも激しく降り注ぐ。
さらに地面には、まるで映画スターが歩くレッドカーペットのように、カタツムリの歩く先へ魔法の溶岩が敷かれていた。
薄暗い曇り空の下、上からも下からも輝く魔法の畳み掛け。
((うわぁ……))
MMOのレイドボスだとよく見る光景だ。
怒涛の攻撃エフェクトでボスが見えない。エフォもついにその段階まできたか……ちなみにエフォは、攻撃エフェクトをオプションで非表示にする事は出来ない。ブレイクスルー以降のゲームは、そんな事しなくても処理落ちしたりしないからな。
「頭出たぞぉおおおお!!」
「撃て撃て撃て撃てぇえええええええ!!」
「ヌァアアアアァアァアア!!!」
「倒れなさいよぉおおおお!!」
(盛り上がってるねぇー)
(……ロールプレイ補正でも狙ってんのか?)
……まぁ、ハイテンション筆頭っぽいガルガンチュアさんが見えるから皆つられてるのかもな。やる気があるのは何よりだ。
それじゃあ俺達も参戦して遠距離から撃つかぁ……と思った所で、後方支援よりもさらに後ろから、1人、俺達に向かって走ってきた人物がいた。
「森夫婦。早く見つけられてよかった」
声をかけてきたのは、キーナ曰く『アメリカの大学の卒業生みたいな格好』の、論丼ブリッジさん。
「あ、ロンドン橋さん」
「……論丼ブリッジさんな。……ん? あってる? ……いやあってない?」
「呼び方はロンドン橋でも好きに呼んでくれ。すまないが、森夫婦に相談したい事がある」
俺達に?
論丼ブリッジさんは周囲に視線を巡らせると……戦闘の邪魔にならない位置へ俺達を手招きして、取り出した魔道具を起動した。
即座に展開される【石魔法】と【木魔法】
出来上がったのは……小さな石の四角い小屋、頑丈そうな木の扉付き。
「パピルスが出先で商談に使う簡易防音室だ。中で話そう」
「「あ、はい」」
わざわざプライバシーに配慮した空間まで作ってくれてありがとうございます。
小屋に入って、こっちをチラチラと気にする視線をシャットアウト。
論丼ブリッジさんがランタンで小屋の中を照らすと、小屋と同時に魔法で作られたんだろう、シンプルな木の腰掛けとテーブルまであった。
(防音室っていうか、インスタント休憩所って感じ)
(……本来の用途はそっちなのかもな)
勧められるまま椅子に座る。
論丼ブリッジさんもしっかりドアを閉めて着席……しながら、急ぐように話を始めた。
「悪いな、ボス戦目の前で引っ張ってしまったから早めに済ませる。お前達は、使徒の結晶が出現しているのは把握しているか?」
「はい」
「……掲示板で確認しました」
俺の返答を聞くと、論丼ブリッジさんは「なるほど」と頷いた。
「じゃあ、その結晶には特殊な結界が張られていて近付けない事は?」
「走りながら聞きました」
「……走りながら掲示板見ました」
論丼ブリッジさんはもう一度頷くと、使徒の結晶を囲んでいる結界について、確認のためわかっている事を上げてくれた。
結界は、大きな使徒の結晶の全体を包む球状に展開されていること。地面の下にも及んでいるのを検証勢が掘って確認済。
プレイヤー・NPC問わず、結界を通過しようとするとHPが強制でゼロになること。
魔法もアイテムも、結界に触れると掻き消えるらしい。
「オバケもダメなんです?」
「駄目だった。結界に触れた途端に消えて、拠点の籠へ帰還していたらしい」
「だが」と論丼ブリッジさんはキーナを見た。
「普通のプレイヤーは『死ぬと死に戻る』が、『死んでも動けるプレイヤー』が通れるかどうかは試していない」
「「……あ」」
なるほど?
「冬のフランゴ戦で、そっちの森女が即死から幽霊化して反撃したのを見ていた。なんの作用なのかは知らないが……1デッドしてもリスポーン処理にはならないという事で間違いないないか?」
俺達はチラッと画面越しに顔を見合わせた。
(どうする?『デミ・レイス』の事、言っちゃっていい?)
(相棒の好きにしなー)
デミ・レイスを見つけたのもなったのも相棒だし。
キーナは一瞬考えてから、コクリと頷いた。
「えっと……『デミ・レイス』って種族の特性になりますね」
「……『デミ・レイス』?」
「はい。えーっと……このまま何もしなかったら死ぬって感じの継続ダメージを受けてる状態で、『死んでからもオバケになって活動する』ってイメージで自分に【死霊魔法】を使ったら、めっちゃ注意書きが出てデミ・レイスに種族変更できました」
……あ、論丼ブリッジさんが宇宙を背負った猫の顔になった。
「なる……ほど……それは、俺に言ってよかった内容か?」
「こういう時に困りそうなんで。必要なら公開してもらってどうぞ。ただ、【死霊魔法】は必要レベルがあるみたいだし、デメリットとか注意がそれなりにある種族なんで、そこは実際に確認してください」
流石に全部覚えてないし、と言うキーナに論丼ブリッジさんは頷き、紙を取り出してガリガリとペンを走らせた。
「……では、そういう特技持ちな森女に頼みた……いや、あくまで提案だな。デスペナが発生する可能性があるから、当然断ってもらって構わない」
「えっと……話の流れからして、『即死する壁があるから、1回死んで霊体化する処理でその即死判定を通過して、壁を通れないか試したい』って認識であってます?」
「それであっている」
おお……なんかバグ技に近そうな方法を思いついたもんだな。
ただ、『1回死ねる』っていうデミ・レイスの強みを活かせる方法としてゲーマスAIに採用してもらえるなら、出来そうではある。
(んー、どうしよう? 僕は別に試してもいいんだけど)
(……まぁ、相棒がいいならいいんじゃない)
軽い迷いこそあれど、特に悪感情を持っていない事は論丼ブリッジさんにも伝わったんだろう。
駄目押しとばかりに、報酬が差し出された。
「やってもらえるなら、『面白いもの3点セット』を報酬として出そう」
「やりまぁす!」
早っ。
見事な即答を決めたキーナに、俺は苦笑いし、論丼ブリッジさんは『理解を得た』という顔で頷く。
「……大丈夫なんですか?」
「先にパピルスに話をつけてあるから問題ない」
なるほど……大商人の品揃えがついているなら、まぁ大丈夫なんだろう。




