キ:作戦と不測の事態
集中砲火を浴びるボスの姿をチラ見して、僕らは即座にアイテムで拠点に帰還からのピリオノートへ転移。
巨大カタツムリはピリオ南西のダンジョンから、そして使徒の結晶はピリオ北。方向がほとんど真逆なんだよね。1回戻った方が早いのだ。
再びのピリオから、もう1回ネビュラに跨ってベロニカちゃんのナビで現場へ急行。
以前、小種族と一緒にモグラ退治をした農場の近くに、なんだか様子のおかしい使徒の巨大結晶がデーンと鎮座していた。
(うわー、マッチョのオバケみたいなのが結晶に重なってる)
(……怖)
元は黒いモヤみたいなボヤッとしたヒト型だったらしいんだけど。今は、結晶が赤く燃えるように輝き出したと同時にヒト型の輪郭がはっきりとしたらしくて、半透明の赤く燃え上がるマッチョが高笑いしているみたいになっていた。
(勝利の女神の聖女が言うには、アレが暴走してる戦の神の姿らしいよ)
(へぇ~)
はてさて、戦の神が使徒の結晶を乗っ取ってるのか、使徒が暴走している戦の神の分け身をいいように使っているのか……どっちだろうね?
マッチョ結晶はその全体を包むように、シャボン玉みたいな結界が張られている。あれが噂の即死結界かな。
そして何人かのプレイヤーと何人かの兵士さん達、そして勝利の女神の聖女さんが、結界から少し離れた所に集まって不安そうな顔で結晶を見上げていた。
そんな所へやってきた僕と相棒。
勝利の女神の聖女さんは僕らを見て顔を輝かせ、兵士さん達は敬礼し、プレイヤー達は『来たぞ!』って顔をした。
「お待ちしてましたよ森夫婦さぁーん!」
「論丼から連絡受けてます! よろしくお願いします!」
あ、検証勢が多いんだねここのヒト達。今の所は戦闘が発生してないからかな?
そしてそこにもう1人。
名前と言動のインパクトで脳内に刻み込まれているサモナーさんが1人。
「お久しぶりですぅ、『絶対聖母コマドリ』ですよぉ」
「あ、コマドリさんだ」
「……どうも」
名前からしてコマドリの獣人なんだろうね、背中の羽根をピコピコさせてる、ふんわり清楚系な女の子がにっこり笑顔で僕らに声をかけてくれた。
「バレンタインイベントではありがとうございましたぁ。今日はよろしくお願いしますねぇ」
「あ、はい」
「……よろしくお願いします?」
何をよろしくするんだろう?
その辺の説明はこれからあるらしい。
ロンドン橋さんはボスの方にいてこっちに来れてないから、連絡を受けた検証勢のヒト達が対応してくれるみたい。
NPC達が『なんだなんだ』って顔をしている横を、僕らは検証勢のヒト達に『さぁさぁどうぞどうぞ』って感じに誘導されて、結界の前までやってきた。
う〜わ〜……見上げるマッチョがド迫力〜……
「えっと……まず森女さんに結界を通れるか試してもらうんですけど……あらかじめ、この魔道具を持って行って下さい」
そう言いながら渡されたのは、円盤に魔法陣を掘って魔石が数個埋め込まれた物。
「これは召喚の魔道具でして……これを使うと、絶対聖母コマドリさんが召喚されます」
「「えっ?」」
「はぁい、コマドリが召喚できますぅ」
「……そんなこと出来るんですか?」
「【召喚魔法】のレベルがとっても高くなればぁ、自分を召喚出来る魔道具を作れるようになりますよぉ」
へぇ~、使い道は色々ありそうだね。
しげしげと魔法陣を眺める僕に、検証勢からの説明は続く。
「この魔道具はインベントリに入れておいて、もしも結界の中に入る事が出来たら取り出して使って下さい。地面に叩きつければ発動します。それが成功すれば、中からの召喚は可能って事になります」
「コマドリが中に行けましたらぁ、うちのクランメンバーをコマドリが召喚して結晶を直接叩く作戦なんですぅ」
待機しているコマドリさんのクランメンバーはやる気満々。
「……クランメンバーの召喚も魔道具でやるんですか?」
「いいえ、コマドリが直接魔法で召喚しますぅ。【召喚魔法】のレベルがとってもとぉーっても高くなればぁ、パーティメンバーを召喚出来るようになるんですよぉ」
「「へぇ~」」
【召喚魔法】ってそういう戦略もとれるようになるんだねぇ。
必要レベルは高そうだけど、その分、専門家感が出て面白そう。
「以上で何か質問はありますか?」
「ん〜……特に無いです。相棒は?」
「……特には」
よし、じゃあ説明は終了。
受け取った魔道具をインベントリに収納して……僕は結界の前に立った。
ふぅ~……大きく深呼吸をひとつ。
まぁ僕は直進するだけだから、何も難しい事は無いんだけどね。強いて言うなら、念のためサッと素早く通るようにするくらいかな。
「じゃあ行きまーす」
「はぁーい」
「よろしくお願いしまーす!」
燃えるような結晶を包む、シャボン玉みたいな結界へ……少し下がって助走を──
「あらぁ?【コマドリは許しませんよぉ?】」
ふんわりしたコマドリさんの声。
同時に僕の真横で光る魔法陣。
魔法陣から飛び出した翼の形の魔法が、遠くから飛んできた何かを弾いた。
「なっ……」
「えっ、何?」
……え、今、僕が狙われた?
「アイツよ!」
張り詰めた空気を切り裂いたのは、ベロニカちゃんの声。
「前に追跡して、アタシを撃墜した奴だわ!」
ベロニカちゃんを撃墜って事は……敵対錬金術士と話してた怪しい燕尾服!?
空を飛ぶベロニカちゃんの視線の先で、ガサッと誰かが立ち去ったように茂みが揺れる。
即座にネビュラに跨る相棒。
(追ってくる)
(いいよ、行ってきて!)
相棒とベロニカちゃん、そして誰かが一緒に従魔に乗って追跡していった。
……これはさっさと済ませた方がいいかもね。
「気を取り直して……行きまーす」
「はぁい」
助走をつけて、結界へ突撃!
真っ直ぐ駆け抜けて、体が結界に衝突──
その瞬間、全身にパシンッと何かが弾けたような感覚を受けた。
HPはゼロに。
判定は即死。
体がぶつかった事で、薄い膜みたいな何かがシュワッと蒸発したように感じた。
死亡した身体は崩れ落ちて……それでも霊体化した僕はそのまま前進する。
膜が再び閉じるまでの僅かな合間で、僕は結界を通過した。
「通った!」
「行けたぞー!!」
ワッと歓喜に沸く検証勢。
でも、僕はそれどころじゃない。
怖くてチラチラと確認していた結晶のマッチョが……結界を抜けた僕の方へグルリと振り向いた!
「ピャッ」
うわわわわわ!
インベントリ! インベントリ! 魔道具さん!
慌てて取り出して、半分落としてるような状態で辛うじて魔道具を地面に叩き付けた!
グワッと地面に広がる魔道具の魔法陣。
振り上げられるマッチョの腕。
それが振り下ろされるのと同時に、可愛らしい声で唱えられた魔法の言葉。
「【誰がその鐘鳴らすのかしら?】」
くるりと回って、踊るように結界内に現れたコマドリさんの【召喚魔法】から、ムキムキの雄牛が現れてマッチョの腕を受け止める。
「【空の全ての小鳥たち】、お仕事の時間ですよぉ」
間髪入れずに繰り出される【召喚魔法】
複数展開された魔法陣から、コマドリさんのクランメンバーが結界内へと召喚される。
「ウフフ、アナタはコマドリ殺せるかしらぁ? どうぞ、楽しませてくださいねぇ?」
清楚な見た目で舌なめずりをするコマドリさんは、それはそれは色気満載の迫力に満ちていた。
……もう僕、お役御免だよね?




