ユ:防衛戦、戦闘開始
曇り空のピリオノート。
門の近くでジャック達を連れたキーナと合流。そのまま防壁の外へと向かう。
方角は南。
スタンピードが発生するダンジョンはピリオノート南西の山だ。
(初めて狩りに行った『蚊の山』ダンジョンじゃなかったよね?)
(『蝶の山』な……アレじゃない。蝶の山は西で、今回のは南西)
南西の山のダンジョンから来るから、それを迎え撃つために南と西の門の防衛陣が厚くなっている。
騎士団長の天幕も南だ。
一応、騎士団長の天幕の様子を見に来てみたんだが……
(……周りの兵士さんめっちゃ忙しそう)
(だよなぁ……知ってた)
(ここに重要性が微妙な相談ごとはちょっとハードル高いなぁ……)
急ぎの用事じゃないからな。また今度にしよう。
そっと天幕を離れる……と、近くにやたらとプレイヤーが集まっている場所があった。
(……なんだあれ)
(うん? ……あー、なんだろ?)
人混みの中心にいる誰かが、どうやら魔道具のような物を広げているらしい。
少し経つと、ワァッと人混みが驚きの声を上げながら後ろに下がった。
広がったヒトの円の隙間から、中心の地面が盛り上がって何か形を作っているのが見える。
(……あ、真ん中の小さいのってピリオノートじゃない?)
(マジか)
作られたのは、ピリオノートとその周辺の地形の模型だった。
そして作った当人らしきプレイヤーが、複数の魔道具を同時に展開して、そこへ虫の群れのような小さいちょこちょことした塊を配置して動かしている。
(もしかして、リアルタイムで戦場の状況を再現して見せるつもりなのか?)
(ああ! なるほど!)
だったらすごいな。俺達みたいに状況に応じて動きたいタイプにはかなり助かる。
防衛戦のあいだここから動けなくなるが……操作しているプレイヤーが明らかに職人の格好だ。ベースレベルが低めの職人なら、この貢献の仕方は入手ポイントが高くておいしそうだ。
周りで見ているプレイヤーも同じように考えたんだろう。
魔道具の出所を訊いていたり、仕様を確認したりと大盛況だ。
「こりゃあいい」
「めっちゃ助かりますわー」
「日ノ出桜の方にもあったほうがよさそう」
「何の魔法使ってるの?」
「できれば両方の戦況を同時に見たいよなぁ」
わいわいと賑やかな様子を遠目に見ながら、俺は掲示板の実況妖精スレを開いた。リアルタイムの情報が1番多いのはこのスレだ。
クラン『グリードジャンキー』や『モロキュウ冒険団』はここよりもダンジョンに近い辺りで待機中。
『麗嬢騎士団』は日ノ出桜の都へ。
メイン火力となるだろう戦闘勢は、ピリオノートと日ノ出桜の都に2:1くらいの比率で行っているらしい。
麗嬢騎士団が行っているなら、偏りすぎて瞬時に轢き潰されるような事も無いだろう。
そうして現状把握に努めていた所で……高らかに、角笛の音が鳴り響く。
「スタンピード発生!! 第一波出現の合図を確認!!」
南西の空に、光が一筋打ち上がっていた。
* * *
「行くぞぉおお!! 『エフォのちょっとはー!?』」
「「「「「『ちょっとじゃない!!!』」」」」」
その標語、まだ現役だったんだな……
聞き覚えのある言葉と合いの手を叫んで、待機していたプレイヤーのほとんどが打ち上げられた光の方角へと走っていく。
俺達を含めて残ったプレイヤーは、職人が展開している戦況模型を見ていた。
何で確認しているかは知らないが、ピリオノート南西の山から沸き出した敵を表す粒がうぞうぞとピリオノートへ向かって進み、途中に展開していた小さな塊と正面から激突。
たぶんこの塊がグリードジャンキーなんだろう。激突と同時に、敵の群れが大きく後ろに後退し、かなりの数が消し飛んだ。
「すげぇ〜、どうやってんのこれ……」
「わからんけど分かりやすいわぁ」
同感だ。知らないプレイヤーの言葉に心の中で頷いておく。
立体的に表現されている戦況模型は高低差も分かりやすい。
地上の敵が順当に消し飛ばされているその上空を、恐らく飛行系のモンスターらしき群れが半数くらい殲滅から逃れて飛んでくる。
「飛行系多め?」
「ぽいかな」
「そもそも南西のダンジョンって敵の種類なんだっけ?」
「鳥とイタチと猪とナメクジ。ボスはデカいカタツムリ」
「統一感無ぇ〜」
それな。
……なんて雑談を聞いてるわけにもいかない。
掲示板を確認。
プレイヤーの飛行可能種族は対空防御が薄い日ノ出桜の都に多めに向かったらしい。
つまりこっちは、空中戦が出来る面子が少ない。
(行くか)
(オッケー)
ジャック達をピリオノート上部のドーム防衛をする指示を出し、俺達は二人でネビュラに乗ってベロニカを飛ばす。
(敵影が見えたら箒に乗り換えで)
(ラジャー)
まだ第一波だ。
早めに片付けて次に備えないとな。




