キ:デートからのドッキリ
お店の壁に飾る絵を購入するために。
僕らは1回ログアウトして、風景画とかが買えそうな店を有志wikiで調べてみる事に。
「あるかなー?」
「……あった」
「早っ、どこー?」
「ピリオの図書館の近くに画廊があるって」
「へぇー!」
見つけたのは、NPCが運営している『シルヴァンハーモニー・ギャラリー』
図書館の隣の記念公園に面した所に建物があって、ゆっくり鑑賞して気に入った絵を購入する事も出来るし、スタッフに声をかければバックヤードにある絵を見せてもらう事も出来るんだって。
プレイヤーが作った作品を買い取ったり売ったりしてくれるし、もちろんNPC作品を買う事も出来る。遥々本国から来たって触れ込みの作品とかもあるんだって。
「いいじゃん、ここ行ってみようよ」
「一緒に?」
「一緒に! デート行こう」
「……まぁ美術館的な場所は静かそうだからいいか」
やったぜ!
と、いうわけで……僕らは変装状態で、ちょっと知的な気がするデートに繰り出した。
ピリオノートへ飛んで、すっかりお馴染みになった図書館に向かう道へ。
緑が多くて静かな公園の隣。
画廊は綺麗な白い壁に淡い橙色の屋根がある。1階建ての建物だった。
敷地の入り口付近には控えめに花が飾られていて、時々貴族っぽい高級そうな服装のヒトが出入りしている。
僕らは……まぁ冒険者は戦闘服が正装って設定らしいから、この格好でも大丈夫、なはず。
現にほら、入り口に入って受付しても係員さんに何も言われないし。他の貴族っぽいお客さんも時に悪い反応は無い。
……でも、なんかチラチラ視線は飛んでくるねぇ?
(なんか見られてる……?)
(……まぁ、俺達、NPCにも一応有名人らしいから)
ああ、そういえばそうだったね。
まぁマイナス感情じゃないならいいや。特に声をかけてくるわけでもないし。
僕らは手をつないで、飾られている作品をゆっくりと見て回った。
内装は白い壁に、落ち着いた色の木製の床。
窓の無い通路は光る魔道具で照らされていて、作品を見るのに丁度いい明るさが保たれている。
ここはリアル1週間スパンで飾る作品を変えているらしくて、その時によって彫刻だったり絵画だったりと色々変わる。
今日は運よく絵画の日なんだけど……作品傾向は静物画だった。
(う〜ん、風景画が無いねぇ)
(だな……おっと)
不意に相棒に抱き寄せられて心がキュン。
何かと思ったら、燕尾服姿の男性とぶつかりかけていたのを回避させてくれていた。さすが相棒、好き。
相手の男性もこっちを見てちょっと驚いた顔をしている。
「……これは失礼」
「いえ、こちらこそ」
お互いペコリと会釈。
空間はそこそこ広かったんだけどね、絵に集中しちゃってたかな?
(さてどうしようかなー。瓶とか果物とかが並んでる絵も、雰囲気はあるけどねぇ)
(……あの壁に飾るのはちょっと違うかな)
(だよねぇ、奥行きのある雰囲気が欲しいなぁ。あと、もっと面白い絵がいい)
(うん、だと思った)
と、なると……スタッフに声をかけてバックヤードを見せてもらいましょうかねぇ……なんて思っていたら、ピシッと整った格好をした初老の男性が僕らの所へとやってきた。
「失礼いたします。本日は御来館いただきありがとうございます。私は当画廊の運営をしております、画商の『マルクス』と申します。お二人はもしや……『死の導き手』様と『鎮魂の魔女』様でしらっしゃいますか?」
「「あ、はい」」
ここの運営で僕らをそう呼ぶって事はNPCかな。
僕らが頷くと、マルクスさんはさらに深々と礼をした。
「やはりそうでしたか。城への多大なる貢献をされているお二人のお噂はかねがね……もしもお時間がございましたら、御相談させていただきたい事があるのですが……」
うん? 画商さんが僕らに相談?
(え、なんだろう? ……間違っても商売関係ではないとは思うけども)
(……聞いてみたら?)
うん、それはそう。
僕は出来るだけつっけんどんにならないように気を付けて訊いた。
「えっと……どんなジャンルの御相談ですか?」
「はい、【死霊魔法】についてになります」
ああ、なるほど【死霊魔法】かぁ〜、確かにそれなら僕に相談はおかしくないねぇ。
……でもそれって、ホラー案件だったりしない???
「……怖い話ですか? 怪異とか、そういう?」
「いえ、怖いかどうかは……まだ幼い私の孫も平気な顔をしておりましたので大丈夫かとは思います」
そっか、NPCとはいえ小さい子供も大丈夫な話だったら、まぁ大丈夫かな?
でもそれだとどういう話になるんだろう???
ただ、濁すって事はここで話したくはないんだろうね。
(話聞いてみてもいい?)
(まぁいいよ)
「時間はあるので、いいですよ」
「ありがとうございます。では、こちらへ……」
さらに深々とお辞儀をしたマルクスさんは、僕らをバックヤードへと案内した。
わぁ、裏に入ったら絵の具の匂いが濃くなった。
一応お客さんが見ることもある場所だからか、バックヤードと言ってもかなり綺麗な空間に、布を被せられた絵とか彫刻がたくさん整頓されて置いてある。
画廊の主のマルクスさんは、迷いなくスイスイと奥へ進み、とある木箱の中から布を被っている1枚の絵を取り出した。
「こちらの絵なのですが、本国から仕入れた絵の中に紛れ込んでいた物で……っ!?」
うん?
マルクスさんが絵の布をめくりかけた所で引きつった顔で固まった。
「どうかしました?」
「いえ……その……」
……なんかすごい顔で、僕らと絵を見比べてる?
「えっと……その絵が、相談の内容であってますか?」
「は、はい……その……そう、なのですが……この絵は、魔法に詳しい方の見立てでは【死霊魔法】がかけられているらしく……『近くにいる霊の姿と、その霊がいる場所が絵に描かれる』という物だそうで……」
……ん?
嫌な予感。
だってその理屈でいくとさ……今、その絵に描かれているのって……?
ちょっと固まった僕の代わりに、相棒が苦笑いしながらマルクスさんを促した。
「……あー……なんとなくわかったので、見せてもらっていいですか?」
「あ、は、はい……その…………はい」
恐る恐るって感じに向けられたキャンパスには……画廊のバックヤードにいる変装した僕の姿が描かれていた。
「「わぁお……」」
「そ、その……本国から仕入れた絵の中に紛れ込んでいた物でして。購入したわけでもないので返品しようとしたのですが……物が物なので引き取りを断られてしまいまして……その、処分方法など御相談させていただきたかったのですが……」
困ったような、ちょっと怖がっているような顔のマルクスさんに……僕が言えたのはこれだけだった。
「えっと……僕、ちょっと色々あって、半分オバケで半分生きてるんです」
「……あ、さ、さようでしたか」
「出来れば内緒にしておいてください! その絵、買わせていただきますので!」
「そ、それはもちろん、お客様のプライベートな事は墓までもってまいります! この絵は……仕入れた物でもありませんし処分するつもりでしたので、どうぞこのままお持ちください!」
……こうして、僕らは近くのオバケが描かれる変な絵? キャンパス? を手に入れたのだった。




