ユ:怪しい夢部屋探索中
まずは状況を確認しよう。
夢の中でのスニーキングミッション。
目的は、怪しい飴玉を食べると夢に見る『拘束されて観察される場所』へ辿り着いて何らかの情報を得る事。
俺達の現在位置は、その場所の可能性が高いと思われる夢の中。
広くも狭くもない石造りの部屋。
部屋の中央には通常のヒューマンを1人横たえられそうな診察台のような物がひとつ。壁際には色んな道具が置かれた棚がある。
その診察台がある階を、仮に1階とする。
2階は吹き抜け……というか、壁に張り付くように作られた通路のみ。この通路に俺達はいて、1階の診察台を見下ろせる。階段があるから、そこから診察台の方へと下りる事は出来るだろう。
そしてこの部屋の出入口は……扉が3つか。
今の所、俺の【感知】スキルには近付いてくる存在の気配は無い。ただ、相手の【隠密】スキルが俺の【感知】よりも高かったら察する事が出来ないから油断は禁物。
(とりあえず声は出さないようにしよう。お供への指示は出来るだけ小声で)
(オッケー)
入る前に『静かにするように』と指示をしていたから、同行している面々は皆沈黙を保っている。
まずはここが正解の場所なのか確認しないとな。
(とりあえず、下の階の物調べるか)
(だね)
(足音気を付けて)
(……自信ないから飛ぶ)
飛ぶ?
振り返ると、水面のような揺らぎが音も無くフワフワと浮かんで、ゆっくりと下へ向かっているのが見えた。……ああ、霊体化したのか。
(……うん、それなら足音は大丈夫だけど、服の布とか引っ掛けないように気を付けよう)
(ウィッス)
キーナも俺も、ちょいちょい家具の角とかにぶつかるからな……
俺は普通に【隠密】を使いながら抜き足差し足で1階へと下りた。
ここまで、特に何も無し。【感知】にも反応は無し。
(台と棚、どっち調べる?)
(ん~、棚が高くて台が低いから、僕が台じゃない?)
(……ああ、うん)
そうだな、俺は無駄に身長が高いから低い所の作業が苦手なんだ。見逃しやすい。
逆にキーナは俺より頭ひとつ分背が低いから、俺の目線の高さにある物に気付かない。……まぁ今は飛んでるから関係ないかもしれないが、やってくれるなら任せよう。
棚に並んでいるのは……素材じゃないな、魔道具か? 【鑑定】の詳細は……
【生き様の覗き筒】
この筒を通して対象を見ると、対象が生きてきた過去を覗き見る事が出来る。
代用素材を用いた劣化品のため、一度使うと壊れる。
禁制品であり、国の特別な許可を持つ者でなければ使用は御法度。
冒険者は生誕の神の影響が強い関係で、この魔道具を使用する事は出来ない。
【在り様の見通しルーペ】
このルーペを通して対象を見ると、対象のステータスを知る事が出来る。
代用素材を用いた劣化品のため、一度使うと壊れる。
禁制品であり、国の特別な許可が下りた者と対象でなければ使用は御法度。
冒険者は生誕の神の影響が強い関係で、この魔道具を使用する事は出来ない。
……うん? 冒険者が使えない云々は、プレイヤーに隠遁勢の炙り出しをさせないように使わせないためのこじつけだとして……つまりこれは、NPCが、プレイヤーや他NPCの過去やステータスを知るために使う物って事か?
っていうかどっちも禁制品じゃねーか。アウトだろこの夢。
使い捨てだからなのか、そこそこの個数が棚にストックされているようだ。
禁制品って事は……市場に出回っていないはずだよな?
それでこの数って事は、たぶん自作しているのか。
……もしもこれの素材が分かれば、そこから手掛かりが掴めるかもしれないな。スクショ撮っておくか。
流石にこれを持って帰るのはやめておいた。禁制品が所有だけでアウトだったら俺達が捕まる。
棚は大体そんな感じで……お、1冊だけあるこの本はなんだ?
手に取って開いて見ると、それは手書きの名簿のような代物だった。
……ここの魔道具を使った対象のデータって所か?
これはどうする……? とりあえず保留で。
棚を調べ終わった俺は、診察台を調べているキーナに念話を飛ばした。
(相棒、そっちはどう?)
(ん〜〜、真っ黒?)
(真っ黒かぁ……)
(この台がね、周りにちょいちょい枯れた白夢草の葉っぱが落ちてて……今、枕の端っこをちょっと開けてみたら、中に白夢草の葉っぱがみっしり入ってるのが見えてヒェッてなった所)
(うわぁ……)
でも白夢草の痕跡があるなら、錬金術士関連の場所なのは確定だな。
出来れば実際にその悪夢を見ている誰かを目撃出来れば確実なんだが……
……とか考えていると、【感知】に気配が引っかかった。
(相棒、誰か来る。1階、そっちの扉)
(うぇっ!?)
(隠れて、または動かないで)
(えっと、えっと、上にいる!)
診察台の周りをフワフワしていた揺らぎが、ヒュッと勢いよく天井の梁の上へと移動した。……うん、そこならまぁ、見つかりはしないか。
俺は棚の影に入って動きを止めて息を殺す。
扉の向こうの気配は、徐々にハッキリと聞こえる足音と話し声になっていった。




