#1 湊 夏比の日常
mane gam e in
prologue memory No.1
『湊 夏比の日常』
鳥の囀る早朝。
著作 : 空気
今朝で何度目かのアラームを消す。
イラスト・キャラクターデザイン : 空気
6月と言ってもまだ朝や夜は肌寒いもので、布団が離してくれないから、中々ベッドから出られない。
枕元に置いてある長方形の黒が光に変わると、部屋の中をサイレンで埋め尽くす。
充満する音を聞いても目を開けることはできず、布団にくるまろうと体を身動ぎするが、しつこく呼びかけるその着信に寝ぼけながらも反応することにする。
ここまで来ても目を開けるのが億劫で、躊躇いながらも手探りで四角い端末を探り当てると画面の「通話」と表示された場所を勘で押す。
「はい。こんばんは」
気怠げに夜の挨拶をする。まだ寝てたいから夜なんです。そうさせて下さい。
『おはような?』
通話の相手は俺よりも少し低く、だが、相対的に大きく年齢が離れている様子もない。きっと旭の声だろう。
「おん?」
通話相手の訂正兼、朝の挨拶をとぼけた返事で返す。まだ目を開けたら夜でしたチャンスいけるかな?
『ところで今、何時だと思ってる?』
呆れたような物言いの通話相手は、突然第1問を出題する。
「…………夜中の、2時……?」
カーテンに陽の光が当たって漏れ出た採光が部屋に差し込んでいるのは一旦とりあえず無視して、最後の希望にかけて、トンチンカンな返答をしてみるが、3年ほど連れ添った旭には通じなかったのか、通話越しにため息混じりで正解を発表される。
『平日の朝、7時40分だ。夜更かし野郎』
平日の……朝……? しかも……7時40分だと……?
超絶すーぱー寝起きの俺は必死に思考を巡らせてそっと、通話中の画面を縮小してから端末のカレンダーを開く。
確かに今日は6月の平日。
その平日の朝に現役バリバリ高校生の美青年がまだベッドの上なのだから、流石の俺の目も覚める。
再度耳に着けた端末の向こう側では、風の音。人の声。車の音が溢れ、電話の相手が室外にいることを説明していた。
「待って? 今何時って言った……??」
きっとはたから見たら凄く深刻な表情になっているであろう俺は通話相手の少年に対して次はこっちが第2問を出題する。
『はぁ……もう、俺いつもの場所にいるんだが?』
通話相手のその回答は俺の感情を寝たいから焦りへと変化さるには十分だった。
「悪い、今から行く」
通話相手にそう言い残すと、目もくれずに端末の通話終了をワンタップし、絡まったコードを抜き、ベッドの横に放置したままの青く四角い鞄へ、端末を放り込む。
□■□■
頭はボサボサのまま、服は着崩れていて、シワのついたシャツに、学校指定のズボンを履き終えて階段をそそくさと駆け下りる。
気ほどの通話から丁度10分ほど経った頃だろうか、あまり余裕は無い。そう! ワンチャンの遅刻がリーチで聴牌なわけ!
20分も登校にかかる学校に通学している学生が8時頃にまだ家にいるのだから、焦るのも当然だ。
8時半の始業時間まで残り30分。
駆け下りた階段を尻目に、降りた先の通路側。左手にある扉を開け、部屋へ走り込む。
扉の先は18畳ほどだろうか。開けた部屋にはソファーと大きな机と4脚の椅子。それとテレビ、キッキンが併設されてるリビングが待っていた。
その4つ並べられた椅子の1つに、髪を胸あたりまで伸ばし、まだあどけなさが残っている中学生の少女が座っている。
少女は皿に並べられたトーストを齧りながら、部屋に入って来た俺に対して話しかける。
「あっ! お兄ちゃんおっそーい! 遅過ぎるから朝ごはんは無いよ?」
俺はそんな妹からの報告を無視して最新の人型AIに語りかける。
「Hey、ハル。今日の天気は?」
最新の人型AIこと湊 春比は最新型なので高度な会話を仕掛けてくる。
「今日? うーん。えーっと……じゃあ、晴れで!」
「じゃあってなんだよ」
はなから妹の返事に期待していなかったのでテレビの天気予報欄を確認すると、液晶画面には丁度俺の住んでいる地域の天気が表示され、今日が快晴だとわかるように太陽のマークがニコニコと笑っていた。
「おやおや? 私の感当たってるじゃん」
ケラケラと笑うハルは同じ画面を見ていたようで、俺にやっぱり勘かよと関西風のツッコミをジェスチャーで加えられてから、えへへと照れ笑いしていた。
そんな妹を尻目にテレビ画面の中で読み上げるニュースを注視する。てか、梅雨の時期に晴れは逆張りだったのでは?
『__えー最近多発している連続特殊失踪事件ですが、4年前に失踪した双子のものであると推測される靴が富士の樹海で発見されており__』
『__行方不明者はまだ1人も見つかっておらず、不可解なことも多いことから、警察は誘拐と集団失踪の両方を視野に入れて捜査を進める方針で__』
『__外出する際は充分に気をつけて下さい__』
俺ら兄妹のやりとりを気にすることもなく、液晶画面に映るアナウンサーは最近起きたある事件の原稿を淡々と読み終わると、周りの出演者や専門家に話しを振り始めた。
俺がニュースの内容に耳を傾けて居る時もハルはぼけーっと食パンを齧っていて、そんな妹が心配で話を振る。
「最近また、行方不明者多いよな」
「だよね〜お兄ちゃんも気をつけなよー?」
話を聞いていたのか、聞いていなかったのか、ハルは俺のの心配をする。こいつ分かってんのかねー? こういう奴が誘拐とかされちゃうんだよ? ったく。
そんな稀にある事件の話していたら、急にハルがあっ!と何かを思い出したようにこちらの顔を覗き込む。
「てかさ、お兄ちゃん。学校は?」
「………………」
数秒の沈黙。
余りに厳しい現実だった。
冷や汗が立ち上るのを実感し、急いでコップに入っていた牛乳を一気に飲み干すと、大急ぎでリビングから抜け出し、リビングを出てすぐ右の階段とは逆方向にある玄関へと向かう。
後ろの方から自分の牛乳に口をつけられたことへの恨み言を大声で言われるが、御構い無しに聞いてないことにして履き慣れたボロボロのランニングシューズに足を入れると、直ぐさま玄関の扉を、この家で1番分厚いであろう扉を開け放つ。
□■□■
6月下旬。
梅雨の季節にしては珍しく晴れ間が連日続いているので湿気はなく過ごしやすい気温の中、俺だけが、汗をかいていた。
俺の真正面に現れたと思ったら颯爽と通り抜ける風は走る俺の髪を弄び、肌を伝い、口から肺に新しい空気を流し込む。
そんな季節の情緒とも言える風を浴びているのに、梅雨間のひと時を堪能する余裕はなく、先程の電話相手の待ついつもの集合場所へ向かって一心不乱に足を動かした。
しばらく住宅街を軽やかに駆け巡ると、3車線もある大通りに出る。その一際でかい通りを真っ直ぐ学校方面へ走り続けると、集合場所の目印である傾いた電柱がようやく目に入る。
いつもの場所に到着すると、そこには既に先客がおり、待ちくたびれたように欠伸をしながら、電柱にもたれかかっていた。
「はぁ……はぁ……ぜぇ……はぁ……ぜぇ……わ、悪い旭……寝過ごした」
浅い呼吸を繰り返しながらも息を整え、先程から退屈そうにしている先客に向かって平謝りをすると、先客は大きな溜息をつき電柱から離れる。
「はぁ〜……毎日、毎日怒ってるこっちが疲れてくるわ」
旭。そう呼ばれた先客は鋭い眼光をちらりとこちらに向けると、大袈裟に頭を掻き、歩き出す。
俺ら3人組は中学生からの友達でこの様な遅刻ギリギリチキンレースを毎日のように繰り返している。そのせいで旭も朝のモーニングコールが日課になってしまっているのだから、毎日申し訳ないと思っている。だが、夜ふかしは辞めれません。ごめんね。旭
歩き出す旭の後ろ姿は常に周りを警戒しているせいか、近寄り難い雰囲気を醸し出しており、この雰囲気や表情作り、普段の生活態度のせいで良く不良や職員、警察とトラブルを起こしている。これは中学の頃からで、最初は俺も遠ざけていたが、ひょんなことからこんなにも仲良くなってしまった。
倉橋 奈央曰く旭はね〜全体的にツンツントゲトゲ〜ってしてて、なんだか近寄んなよ? やんのか? みたいなことを喋ってなくても正直な顔と態度さんがぶわぶわ〜とオーラとして出してるんだよ! 左目の痣のおかげで顔も覚えやすいしね〜と評価されているのだが、本人の旭自体は納得しておらず、毎度毎度突っかかってくる馬鹿どもが悪いと言い返している。これも毎度のことである。
新生活が始まって1ヶ月以上も経つのに、みんな変わらないなぁ〜と心の中で親友のざ! 若かりし頃のやんちゃエピソードを気を思い出しつつ、俺も悪目立ちする友人の後を追って学校の方へと歩き出す。
ん? 待てよ? さっき俺のモノローグに3人って……。
「なぁ、旭。そういえば光輝は?」
いつもは3人で登校していたことを電球が光るように鮮明に思い出し、先にいた旭にもう1人の所在を聞いた。
「あ? しらねぇ」
少し嫌そうな顔を隠しもせず旭は素っ気なく答えた。いつも3人で仲良くしてんだからそんな顔しないであげてね。
「俺より遅いの珍しいな〜どったよ」
旭の辛辣な態度はいつも通りなので、気に留めることもなく語りかけ続けると、旭も確かに……と少し訝しむ。
「どっかでリア充共とくたばってくれてればいいが、どうせ学校で合流できんだろ? 気にしても仕方ねぇ、俺らが気にするべきは自分たちの遅刻だ」
「ま! それもそうか!」
2人揃って既に遠くなっていた傾いた電柱を見ながら会話をすると、光輝の存在など忘れたかのように再度雑談を初めて歩き出した。
□■□■
10数分ほど歩くと、目的地である学校が見え始める。
ゴール目前まで辿り着いた時、後ろから大きな声で俺ら2人を誰かが呼び止める。
「おーーい! 待つっすっっっっ!」
振り返ると、金髪長身のこれぞ正しくイケメンですと言わんばかりのヤツが凄まじいスピードで迫り来るが旭はソレをとびきりの睨みつけでお出迎えをする。
「ひっ!」
どこからか関係ない場所から悲鳴が聞こえた気がして、心の中で謝って置くことにした。ウチのツレが愛想悪くてスンマセン。
「うっお! 怖っ! どうしたんすか〜? そんな怒っちゃって、ラムネ要るすか?」
光輝は俺らに近寄るほどにペースを落として俺らと並走すると、鞄からラムネを旭に見せつけるが、軽くあしらわれてしまう。
合流した光輝は俺達と同じように制服を着ているのだが、そのスタイルの良さやファッションセンスから同じ服だとは思えない着こなしをしており、旭とは逆の意味で目立つ存在として周りの目を引いている。やめてね。俺、目立つの嫌いなんだから……!
ようやく合流して一息ついた光輝をここぞとばかり煽ることにしてみる。人をいじるのって楽しいからね! 仕方ないね! うんうん!
「光輝おっそ! 俺よりおっそ! ぷぷぷ〜」
光輝は先程まで走ってきたとは思えない爽やかさを俺達に浴びせ、これまた爽やかと評される声で理由の説明をすらすらと唱えていく。
「いや〜聞いてくださいよ〜……寝坊しただけじゃなくて、来る途中に女の子の集団に囲まれちゃって〜。で、何とか巻いていつもの場所に行ったら、もう、誰も居ないんすもん!」
敬語としてはあまりに雑な言葉使いで今朝あったことを話しながら光輝はわざとらしく肩を落とす。
勿論本人に悪意など微塵もないのだが、旭は耐えられないという表情でそっぽを向く。
「あー! うぜっ!」
旭のシンプルな悪口に対して俺も小ネタ専用のメモ帳を取り出す。
「えー。帰国子女寺島 光輝君は天然の金髪でお顔も良く、総合成績は138人もいる学年のトップ20以内を常に維持。運動成績は学年でトップ3に入る資産家のおぼっちゃまは、ファンクラブの出待ちが理由で知り合いとの待ち合わせに遅れるほど凄いとは。いい御身分ですね」
真っ白なメモ帳に書かれた光輝のプロフィールを音読しながら、嫌味も追加で発表する。
「酷いっすよ! 2人ともぉ! 被害者っすよ、俺! あと、御身分の所は悪意しか感じなかったんだけど?!」
光輝は必死に反論していたが、途中で無意味だと悟り、1人しょぼくれることにしらしい。
□■□■
校門まで来ると1人を中心に車道を塞いでしまうほどの集団が出来上がっていた。
光輝のファン殆どを占めているようで、彼を中心に人だかりができているからだろう。なかなか学校にたどり着けない。
人の数の多さに車道を塞いでいるため、車も移動することができずに渋滞ができる。そんな人集りができれば他の生徒も登校できなくなるので更に人は増えている一方なのだが、1人だけその人集りに揉みく者にされていない人物がいた。
人混みにもみくしゃにされて俺と光輝は全くことの大きさに気付けなかったのに対して、周りになぜかできたスペースのおかげで状況を把握していた旭は俺に目配せをする。
「旭!」
俺が旭を呼ぶ合図と同時に旭は強引に光輝を担いで校舎内へ入れることでなんとか警察沙汰にならずにことなきをえた。
□■□■
ラブレターがパンパンに詰まった下駄箱を開け、溢れ出す手紙にあたふたする光輝を尻目に置き去りにしようとする俺とと旭の背中を勢いよく叩く新勢力が現れる。地味に痛いこの感覚。知ってますよ〜。
「おっす! 夏比! 旭!」
振り返ると、思っていた通り! 髪を軽く巻き左目と唇の左下にホクロがあるのが特徴の背の低い活発そうな女の子がニコニコしながら俺ら2人に手を振っていた。
「おはよう、倉橋。今日も無駄に元気が有り余ってて羨ましいんだけど、地味に痛いから叩くのヤメテね?」
俺の発言を聞いた倉橋は大袈裟に頬を膨らまし、腰に手を当てて怒っているアピールを始める。
「無駄とは何さ、失礼な! 夏比はさ〜、な〜んでそんなに余計なこと言っちゃうかなぁ?」
倉橋に挨拶されたもう一方の旭はというと、倉橋に挨拶も返さず目の前の階段を上がっていく。
「いつものことだろ? もう諦めろって」
こなれた2人の会話にツッコミを入れる旭の様子を見て倉橋はとクスクス笑いながら、俺ら後を追って3人で階段を登り始める。
「ところでさ〜毎回思ってるんだけど、光輝の下駄箱は毎日あんなに色々詰まってて壊れたりないのかなー?」
「「今年でもう2回壊れてる」」
旭と息ぴったりで倉橋の疑問に応えると、丁度階段を登り切るところまでやって来ていた。
階段を登り終えるタイミングを見計らっていたかのように学校のチャイムがなると、学校全体にこだまする。
放送委員の生徒が音質の悪い朝の日課を校内に送り込むと、たわいもない記念日の話に花を咲かせ終わると、校内放送の終了の合図であるチャイムを学校中に響かせ、何事も無かったかのように音は止まる。
その頃には騒がしかった廊下の声も疎らになり、教室の外が静かになることろには時計の針が午前8時30分を示していた。
俺らも各々の教室へと赴き、事業の支度を始める。
結局、光輝は遅刻した。
□■□■
昼休みの教室は、事業中とは打って変わってかなり賑やかで、その騒々しい数ある教室の1つの端っこの方で俺らはいつも通りに、昼食後の雑談をしている真っ最中だ。
椅子と机を寄せあってあるゲームについて絶賛大盛り上がり中なのである。なんてたってあのラスゲーの話だからね!!
「見たっすか?! 昨日のラスゲーのアップデート0.10.0.0の公開情報! ついに新スキル詠唱破棄とコア武器が導入決定!」
この日を待ってたんすよー!と椅子から立ち上がり大興奮に語る光輝の目にはよく見るとクマができていた。
「お前……まさかとは思うが、そのせいで寝坊かぁ?」
光輝のクマに気付き空かさず呆れ気味にからかいながら言い寄りると、それまで話を聞くだけだった旭がギロリという効果音がにあうほど、後期を睨みつける。
「ギクっ?!」
光輝は分かりやす過ぎる反応を声と表情で表すと、謝罪をしながら席に座る。
「ゲームで寝坊って、小学生じゃあるまいに〜! 流石の俺でも途中まで見て、後は録画ソフト回したぞ……」
俺の寝坊はまだ光輝に知られていない。なので、隙を与えずにドヤ顔をしながら自分を棚に上げて行くスタイルをじっこうしていくのさ!
「お前も見てたの……」
「ちっ! ちっ! ちっ! 甘いっすね! 夏比! 本当のファンというものは録画回しながら生でも見て、次の日には暗記しとくもんすよ!」
俺の発言に呆れをとうに通り越したのか、なんとも言えない表情の旭がツッコミを入れようとするが、大絶賛大興奮中の光輝の声で遮られてしまう。誰か止めてね〜このオタクくん。
「限度を考えなきゃ……この馬鹿みたくなるがな!」
自分の声を遮られた腹いせと言わんばかりに、横目で睨む旭にトドメを刺された光輝はグフォ!と喚わめきながら膝から崩れ落ち、どこから持ち出したのか、ずーんというフリップを掲げる。
「で? お前達がそんなに熱中してるその、ラストゲームってのはなんなんだよ……」
この中で唯一ラスゲーをプレイしていない旭はなんのこっちゃかわからないらしくコチラに解説を求めて来た。
「なぁにぃ?! あのLAST GAME project(仮)を知らないだとぉ?! 解説してやろう! LAST GAME project(仮)とは! 日本だけで約3000万人のプレイヤーがこのゲームをダウンロードしているといわれている大規模多人数同時参加型ロールプレイング。いわゆるMMORPGと呼ばれるPCゲームのことだ!」
オタク知識全開で旭にラスゲーの概要を説明してあげると、こちらが好きを与えてしまったために、新手のオタクくん。光輝がそれに参戦してくる。
「そうっすよ! しかも! 中高生〜40代と幅広い年代の間で人気を誇り、サブストーリーの豊富さ、設定の濃さ、グラフィックの綺麗さ、自分だけのアバターを細かく作れる事に加え、箱庭要素も備わった自由度の豊富さを売りにした作品で、ゲーム名に(仮)と着いているのは『このゲームの完成版にはVR機能が埋め込まれる予定となっており、VR機能が搭載していなければ完全版とは言えない』と言う公式サービス会社の発表から来ていて、尚且つ、このゲームが完成すれば世界初、視界だけではなく、神経全体で味わえる完全virtual機能のゲームとなるため、ゲームユーザーは勿論のこと、各国の技術者にも注目を集められている作品なんすよ!!」
早口にまくし立てる俺達2人を尻目に興味無さそうにする旭は最後に衝撃の事実を発表し、俺達をざわつかせる。
「今日にでもダウンロードしとくかぁ……」
一大事である。今まで散々右から左に上層を素通りしてきた男が?! 今?! なんて?!!!
そんな俺らの興奮を冷ますように、お昼休み終了のチャイムが教室に紛れ込んできた。
俺ら3人は無言で席を片すと、各々の教室へ戻って行った。切り替えは大事なのである。
□■□■
そんな興奮冷めやらぬ今日の放課後。
下校中。俺、旭、光輝、倉橋の4人は暗黙の了解でどこと言うでもなく、待ち合わせをして帰り、途中にある倉橋父が経営する喫茶店にお邪魔するのが習慣化しているのだった。
旭が光輝に文句を垂れ、俺がそこに割って入り、旭をさらにおちょくる。それを旭がさらに怒り、倉橋がそれを見て笑う。そんなたわいもないいつも通りの帰り道。
なにか間違いがあるとするならば、俺が見てしまったことだろうか。
今日はハルの校外学習の日のはず。遠くに友達大勢と泊まりなんてと散々自慢していた妹がこんな家の近所にいるはずが無い。
県外にいるはずの妹が、しかも、よりによって、人気のない人2人が入れるかどうかの路地裏に入っていくのは不可解過ぎる。
唯の見間違えならいいけど、ハルが入る瞬間に感じたこの言い知れぬ違和感はなんだ……?
背筋を伝う冷や汗がさかのぼるこの感覚を払拭しなければという使命感に襲われ、仲間達に問いかける。
「なぁ、今さ、ハルがそこに入っていかなかった?」
他の3人は俺の発言を聞いて何か妙な顔をしたけど、その真意を確かめている余裕は俺にはなかった。
「は? 何言ってんだよ。今日から春比ちゃんは校外学習で泊まりなんだろ? 今更県内にもいねぇって、見間違えだろ。勘違い」
旭の言う通り見間違いだと思いたいが、自分が見たのが見間違いだとも思えず、路地裏へと向かう足を速める。
「やっぱ俺、気になるから、ちょっと、見てくるわ」
足が次の1歩を踏み出そうとした時、光輝に肩を掴まれて、繰くり出した足の踏み場を失ってしまう。
「あの路地裏ってすぐ行き止まりだし、このまま歩いて行けば覗けるんだから、今行かなくても良くないっすか?」
3人は、どうも俺を行かせたがらない様子だが、そんな事は関係ない。大切な家族に何かあってからでは遅いのだ。
「な、なんだよ……なんでちょっと軽く本気で止められてんの? 怖いよ。 逆に直ぐそこなんだから光輝達が俺にすぐに追いつくでしょ」
そこまで言ってやっと光輝が手を離す。
「そ、そっすよね〜。あははっ。なーに焦ってんだろ、俺。あー、でも、ほんと、気を付けるんすよ?」
念押しする光輝にグッドサインを示して、倉橋に鞄を投げ渡すと、路地裏へと向い、駆け出す。
早く向かわなければと言う使命感と、何か嫌な、モヤモヤとした違和感と振り払おうと、俺の足は普段軽く走るよりも少しだけ早まっていた。
路地の角を曲がり、駆け込むように路地裏へと足を踏み入れる。
駆け込んだ先。視界に入ってきたのは、普段そこにあるはずの路地裏の光景ではなく、空を遮る物がある訳でもないのに、陽の光すら届かないような真っ暗な暗闇が広がっていた。
□■□■
夏比が路地裏へ入った瞬間の周りの不自然な程の静けさは、俺達の不安感を煽った。
残された俺達3人は何かを発するでもなく一斉に駆け出し、夏比が入って行った路地裏へと顔を覗かせる。
路地裏へと入った俺の視界に映るのは、数メートル先で巨大な壁に阻まれ、2人の人間がギリギリ入れるかどうかほどのなんの変哲のない小さな路地裏だった。
唯、そこには湊 春比の姿は勿論、湊 夏比の姿は無かった。
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