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パロディアスの牙001・ザファイブ地方編  作者: デウスXマキナ
ザファイブ地方編
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第12話 旅の合間の羽根休め

 アイの繰り出す機械ミミズ──ダンジョンワームと、魔物のサイコメットーラーの『メット』との熾烈な戦いは、後者の勝利という形で幕を降ろしたのであった。

 こうして、メットにもベストロット皇国にスカウトされて、そこで働けるという好機が訪れたという事なのである。

 当然、その事にメットは心躍らせる所であるのだった。

「アイ様、オレもあなたの皇国で働けるようになるんだよな? それじゃあ、毎日高級ドッグフードにもありつけるし、頻繁にフリスビーで遊んでもらえもするんだよな?」

「う、うむ……そうじゃの」

 そんな好奇心旺盛な態度を見せるメットに、尚も微笑ましいものは感じつつも、その望みのものの内容には少々閉口してしまうアイであった。

 ──折角チャンスを掴んだのに、目標が些かせせこましいのではないか、と。さすがは犬という事なのだろう。

 だが、当然アイはその思った事を口にする事はなかったのであった。

 何故なら、彼女は人一倍個性というものを尊重するからであった。それは、人も魔物も変わらない事なのである。

 彼女は、目標やこだわりというものは、人──もとい魔物も──それぞれであると考えているからだ。だから、例え自分の価値観では実感出来ない事であっても、その者の大切にする事は尊重するのが当然だというのが彼女のモットーなのである。

 この事は、口で言うだけなら実に簡単に思われるかも知れないだろう。だが、現実ではそうはいかないのだ。

 もし指導者がエゴイストであれば、断じて相手のポリシーやペースというものは考えないものであり、『自分が必要と考えていないから他人にも必要ない』とか『自分が平気だから他人も平気で、他人がそう感じていないのは逃げである』等と言った自分本位な方針を平然と推し進めていくものなのである。

 だから、アイは自分と関わる者が大切にしているものは、例え自分が実感出来なくても、とても重要なものであるという事を常に頭の片隅において言動を選んでいるという事なのであった。

 なので、彼女は自分に勝って好機を掴んだメットには、自分の皇国にスカウトした際には、是非とも高級ドッグフードやフリスビーキャッチの遊びを心ゆくまで堪能させてあげたいと考える所であるのであった。

 なので、アイはその気持ちをしっかりと胸に宿しながら、最後の確認の意味を籠めてメットに言うのであった。

「ではメットよ。これからのお主の我が皇国での働き、実に期待している所であるぞ」

 その言葉は、確かに彼女自身にはメットの理解出来ない所はあれど、その事を踏まえても紛れもなく『アイの本心』からくる嘘偽りのないものであるのだった。

 そんなアイの真摯な姿勢がメットにも言葉そのものだけではなく、彼女の立ち振る舞いから感じる事が出来たのであろう。メットは嬉しさが心の奥底から湧き出るように感じ、その気持ちに素直に応えるのであった。

「勿論です、アイ様。オレ、あなたの皇国で恥じる所のないように懸命に働かせてもらうよ!」

 そう言ってメットは、思わず彼女の前でぺこりと一礼、お辞儀をして見せたのだった。

 こうして、アイの皇国の財政貧乏解消と、メットの新たな役職保証が同時にこなされ、またアイの目標へと一歩近づいていったのである。

 そしてこのように例のように『互いに得をする』やり取りを決めたアイは、ここでの用も済んだ事だしと、そのまま洞窟を出る意思を示すのであった。

 すると、ここでメットから話掛けられるのであった。

「あの、アイ様……」

「なんじゃ? わしらのザファイブでのお供はすでにリンがいるからの。残念ながら定員オーバーじゃよ♪」

「いや、旅のパーティは四人がセオリーですから、丁度いいんじゃない?」

「しかしな、小説で登場人物を喋らせるにはちと多い人数なのじゃよ」

「…………」

 そんな二人のやり取りを聞きながら、ここでミナトは決心して切り出すのであった。

「お二方、メタ発言はその位にしておきましょう。こういう流れだと、読者の中には現実に引き戻されるって思う人も出てくるでしょうし……」

「そういうミナトあんちゃんこそって感じだよ今の」

「うっ……」

 そうメットに指摘された瞬間、ミナトは自分でもやってしまったと思う所であったのであった。

 どうもこの少年、戦闘の実力はもとい、こうしたやり取りでも抜かりない強かさを感じさせるものであるのだった。こうなってくると、将来が末恐ろしいというものであろう。

 そのようにミナトが彼に密かなライバル心めいたものを抱くのをよそに、メットは話を戻すのであった。

「でも、心配はご無用だよアイ様。オレが同行したいのは、洞窟の出口までって訳だから。この洞窟は些か人間には窮屈だろうから、早く出たいだろうと思ってね」

「それは気が利くのう♪」

 そんな少年なりの精一杯の配慮に、アイは素直に嬉しくなって称賛の言葉で以て返す。

 そして、その洞窟に関しての餅屋なメットの案内の下、一行は無事にその外まで案内されていったのであった。


◇ ◇ ◇


「メットや。ここまでお見送り感謝するぞ」

「お安い御用ってものでしたよ☆」

 アイにお礼を言われるメットは、そう軽口で以て返すのであった。

 何せ、彼にとってこの洞窟は自分の庭のようなものであったのだから。だから、今アイ一行を案内したのは、正に人間の散歩と同じような感覚に過ぎなかったのであるのだ。

 そんなメットに対して、同じく森を自分の庭のように扱えるリンはそこに共感出来る感覚というものがあったのだ。なので、ここはその気持ちが分かる者として彼に言葉を掛けるのであった。

「でも、自分が慣れているからといっても、僕達の為にやってくれた……その事が僕達は嬉しいんだよ、ネット君♪」

「リンちゃん……」

 そう言われて、どこかメットは頬を赤らめるような立ち振る舞いをするのであった。

 先程アイの遣いと激戦を繰り広げた者であっても、彼は無垢な少年であるのだ。だから、異性の女の子から褒められるという事にドギマギしてしまうのは至極真っ当な感性と言えるだろう。

 そんな甘酸っぱい気持ちの余韻に浸りながら、メットはここで締め括るかのように言い切るのであった。

「みんな、今日は楽しかったよ。だから、ありがとう。ここから先の旅には僕は着いて行けないけど、是非とも満喫していって欲しいな?」

 そうメットは少年ながら、なけなしの心配りをアイ達に示すのであった。そんな彼に応えるべく、アイはこういう行動に出た。

 彼女はおもむろにメットのヘルメットを外すと、そこに現れた生の彼の頭を撫でて見せたのであった。

「あ……」

 その突拍子もなく見えるアイが自分に施してくる行為に、メットとて思わず呆気に取られてしまう所であるのだった。

 そして、頭を撫でられるというのは、犬である自分にとって、とてもこそばゆく心地よいものがあるのであった。その事をちゃんとアイは配慮して今の行動を行ったという事なのである。

 そのようにしてメットを心地よくさせながら、アイはそこへ畳み掛けるように彼に言うのであった。

「メットや。こちらこそ有意義な時間を過ごせたよ。お主のような者をスカウト出来て、わしは大満足というものじゃ。──勿論、わしとてお主と過ごした時間は『楽しかった』ぞ♪」

「アイ様……」

 頭の毛並みを撫でられながらこの台詞である。なので、メットは堪らずに思わずその犬耳をピクンピクンと跳ねさせてしまうのであった。

「あ、何か可愛い……」

 そんなメットの反応に、割と見た目通りに犬好きであるミナトは、思わず何か心打たれる譲れないものを感じてしまっていた。

 そして、そんな愛玩動物を扱うようなアイのメットへの接し方も終わり、元通りにヘルメットを彼の頭に被せてあげてから、にっこり微笑みながら彼に言うのであった。

「それじゃあの、わしらは旅を続けるからの。ここでお別れじゃ。今度はお主とは我が皇国で会おうぞ」

「はい」

 こうしてアイとの取り決めにより自分の新たな人生が始まる事を確信して噛み締めながら、メットはアイ一行を見送った。


◇ ◇ ◇


 そして、メットと別れた一行は再び旅路に着いていたのであった。そして、今の状況を彼等は哀愁感で以て受け止めていた。

 その今の心洗われる状況とはこの事なのであった。

「父さん、とても綺麗ですねぇ~」

「うむ、そうじゃのう。こうも見事な『夕焼け』はのう♪」

 そう、今は黄昏時と表現すべき、太陽が地平線に沈み見事なオレンジ色の芸術を辺りに生み出されている時間帯なのだ。

「僕も、この時間はしんみりして落ち着きますね♪」

 リンも二人に便乗したように、この夕焼けという時間帯を嫌いな者はそうそういないというものであろう。これは、この世に生きる生き物が進化の過程で備わった本能的なものなのかも知れない。

 そのようにして、三人は今の貴重な一時に、精神的に舌鼓を打つ所なのであった。

 だが、この時間がやってきたとなれば、次に目を向けない事があるだろう。

 そう、夕刻時がやって来たという事は、じきに辺りを闇に包む夜というものがやってくる事も意味しているのだ。

 そのような状況下になれば、当然旅を中断して身を置ける場所へと行かなければならないだろう。緊急時でなければ夜の旅など避けなければならないのだから。

 このパロディアスではそんな夜の旅も出来る仕様にはなっており、加えてもし一夜を明かす場所を見付ける事が出来なかったら、この星自体がそんな冒険者に手助けをするように出来ているのだ。

 無論、それは星としても緊急時の対応となるので、普段からそのような投げっぱなしの無計画な旅にならないように、その時には『相応の対価』を要求する事となるのだが、それままた別の機会に触れる事としよう。

 そう、今のこの『村雨アイ一行』も、夜を過ごして次の日の朝を迎える為の、憩いの場所が必要なのであるが。

 どうやら、彼等にはその心配はご無用という事がその台詞から伺う事が出来るのであった。

 ここで口を開いたのはミナトである。

「父さん、もうすぐですね。このザファイブ地方でお世話になる寝床のある場所は?」

 それに対して、アイも同意をする。

「そうじゃな、もうすぐ辿り着く事じゃろう」

 加えて、この地方限定での新たな旅のお供であるリンもそれに賛同するのであった。

「そういう事です。そこは僕のオススメですよ」

 そのように話していると、彼等を夕陽を纏いながら出迎えてくれる場所がそこにはあったのであった。

 その場所の名前を、リンは口にする。

「いよいよ着きましたよ。『ログホテルビレッジ』に♪」

「おお、ここがのう……」

「へえ~……」

 そうリンに紹介されて、アイとミナトの二人も感心する所であるのであった。

 それだけのポテンシャルを、この場所は持っていたという事なのだ。

 その『ログホテルビレッジ』は、まず雄大な森の中に存在したのであった。それにより、自然の中に住居が存在するという解放と安息が両立された、羽根を休めるのには正に理想の存在なのだった。

 それに加えて、その居住区の建物の造りは、全て──『ログ』が示す通り──丸太を拵えて造られたこれまた自然味溢れる仕様となっていたのだ。

 それに加えて、もうすぐ夕刻の時間から夜の帳が落ちる前の時間であるが故に、その丸太製の建物達からは淡いオレンジ色の明かりが漏れていて、これも幻想的な様相を更に芸術的に引き立てていたのである。

 こんな甘美な出迎えに、興奮しないミナト達では無かったのであった。

「こんな素敵な場所が、これから僕達が泊まる場所という事なんですよね?」

 普段は大人しげなミナトも、この時ばかりは外見年齢相応の少年らしいはしゃぎ様であるのだった。

 そんなミナトに微笑ましさを感じながら、アイは彼に言葉を返す。

「そういう事じゃよ、ミナト。こういう贅沢が出来るのも、旅の醍醐味というものじゃろう?」

 そのように話を弾ませる二人に、リンも便乗する所なのだ。

「そうでしょう。この場所は僕のお気に入りですから、お二人にも気に入ってもらえて嬉しいですね♪」

 このようにして、彼等を出迎えた素敵な丸太の宿屋区画に対して、三人とも異を唱える事なく皆満足を感じる所であったのだった。

 だが、ここである問題に気付く読者もいる事であろう。

 そう、金銭面の問題である事は疑いようもないのだ。当然宿泊するとなると、その施設の性能に応じた金額出費というものが発生してくるのである。

 しかし、これまたこの惑星パロディアスは既に対策済みであるのだった。

 それは、冒険の最中に魔物と戦ったり、星が用意した試練をクリアしたりする事により『ポイント』が溜まっていき、そのポイントに応じて宿泊が金銭の出費をせずに行えるという代物であるのだった。

 要は、我々の知るRPGで置き換えて説明すると、『その旅で獲得した経験値に応じて宿屋用の宿泊費とする事が出来る』という、時は金なり……ならぬ、経験値は金なりというシステムが導入されているという事なのである。

 当然このシステムは、現在貧乏皇国皇帝まっしぐらの村雨アイには正に渡りに舟であるのだった。

 彼女はふざけた振る舞いが多いように見えて、皇帝の権限を利用して宿泊費をちょろまかすような考えは持ち合わせていない律儀な性格をしているので、ちゃんと一冒険者のルールを守れるこの制度はとてもありがたい所であるのだ。

 そんなアイにうってつけのシステムである、パロディアスの宿泊システム。要は、このシステムがアイにとって初めて活かされる機会が今正に迫っているという事なのであった。

 なので、後彼女がすべき事は決まっていたのである。その事をアイは一同に言う。

「それじゃあ、これから今日の宿へと向かう事にするかの?」

「それがいいですね」

「同じく」

 無論、その意見に反対する者はこの中にはいなかったのであった。


◇ ◇ ◇


 そして、意見の決まった一同は、その足でお目当ての宿へと向かうのであった。

 このログホテルビレッジは、旅の合間の宿泊の為に作られた居住区である為に、そのどこの宿もクオリティーが高いのであった。

 しかし、そんな中でも宿探しをするというのは、旅において楽しみの一環となる事であろう。

 なので、一同はそのワクワク感を満喫出来る一時を味わうに至っていたという事なのであった。

「父さん、どの宿にしましょうか?」

「そうじゃのう、どこも良さげな宿に見えて困るのう」

「現に、どこも良い宿ですからね。冒険用の宿にハズレなんてありませんよ」

 リンの言う通り、もしそのような宿があれば真っ先に廃業となってしまうだろう。それだけ宿業界は凌ぎを削り合っているが為に、どこも抜かりのない仕上がりとなっているのであった。

 そうこうしていると、アイの目にある一つの宿が飛び込んできたのであった。

 それを見ながら、アイはふと思う。

「これは……」

 そう彼女が思わず呟いてしまった理由。

 それは、この宿が皇国の自分の城の入り口を思わせる外装であるからだったのである。

 勿論、皇帝の城などという大それた代物に対して、庶民の手で造ったものがそう簡単に対抗出来るものではないのであるが。

 それでも、彼女はその造りに懐かしさを感じてしまったという事なのであった。

 その事をミナト達に説明していると、ミナトはここでにまぁっと彼らしからぬ粘着質の笑みをアイへと向けながら言うのだった。

「父さん、それはかなりの確率で『ホームシック』の気があるとおもいますよ♪」

「むぅ……、そうなのうかのう……」

 そうミナトに指摘されて、アイは思わず唸ってしまう所であった。

 それは自分には余り自覚の無い事であるのだった。だが、現にこうして感性に現れてしまう辺り、無自覚の内に『我が家』が恋しくなっていたという事なのだろう。

 この辺り、元の姿と魂は成人男性であるアイでも、その姿は九歳の少女であるが為に、知らぬ内に肉体年齢相応の感情というものが沸き上がっているのかも知れないのであった。

 なので、ミナトはこれ以上アイを茶化す事なく、彼女に同意の心を見せる事にしたのである。

「父さん、別に恥ずかしがる事はないですよ。幾ら父さんが『父さん』であっても、今は九歳の女の子なんですからね」

「うぬ、ここはミナトには一本取られた感じじゃのう」

 ミナトに嗜められながら、アイは素直に自分の敗北(?)を認める事とするのであった。

 彼女は、今の自分に抗う事はしないのがモットーであるからだ。でなければ、少女の姿で今まで過ごして来る事など出来なかっただろう。

 そんなやり取りを見ていたリンも、その意見に同意する。

「そういう事ですよアイ様。何事も『自然』が一番だって事ですよ♪」

 その考えは大切な事であろう。

 我々の地球では、世の中のエゴイストはその時点で自分の満足に敵わない人がいれば、その人を一から作り直させてしまおうという歪んだ感情を抱く事が多いのである。

 そう、それは正に自然なものを捻じ曲げるような感情なのだ。

 だから、そういうエゴイストと関わっていてはその人達はありのままの自分を肯定出来ずに、自分を見失ってしまう危険性があるのである。

 だから、そのようなエゴイストとまず関わらない事が幸せな人生を送る上で最も重要な事なのであるが、これはまた別の話である。

 今のこの話の場合は、こうしてアイが自然な自分の感性に正直になった、この事が重要という訳であろう。

 その事をアイに分かってもらえたリンは嬉しい気持ちとなっていた為に、少々悪ノリをしてしまう所であったのだった。

「だからね、僕もノーパンの自分自身が自然だと思うから、これを曲げる気はないって事ですね♪」

「いや、その場合は少し人工的になりましょうよ……」

 幾ら自然が一番だと分かったかと言って、公序良俗に反するものまで自然と認めてしまうのはどうなのかとミナトは思う所であったが。

 そもそも生き物は自然から生まれたのであるから、ある意味ではパンツなどいう反自然な産物は身に付けるものではないのかも……知れないが、それはそれで問題があるだろう。というか、人間の法律の上では不可能という概念である。

 だが、それでもリンはどこふく風という感じであったので、ここでミナトは彼女に指摘をするのであった。

「そういえば、リンさんはどうするのですか? その、ノーパンのまま宿泊って……」

 それは至極当然の指摘といえよう。だが、彼女はアイ一行に同行を決めた時点で、既にその問題は解決済みであるのだった。最早そこにQandAは不要であったのだ。

「ふふふ、ミナトさん、その心配には及びませんよ♪」

「と、言いますと?」

 そう勿体ぶった言い回しに、ミナトは疑心暗鬼になるのであった。

 どういう解決策であるのだろうか、と。彼としてはリンが宿に泊まる際にパンツを穿く事を一番望んでいるのだが、この怪しい流れだとどうもその願いは叶いそうにない事は彼にも分かっていたのである。

 そして、その疑念は現実のものとなるのであった。その最終宣告を、リンは高らかに告げる。

「それは何を隠そう、この『ログホテルビレッジ』ではノーパンでの宿泊もOKしているのですよ♪」

「はい、寧ろ隠さずに済んでしまうという事なのですよね、分かります」

 その事を悟ったミナトは、この世の理不尽の色々を呪うしかなかったのであった。

 加えて、ミナトはここで悟る事もあったのである。

「つまり、リンさんはそれを狙って僕らをこの宿泊区画へと案内したって事になる訳ですよね?」

「その通り。それも僕がこの場所をオススメした理由の一つなのですよ♪」

「はい、分かりました」

 この瞬間、ミナトは自身の敗北を認めるのであった。と言うか、これ以上この破廉恥が歩いているような娘とやりあっても不毛なだけだと諦めの境地に入ったというのが正しいだろう。

 そうどうでもいい勝利を飾ったリンは、更に自身の意思に反して少々はしたない目を見せてしまうのであった。

 そして奏でられたのは、ゴムを引き絞るような独特の音。通称『腹の虫』の音であるのだった。

「あ、ごめんなさい……」

 その、空腹を本人の意思とは関係なく告げる現象を許してしまったリンは、ここで思わず顔を赤らめてしまうのであった。

 野性味溢れるスタイルであるリンとて、その実態は外見相応の年頃の女の子であるのだ。故に、はしたなく食物を欲する反応をしてしまったことに恥じてしまう所であるのだった。

 そんなリンの事を、ミナトはこの人も女の子なんだなと愛おしい気持ちで見るのであった。そして、一方でリンにこう言葉を掛けた。

「リンさん、これはあなたが元気で健康な証ですよ。だから、恥ずかしがる事はないですよ」

「あ、ありがとうミナトさん……」

 そう言いながら、しおらしく返すリンの姿は正に乙女というものに相応しかったのであった。

 しかし、そのようなリンの立ち振る舞いをミナトはこうも言っておきたかったのである。

「それとリンさん。ノーパンの事はそれ位恥ずかしがるべきですよ?」

 この主張だけは是が否でも通しておきたかったのであった。でなければ、このままミナトは心に敗北を喫した感覚のままであるからだ。

 だが、やはり現実は非情であるのだった。

「あ、そこは平気ですからお気になさらないで下さい♪」

「いえ、気にして下さい」

 ……どうやら、またもミナトの精神的敗北という形で、この話は幕を閉じたという事なのであった。

 そして、今の話題は彼等の目の前の宿に泊まる事に決めるというものであろう。

「ミナトや、もうリンとは話は済んだかの?」

「父さんってば……」

 そんなアイの態度に、ミナトは少々閉口する所であったのである。──そもそも、自分がリンと不毛な戦いを繰り広げるに至った大元の原因は、この九歳児の父親が原因なのであるから。

 ──色々と自分の周りは理不尽な事が多い。そう思いながらミナトは、その気苦労を解消する意味合いも籠めて、ここいらでゆるりと羽根を休める事を望むのであった。

 そんなミナトの心情を察するかのように、アイは旅のリーダーとしてこの場を取り仕切るように言うのであった。

「それじゃあ、これがわし等の初の旅の途中での外泊となる訳じゃから、是非とも存分に堪能しておくれ」

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