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青空の下、メアリアは医務室の患者部屋から庭に出ていた。おじいちゃん先生からは歩く練習を始めてもよいと許可をもらい、少しずつ足を慣らした。最初のうちは膝に力が入らずカクンと崩れてしまい、今まで力が抜けるような体験をしたことがないので自分でも驚いたほどだった。気分転換に歩けるほどにはなったが、歩く際に足を引きずってしまう。感覚は分かってきてはいるが、杖をつかなければ転びそうになる。
「うわっ!」
(今日はこれで5回くらいは転んだ気がする…)
メアリアは座り込んだまま、短くなってところどころ薄くなっている芝を眺めながら休憩した。思うままにならない足を抱え、芝をむしりたくなる。足には包帯が巻かれ、魔素が宿る痕を隠していた。内出血より痣に近いが、禍々しさがあり見ていて気持ちの良いモノではないし、魔獣を思い出してしまう。
(犬型魔獣でも可愛くなかったな……近所の犬のほうがまだ可愛い)
「メアリアさん!!」
他愛ないことを考えていると、建物の方から名前を呼ばれた。患者部屋へ続く廊下の途中だろうか、リシカが窓から身を乗り出していた。そう、身を乗り出していた。建物の3階である。
「落ちっ…!」
メアリアはとっさに手を伸ばしかけたが、届くハズもなくリシカは窓から飛び降りた。しかし、彼は慣れた様子でトンッと軽々着地するとメアリアまで一直線で走ってきた。メアリアは呆然である。
「大丈夫ですか、メアリアさん?」
何事もなかったように心配されるのに驚きすぎて、3階から飛び降りたとは思えない爽やかさを備えている。
「いや、私は大丈夫ですけど、私よりリシカさんですよ!飛び降りて、大丈夫なんですか?!」
「全然問題ないですよ。あれぐらい訓練でやりますから」
「あれぐらい…」
にこりと笑っているリシカはなんともなさそうだ。隣国では普通なのかとメアリアは納得することにした。
「ところで、まだ歩けるようであれば私と散歩しませんか?疲れたら私が貴女を部屋までお連れしますので」
そう言いながら目の前に跪き、手を差し出す。
キザったらしい仕草だが、図体がでかい男がちょこんと跪くと可愛らしく見えてしまう。
「えぇ、少しだけお願いします」
メアリアはリシカの手と杖を支えに立ち上がる。
彼は曲げた肘あたりに、私の手を置かせる。
「ありがとうございます。とても歩きやすいです」
「そう言ってもらえて良かった。メアリアさんとのこの時間に癒やされていますから」
メアリアはこそばゆさを感じる言葉に照れながら、リシカとの散歩を楽しんだのだった。