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朝の日課 コート村にて

 結局、あの酒場の後もクロックたちは調査を続けたが、自分たちではなにも結果を得られなかった。しかし、の騎士隊の方は重要参考人として、あの夜一緒にいた元弟子の男に魔法による強制自白の裁判をすることを決定した。

 

 この魔法は、対象者に黙秘を許さず、質問者の質問に対し正直に白状するものだ。それだけならまだましな方で、魔法耐性のないものに使うと精神が崩壊しかねないものだ。

 

 それだけ危険なものであるため、通常の裁判ではほぼ使われない。使われたとしても、まず、被告人の魔術耐性を国医が確かめる。そして、国の行政機関に何回も書類を提出して、やっと認められるものだ。その後も衆人環視のもと大々的に行われ、立証される。


 この裁判をするということは、それだけ憲兵側も状況証拠がそろっているのだろう。裁判は三日後、中央広場で行われる予定のようだ。


 クロックは少し不安になりながらも、今回の件はこれで解決するだろうと思い、アリスとシオンと一緒に、街の北側にあるアリア山ふもとの森近くのコート村に滞在していた。


「朝か……」


 クロックは目を覚ますと、それなりのベッドから体を起こし、洗面所に向かう。


 今クロックは、コート村の宿で一人部屋に泊まっている。一人部屋というのに洗面所もトイレも共同ではなく、部屋についていて快適だ。他の冒険者も男女で別れ、一人から二人部屋に泊まっているようだ。ちなみに騎士たちは半分が野外大型のテントを張っており、もう半分は自費で止まっているようだ。


 クロックは少し錆びついた水道の蛇口を捻り、うがいをし、歯を磨き始める。


「目の下のクマは隠した方がいいかな」


 歯を磨き終え、顔を洗い出す。その時に、目の前の鏡が目に入る。

 クロックの目の下は少しクマができていた。ここ数日、昼はエバンスのことで走り回り、夜は無理やり熟睡していた。だから、クマはできていなかった。しかし昨日は魔術裁判の事を聞いて安心し、姉のことを考えてしまいきちんと眠れなかった。


「ドーラン持ってきてたかな」


 クロックは、足元に置いていたカバンの中から治療用ポーチを取る。もともと、森の中に入るということで、あまり人工物である化粧品は使いたくなかった為、家に置いてきたような気がする。それでも、もしかしたらカモフラージュのために持ってきていたかもと思い、ポーチを開けた。


「あ」


 クロックの目に最初に入ったのは剃刀だ。


 二年前、姉がまだ司書見習いとして働いていたころに、クロックの顔に髭が少し生えてき始めていた。それを見て姉がクロックにプレゼントしたものだ。


 髭が生え始めたと言ってもほとんど産毛の中一本だけ伸びたのが生えただけだ。今もクロックはこの剃刀を月に一度程度、産毛を剃るか眉を整えるのに使うくらいだ。


 その髭剃りには、ほぼ使わない剃刀をクロックは手に取り、皮のケースから刃を出す。


 クロックの顔には目立った髭は生えていない。眉もまだ整えるほど荒れてはいない。それでもクロックは剃刀を自身の首もとに――。


「クロック、起きている? 私たちの部屋で一緒に朝食をとらない? あら?」


 ドアのノックともに、シオンの声が入ってくる。ドアのカギを閉めていなかったようだ。そのままシオンが部屋の中に入ってくる。


「あ、ごめん。顔洗ったら行くよ」


 クロックは慌ててナイフを、シオンから見えないように洗面台に置く。


「こちらこそ申し訳ありませんわ。ですけど、カギをかけていないのは不用心ですわよ」


 シオンは、ドアが開いていたから気になり、確認の為、少しだけ入ってきたのだろう。


「鍵、閉めてたと思うんだけどなぁ」


「一応、何か盗まれてないか確認しとくべきだわ」


 確かに昨日寝る前にカギは閉めたと思う。しかし、空いていたことを考えると自分が閉め忘れたのか、泥棒でも入ったかであるが、特段盗まれて困るものもないし、困るものは今自分で手元にあることは確認できていた。なので、シオンには大丈夫と答えておく。


「まぁ、あなたがそう言うなら何も言いませんわ。ただの閉め忘れでしょうしね」


 いくら泥棒でも騎士隊が止まっている宿は狙わないだろうし、狙えるほど実力があるなら鍵の閉め忘れなどしないだろう。


 クロックは顔を布で拭くと腰にボーラとナイフをつけ、左足にスリングショットを装着した。


「それで、朝ご飯なんだけど、部屋に持ってきてるの?」


「女将さんが運んでいましたわ。あなたの分もこちらに持ってきてもらいましたわ。別に食事位なら大丈夫でしょう?」


 一緒に寝泊まりするのは、少し抵抗があったクロックだが、食事なら別に一緒の部屋でも構わないと思った。そもそも、野宿となったら男女など関係なしになるが、宿などはきちんと休める場所であり、部屋数やお金に問題がないのなら別れて止まるべきだとクロックは思っていた。


「あれ、もしかして鍵開けたのって、女将さん?」


 クロックとシオンたちの部屋は向かい同士だ。ということは、クロックの部屋の前を女将さんが通ったということだ。シオンたちの部屋に行く前にこちらの部屋に来たのかもしれない。そして合い鍵を使って、起きてこない自分の事を確認するために鍵を開け、閉め忘れたのかもしれない。


「どうでしょうね。そんなに気になるなら宿を出る前に聞いてみるといいわ」


 シオンはため息をつきながら、自身の部屋の鍵を開ける。おおかた、まだそんなことを気にしているのかと思ったのだろう。


「いや、僕の閉め忘れだと思うよ」


 さすがにそんな顔をされるとこの話題はもうしないでおこうとクロックは思った。


「そうでしょうね。アリスさん。クロックを連れてきましたよ」



「ふぁい。先にいただいています」


 中に入ると、アリスはパンを口いっぱいに頬張っていた。


「前から思ってましたけど、結構食い意地張ってますよね」


 クロックは笑いながら、丸机の席に着く。シオンも席に着き、三人は三角形のように座る。


「なっ、そんなことありませんよ。ただ私は、冷めないうちに頂かないと、もったいないとおもっただけです」


 朝食は、パンとベーコンのスープと秋野菜のサラダだ。たしかにスープは冷めないうちに頂いた方が良いとは思うが、明らかにクロックたちを待たずに食べ始めただろうというくらい食べていた。サラダの器は空になっていた。


「あら、このスープ、コショウが効いていて、おいしいですわね」


 シオンは、アリスの反論を聞かずにスープに口をつけていた。


 こういった村では、都市部と違い、調理法や保存方法が確立されていないことが多い。ほぼ鍋を使っての煮込み料理などがほとんどになる。都市部では割と安価で売られている、串焼きなども人口の少ない村では作られることが少ない。


 スープなどもにんにくなどの安価な香辛料で無理やり味付けをして、味が濃いものが多いが、このスープは香辛料の中でも高価な部類に入るコショウが使われているらしい。


「やっぱり、シオンってお嬢様なの?」


 クロック自身スープに口をつけてみたが、味が薄いのにおいしいといった感想しか浮かばなかった。それなのにシオンは一口食べただけでコショウと言った。それだけ食べなれているのだろう。


「まぁ、それなりですわね」


 シオンの言葉を聞いて、クロックはシオンの顔を見る。平然とした顔だったので安心した。

 クロックはこの前の冒険者に、シオンのことを聞いていたので、一応探りを入れておこうと思って聞いたからだ。ただ聞いた後に、冒険者の忠告を思い出したのでここまでにしておこうと思った。

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