クロックうだうだ 重要証言
「それでね。わたしはーありあさまのぉー使い何ですぅよぉ」
クロックは、となりのどんちゃん騒ぎをよそに机に突っ伏していた。
「ふふ、それでアリスちゃんはなんで地上に降りてきたの?」
「それは試練の為ですよ。姉のように立派な神の使いになるために地上で人間生活を送って、人間がどんなものか知るんです」
昨日聞いた神官の昔話と一緒の事を言っているなとクロックは思った。
今アリスはフードを脱いでおり、かわいらしい素顔をさらしている。最初クロックは止めに入らなかったら店に迷惑がかかるなと思ったが、以外にも他のお客を巻き込んでわいわいしているので、ママもニコニコしている。
「あっちの神官様はお酒強いのに、あなたは弱いのね」
先ほどの冒険者がママに水を頼んでくれた。
「それなりに飲んだと思うんですけど」
クロックは自分の中では限界ギリギリまで飲んだつもりでいた。
「まぁ、二回目にしては飲んだほうじゃない?」
実際クロックの飲んだ量はそこまでではない。かなり弱い部類に入るだろう。冒険者の人もお世辞でそう言っていた。
「ほら、お冷。あんたが飲ませなさいよ」
「役得ね」
冒険者はママから水を受け取るとクロックの口に持っていく。
「すみません。自分で飲めます」
クロックは机から起き上がって水の入ったコップを受け取る。
「あら、残念」
冒険者はちっ、といった感じでコップをクロックに渡した。
「まだ少しぐるぐるしてます」
クロックは水を飲みほしたがまだ体調が悪い。そんな体調の中、視線はアリスの方を向いている。
「それで、アリア様わぁー、別に、同性愛をー、禁止していないんですよー」
アリスの周りに人が、先ほどより増えている。
「けど、教会の人たちは、私たちの事、快く思っていないみたいよ」
「それはですねぇー」
“それはですね”
アリスの言葉に、クロックはまた姉の事を思い出していた。
それはまだ姉が、図書館で司書をしていた時のことだ。姉がどんな仕事をしているのか、姉に内緒で見に行った時の事だ。本の整理をしているところに親子が本の場所を聞いている場面だ。
「はは、なんで、あの人に……」
アリスにあってから、クロックは姉の事を思い出す頻度が増えていた。もともと、首に剃刀を当てていたのは、そうでもしないと姉の事を思い出せないからだ。いや思い出せないと言っても、一人の時に姉の事を思い出そうと思えば、思い出せる。今言っているのはそう言ったものではなく、ふと、思い出す、偶然知り合いに街中で会って運命を感じるような、思い出し方のことだ。自分で思い出すのはその人に直接会いに行く、剃刀を当てるのは、相手の行きそうな場所をうろつくような行為だ。
アリスはクロックにとって、そんな偶然をもたらしてくれる存在になっていた。それはクロックにとってはありがたいような、迷惑なような分からない感情をもたらしていた。
「今日はエバンスちゃんは……あ」
冒険者はしまった、と言った感じでママの方を見る。
「エバンスさんを知ってるんですか?」
うだうだしていたクロックだったが、冒険者の言葉に現実に戻された。
「あら、あなたこそ知ってるの?」
「姉の診察をしてくれていて、今日ここに来たのもその聞き込みにです」
クロックは吐き気やアリスのことで、冒険者は気まずい話題なのでお互い小声になっていた。
「ママ、この子と一緒にちょっと席外すわよ」
「二階使う?」
「いえ、外に行ってくるわ。この子の酔い冷ましに、魚介類のスープでも作っておいて頂戴。立てる?」
「大丈夫です」
二人は席を立ち店の外に出ていく。
クロックたちが入ったころより外はにぎやかになっていた。これから話にくい話題を話すので、冒険者とクロックは店と隣の店の間の路地に入る。
「どこから話したらいいのかしら?」
「全部お願いします」
クロックは先程までの酔いはどこへやらといった調子で言う。
「それなら、エバンスちゃんがなんで貧民街近くで開業してるか知ってる?」
「いえ、知らないです」
「もともと富裕層相手に商売していたんだけど医療ミスしちゃったらしいのよ」
「本当ですか?」
「一応医療協会の記録簿に記載されてるらしいわ。本人が言ってたもの」
「かなりの腕だと思ってたんですけど……」
「ここまでは本人が言っていた事実って言っても過言ではないわ。お酒が入ってたからあなたの連れの神官様みたいに不適当なこと言ってるかもしれないけれど」
確かにアリスは自分の事を天使とか言っていたので、そう言われても仕方ないな、とクロックは思った。
「ここからは私の推測とか妄言が入るからそれは覚えておいてね」
「はい」
「これはエバンスは否定していたけれど好みの男性には治療費を取らずに手術していたらしいのよ。性的なことを迫って」
クロックはエバンスがそんなことをするようには思えなかった。
「あくまで噂話よ……。あなたの場合、姉がどうとかの心配はないわね」
「どういうことですか?」
クロックは首をかしげる。
「先々月くらいに異国の審問官が来ていて悪ふざけで、女性に対して手を出したとか医療関係でわざとミスをしたことがあるか自白の魔法をかけてもらったのよ。そしたら真っ白だったわ。男の方は怖くて聞けなかったけれど」
「当たり前です。というよりお酒が入っていても、よくそんなこと聞けましたね」
「まぁ、彼が女嫌いなのはみんな知ってたしね。手を出していないのはわかりきってたし」
「え、そうなんですか」
クロックは以前からエバンスが同性愛者なのは知っていた。それに女性が嫌いと言うのも本人から聞いていた。しかしそれは笑いながら言っていたので冗談だと思っていた。
「このクラブも火木日は女性禁止よ。だからそれ以外の日には近寄りもしてないわよ、彼」
冒険者はそう言うがクロックにはそれが信じられなかった。ただ反論していると面倒なことになりそうだったので言葉を飲み込んでおくことにした。
「私は医者としての彼はかなり信頼していたからわざとなんてことはしてないと思っていたけれど、あれだけ露骨に嫌ったらもしかしたらって思う人もいるわ。もともとは女に手を出したか聞くだけのはずだったし」
冒険者はクロックの顔を見てか、少し気まずそうな顔をした。
「話を戻すけれど、その医療ミスの患者がもともと治療費が払えないような貧民街育ちの冒険者の男だったの。そこから尾ひれがついてその男に関係を迫ったけれど拒否したからわざとミスした。そのミスと関係を迫っていたことが騎士隊にバレた。って筋書きよ」
「そんなのわざとミスしたりしたのがばれたら捕まるでしょ」
クロックは少し語気を荒く言う。
「富裕層相手にしてたから誰かがもみ消したっていわれてるわね。自分の子を見てもらっていた医師がそんなヤカラなのは家の名に傷がつくって……。たぶん儀式の時にシオンって子がいたでしょ。赤髪の」
「はい。なんだかんだでパーティを組むことになりました」
「それなら聞いてみなさい。その男性患者を兄みたいに慕ってたみたいだしその子」
「え――」
「クロックさーん。こんなところにいたんですかー」
「え、アリスさん?」
冒険者に詳しく聞こうとしたところに後ろから自分を呼ぶ声が聞こえてくる。声のした方を見ると赤ら顔のアリスが少しふらつきながらこっちへ歩いてきていた。
「さぁ、戻りますよ」
アリスはクロックに抱き着く。
「私からはもう話せることは無いわ。けれど一つだけ言わしてちょうだい。あの子に聞くのは最後にしなさい。あなたにもあるように、あの子にとって触れられたくないものだと思うから」
「わかりました。ありがとうございました」
ここら辺が潮時と思い、クロックはアリスに連れられ店に戻った。




