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BARにて聞き込み クロック、アリス

「クソッ」


 クロックは珍しく苛立っている。


 それもそのはずで、もう夕刻だというのに何も有力な情報を集められていない。

 ただ、スラム街の住人と違いエバンスは魔術医師という社会的立場があり、騎士隊も本腰を入れて捜査する。それでもクロックは犯人が見つからない可能性もあることに不安を感じていた。


「クロックさん」


 その声と同時にクロックの肩に手がおかれる。


「なんですか?」


 クロックは少しイラつき気味に、けれどそれを相手にできるだけわからないように振り返った。


「エバンス医師が生前よく通っていたBARに行ってみませんか?」


 そこにはメモを片手に緊張気味に話かけてくるアリスがいた。


「調べてたんですか」


 クロックはわざと困った様子でアリスの出方を見ることにした。


「ええ、申し訳ありませんがあなたの姉の事も、聞き込みをしていたら知ってしまいました」


 アリスはクロックの態度をわざとしていると見抜いたのか、それとも違う理由か、さっきまでの緊張気味の態度から一変、申し訳ないと言いながら少し強気の態度でクロックに接する。


「そうですか。で、そのBARに一緒に行ってくれるんですか?」


 クロックはアリスの強気の態度を見て、怒られるのを覚悟で自分に手を貸してくれるのだと思った。それなら怒るに怒れないと思いそのまま話を続けた。


「あら、クロックさんも知っていたんですか?」


 先ほどの強気の態度からいつもの朗らかとした態度にアリスは戻っていた。


「ええ、もうそろそろ開店時間のはずなので……。あそこって女性入れるんですかね」


 そう言ってクロックは歓楽街の奥の方を指差す。


「あら、案外近くにあったんですね」


「場所知らずに来たんですか?」


 クロックはもう成人になったのだから何も恥じることは無いと思い恥ずかしがらずに歩いて行く。


「歓楽街にあるとだけ聞いて……。というより路地裏とかにあるのだと思っていました」


 確かに他の国ならこういった趣味は裏に隠される。もしくはそれだけで罪に問われ殺されるものなのだろうとクロックは思った。


「ここですね」


「あら~、お客さん?」


 その店の前でピンク色のドレスに似つかわしくない筋骨隆々の男性が看板を出していた。


「はい。2人なんですけど大丈夫ですか?」


「両方とも未成年で無いならうちは大丈夫よ~。性的なサービスのお店じゃないから」


 看板にはBARろくでなし 女性歓迎 と書かれていた。


「店長さんって今中にいらっしゃいますか?」


「ん? 一応この店のママなら私よ」


 そういってその男は自身の懐から名刺を差し出してくる。


「あのお客さんに聞き込みとかってしても大丈夫ですか?」


 クロックは名刺を受け取り、ママと名刺を交互に見返した。その間ママはアリスにも名刺を渡していた。


「聞き込みって? もしかしてエバンスちゃんの事で?」


「はい。私はクロックと申します。エバンスさんにはお世話になっていたので」


 クロックは名刺をカバンにしまう。


「まぁ、その場の雰囲気とかは察してね。それなら聞いて回ることに関しては咎めたりしないから」


 そう言ってママは店の中へ入っていく。クロックたちは彼の後ろを黙ってついて行く。


「とりあえず一杯は注文してね。初めてならこっちで適当に飲みやすい物出すけど?」


「それでお願いします」


 クロックに続いてアリスも同じものを注文した。


「あの、ママさんはエバンスさんの事どう思ってたんですか?」


「あら、あなたの方が聞いてくるのね」


 ママさんがグラスを棚から取り出しながら意外そうに聞き返す。


「すみません。自己紹介もできてなかったので。私はアリスと言ってクロックさんとは冒険者パーティを組ませてもらっています」


「あら、珍しい。見たところ遍歴の修道士ぽいから、この都市の人じゃないでしょ。あなた」


 やっぱり自分以外でもそう感じるのかとクロックは思った。


「まぁ。話を戻すとママとしてなら太いお客様ってところかしらね。個人としてなら――」


「ママー、いつものお願―い」


 ママがクロックとアリスにお酒を渡し終えた後、すぐ後ろから男性の太い声が聞こえてきた。

「あら、いらっしゃい。いつものね」


 ママは小声でごめんなさいね、またあとでと言って、カウンターの奥の部屋におそらく酒を取りに行った。


「ん、あら見ない顔ね」「本当だわ」


 クロックたちが後ろを振り向くとママと同じような系統の服をきた男性が3人いた。


「いや、確かこっちの子はクロックちゃんかしら?」

 

 クロックはえっ、と思ったが、そういえば薬草採取の時に一緒の依頼を受けていたことを思いだした。


「あ、あの時はお世話になりました」

 

 絶対の確信がないので自信なさげにクロックは挨拶する。それもそうで、あの時は服装も男性用の物を着ていたからだ。


「いえ、こちらこそよ。というよりホントあなたあの時と別人みたいね」


「別人っていうのは?」


 アリスが横から会話に入ってくる。ママも奥の部屋から帰って来ていて料理の準備をしていた。


「最初は今みたいに自身なさげだったんだけど、魔物が襲撃してきたときには今の丁寧口調のまま自身満々で私たちに指示してきたの。本来なら私たちの仕事だったんだけどね」


 少し自称気味に、しかしクロックが謙遜しているのを見て、いじってやろうとしているのかいやらしい言い方だった。


「本当に別人ってことは無いですよね?」


 アリスはクロックの方を見て聞く。


「そんなことは無いと思うけど、あの時がむしゃらだったから記憶があいまいなんです」


 少し自信なさげにクロックは答える。


「そんなことより、あなた神官でしょ。大丈夫なの?」


 三人組の真ん中の男がアリスの左隣に座る。


「私の国の神はそこらあたりは寛容なので……。お酒も誰を好きになるのも」


 アリスはそう言って手をつけていなかったグラスに口をつける。


「へぇーいい神様ね。なんて名前の神様なの?」


 さっきの冒険者の男はクロックの右隣にもう一人はその男の隣に座る。


「お酒の席でこういった話は興が覚めてしまいます。今日はそういったのは抜きにしたいです」


 アリスは先程手を付けた酒をそのまま一気に飲み干した。


「あら、軽めのお酒飲んでるから弱いのかと思ってたけどそうじゃないのね」


 冒険者の男がアリスを見て意外そうにしている。


「やっぱり、そうだったのですね。飲みやすいと思いました」


 アリスはクロックにも飲みやすいですよと促す。


「クロックちゃんって確か昨日洗礼の儀式受けてたからもしかして初めて?」


「いえ、昨日飲んだんですけどこういったBARとかではないです」


「わたしもないです」


「あら、それならここはおごってあげるわ」


 クロックの隣に座った男がそう申し出てきた。


「いや、わるいですよ」


「いいの、いいの。そのかわり今度依頼で一緒になったらまたよろしく頼むわよ」


「……はい、ならお願いします」


 こういう席で、あまり意固地になって断るのは雰囲気を悪くする行為だろうとクロックは思い、男の提案を受け入れる。


「こっちの神官様は私が奢ろうかしら」


「いえ、私は……」


「まぁまぁ、国によっては私たちみたいなのってつまはじきにされるのよ。それを認めてくれる神様の神官様にあったのなら一杯ぐらいおごらせてよ」


 そう言いながらアリスの隣の男はママに勝手に注文する。


「一杯だけなら、そのあとはお酒の飲みかたを教えてください」


 アリスもクロックと同じことを思ったのかその提案を受け入れる。そしてついでに自分の知らないことを教えてもらうようだ。


「ふふ、お姉さんにまかせなさいな」


「あら、いい感じに馴染んじゃったわね」


 ママはうれしそうにそう呟いた。

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