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クロックとアリス ラスト

 クロックの朝はここ最近で目まぐるしく変わった。

 

 姉が死に、自殺するのが怖くて人のために死のうとし、そして……。


「それでいつまであなたはここに居るんですか?」


 クロックは困り気味にアリスに対して聞く。


「あなたのその自殺癖が治るまでですね」


 アリスはボロボロの椅子に座り、机の上にあるクロックから出されたサラダを食べながら答える。


「自殺癖って」


「そうでしょう。自分の能力よりも幾分も上の依頼を功名心や欲に目がくらんだりしないで受けたりするのを他になんというのです」


「グッ」


 クロックは痛いところを突かれ、流しに持っていこうとしていた皿を落としそうになった。


 コート村から帰って来て1週間が経過していた。その間2つ依頼を受けたのだが、急に癖が無くなったりはしない。すんでのところで止まってはいたが、同じ依頼を受けた冒険者を庇おうとしたり、無茶な依頼の掲示板を見たりしていた。


「……。それにもうあの医者はいないのです。ヒーラーとしてこのアリア教の神官がいたほうが何かと為になると思いますよ」


 エバンスの殺人事件は表向きには盗賊が入っての強盗殺人ということになった。そして犯人は郊外の森でオークに殺されたということになった。


 クロックは自分の手で犯人を見つけたかったが、犯人が見つかったのならそれで良しとしようと思った。


「それなら教会のほうで住み込みで働かせてもらえないんですか?」


「まぁまぁ。いいじゃないですか」


 犯人が見つかった知らせがあった後、アリスはここに住ませてほしいとクロックに言い、二人は一緒に住むことになった。


「今日は昨日の依頼の報酬を受け取りにギルドに行って、その後食材を買うんでしたね」


 その後は、あれよあれよと外堀を埋め、クロックの行動範囲にいる人には、姉とお世話になっていた医者を亡くした傷心の少年とそれを慰めるおせっかいやきの遍歴の修道士として見られている。特に姉の生前から親交があった大人たちはアリスには期待しているようだ。心の死んでいた少年を立ち直らせてくれると。


「買い物に行く前に依頼の掲示板を見てからですね」


「無理な依頼は受けさせませんよ」


「わかってます。ただ……」


 今ならはっきり言える。クロックはそう思った。


「ただ?」


 アリスがにっこり微笑みながら首をかしげる。


「早く解決しなければならない、困っている人がいたら自分にできることをしたいんです」


 それはクロックの本心からの言葉なのだろう。少なくともクロック自身そう思っている。


「それなら私は“あなたたち”が死なないようにフォローさせてもらいましょうかね」


 この言葉でクロックは確信した。自殺癖がなんだとか言いながら、この人は僕が自立できるまで一緒に居てくれる気なのだろうと。それなら今はあまえさせてもらおうとルクロックは思った。


「お願いします」


「わかりました。ところでそれは何を作ろうと思っているんですか?」


 アリスは窓際に置いてある木材と切り出しナイフを見てクロックに聞く。


「燃やしたチェスの駒をもう一回作ろうと思ってるんです」


 クロックはそう言いながら、木材の近くの床に座る。


「それなら、私とシオンさんにも一駒作ってくれませんか?パーティの証として」


 アリスは皿を流しに持って行き、その足でクロックの横に座る。


「いいですよ。それで何の駒にします?」


「私はビショップで、シオンさんは……。何がいいでしょうね」


 アリスは人差し指を唇に持って行き考える。


「まぁ、本人に聞いたらいいと思いますよ」


 どうせ昼からギルドで会うことになっているのだ。その時に聞けばいいとクロックは思った。


「それなら、クロックさんはそのナイトにしておきますか?」


 アリスは窓際に置いてあるクイーンとナイトの駒を指差す。


「いえ、ポーンにします」


「……。そうですか。頑張ってください」


 クロック自身、今の自分にナイトはふさわしくないと思っている。それに加え、今までの事を反省し、心機一転頑張ろうという気持ちを込めて、新しくポーンにしようと思った。

ポーンはルークでもナイトでも、何にでもなれる駒だ。それと同時に、相手側の最終ランクに到着したポーンは何か別の駒にならなくてはならない。これからの人生、クロック自身成長していかなければならない。

クロックは自身にこの駒を重ねている。それはアリスも感づいたのだろう。だから頑張ってと言う言葉が出てきたのだ。


「はい。頑張ります」


 クロックの笑顔を、窓際に置かれたクイーンが見守っていた。

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