ハインリヒとアリスと フィート
私とクロックは別の存在となった。気を失う前これで私の魂はこの子から離れて一人汚れた魂の循環に飲まれると思っていた。しかし――。
「なんでまだこの子が?」
薄暗い中目が覚めた私は、ここが魂の循環場所かと思った。しかしそれは違うとすぐに気づいた。自分の後ろには良く見知った窓があり月明かりが少し入って来ていた。
そして自分がもたれかかって座っていたのはベッドであり、ベッドの上にはクロックが寝ていた。
気を失ってから何日が過ぎたかわからない。ただ今はそんなことどうだったいい。問題なのは私とクロックが離れていないことだ。
「目が覚めましたか。ハインリヒ」
前世の名前を呼ばれハッとする。声のした方を見ると月明かりと自身のオーラでほのかにともっているアリスがいた。
「これはどういうことです」
私は困惑しながらアリスに詰め寄る。
「あなたが今回の事件の犯人であることには意義はありませんね」
「はい」
何度言わせるのだと若干イラつく。
「今回の犯人は盗賊として、教会にでっち上げてもらいました」
そんなことはどうだっていい。クロックの身が無事ならばどうだっていいんだ。
「でっち上げの条件として、私があなたの魂をクロックと分離させ守護霊のようなものとして罪を償うように処置を施したことにして教会を納得させる必要がありました。そして納得してもいました」
なぜそんな周りくどいことをするのだ。私が裁かれれば良いだけの話のはずだ。
「クロックはあの場面でも殺しはしなかったでしょう。しかし、受け入れた後自殺していたかもしれません。あの場面殺したのはあなたでしたが、穢れはクロックも受けています」
やはり、あのときクロックの身体を使ったのは間違いだった。隣にいたあの男に無理やり憑依して殺せばよかった。ただ、あの頭に血が上った状態でそんな判断はできなかっただろう。
「あなたもクロックの一部であったのに変わりありません。クロックはそう遠くない将来あなたを受け入れるか、拒絶するか自身で選択する義務があります」
そんな周りくどいことしなくても拒絶してくれたほうが気は楽だ。
「あなたは自身の穢れをなくすためにクロックが本当にピンチになった時にクロックを助けなさい。私は日常面ではサポートします。クロックの汚れはそこまでひどくはありません。今のまま私たちのサポートを受けて問題を解決していけば天に昇れます。ハインリヒ。あなたはクロックが綺麗になるまで現世にとどまりなさい。それがあなたに対する罰です。その後、フィートと一緒に来世を生き抜きなさい」
「フィートはまだ生まれ変わっていないんですか?」
「ええ、それはこういうことです」
アリスが窓際に置かれたクイーンを指差す。
「よくわかったわね」
クイーンの駒が床に落ちる。私にそんなことを気にする余裕はなかった。
「フィート?」
「ええ、久しぶりね。ハインリヒ」
現世の姿ではなく、前世の姿のフィートだ。
髪は腰まで伸ばした綺麗な金色で、体は細いながらも、健康的な肌をしている。服は現世の死ぬ間際の服だが、それ以外は前世のフィートそのものだ。
「え、あ、えっと、その」
私は何を喋ればいいのか分からなかった。ここまで慌てたことは前世を含めてもないと断言できるほどに焦っていた。
「これは、私が死んでも止まらなかった事に対してよ」
パシーン
フィートに右手で思いっきりほほをはたかれる。私は慌てていた状態から一転、真顔になってしまう。
フィートに会えて話ができる。それだけで舞い上がってしまっていた。冷静に考えれば、向こうは私のことを恨んでいてもしかたがない。
前世の私は、選択を迫られていた。




