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ハインリヒの想うこと

 あの夜、この子はエバンスの家でお祝いをしてもらっていた。

 そこで今話したことが起こり、私がこの子の身体を借りて、エバンスを殺した。

 後輩の男を犯人に仕立て上げるため、そいつは殺さなかった。あとは魔法でこの子の服を直したり、エバンスを殺した記憶を消したりした。



「それが今回の事件のあらましです」


「そうですか」


 アリスはクロックの身体を借りている私を見ながらうなずいた。そして目を赤く光らせる。


「フィートは今世では力いっぱい、全力で生きました」


 アリスは私に向けて悲しそうな顔をして伝えてくる。


「彼女の魂は来世では普通の赤ん坊として生まれ変わります」


 いや、この顔はクロックだけに向けた顔なのかもしれない。前世の残留思念のような私には向けられていないと思う。


「力いっぱい生きたのにですか?」


 先ほどのアリスの言いようでは、天界があり普通に生きていれば、死後そこに行けるらしいのにフィートはなぜ行けないのか。


「今世は前世の闇を晴らすために与えられた試練の世です。フィートは前世であなたを止めるために自死を選んだこと。あなたは国のためとはいえ何万もの人魔を殺したことに対しての」


「そうですか、で私たちは死んだらどうなるんですか」


 いくら悪党だからといっても殺す必要のない人を殺したのだ。あの場を逃げたら後から話し合いで解決できたかもしれない。事実、エバンスはフィートを気に入らないと思っていても医者としては患者としてきちんと診てくれていた。距離を置くだけで殺す必要は無かった。


「便宜上ですが、あなたたち二人は来世でフィートと一緒になるのは難しいでしょうね」


 やはりか。いくら人格が完全に別の者でも魂は同じと言っても過言ではない。この子も一緒に罪をかぶることになってしまった。便宜上とは、後から私がこの子の身体を間借りしていたとはいえ、私たちは本質的に二人ではなく一人なのだということだろう。


「クロックは関係ないと思うのですが?」

 

 一応私がこの子とは関係がないということをアリスに向けてアピールしておく。どうにかこの子を救済できる方法はないか。


「……。そうですね、ですから」


 アリスは人差し指をこちらに向ける。その指先はほのかに赤く灯っている。


「あなたとクロックの魂を完全に分断します」


 そう言うと彼女は詠唱を始める。


「女神アリアよ。この者のために、私の独断であなたの力を借り、行使します」

“この者たちの魂を正常なモノへと戻し、分断する”


 彼女の指先の赤い光が俺に向けて放たれる。さきほどから感じていた、なにか神々しいものが増幅してくる。


「ありがとう」


 これでクロックと私は別の者として裁かれるはずだ。

 そもそも一年前、私が勝手にこの子の身体を間借りさせてもらっていたのだ。別々に裁かれるのが普通だ。ただ、目の前のアリスには感謝してもしきれない。


 ただ欲を言えるとすれば、フィートにもう一度――。


―掌握―

 

 その言葉を最後に私の意識は遠くなった。

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