クロック動けず シオンピンチ
シオンのロングソードの長さは、元は80cmほどのものだ。ただ今は炎の分で、倍ほどに長くなっている。そのうえ、シオンの周りには炎のショートソードが十本ほど漂っている。
シオンはロングソードを右手で持ち、漂っている炎のショートソードを一本左手に持つ。強化魔法を使った様子がないにも関わらず、普段両手もちしているロングソードを片手で持っている。おそらくさっき唱えた魔法の影響なのだろう。
「私がそのコカトリスを受け持ちますわ。あなたは術師の方を」
そう言ってシオンはコカトリスに突撃していく。狙いは足のようだ。
「いや、こっちは危険だ。お前が術師を―」
「嫌ですわ」
シオンはマーリンの言葉を明確に拒否する。それと同時にコカトリスの視線がシオンの方へと向けられる。それでも彼女は足を止めない。炎の剣が彼女を護っているからだ。視線の先に入らないように、ジグザグに走りながら彼女はコカトリスに迫る。
その様子を見てマーリンはシオンを護るために裏方に回るようだ。でもこのままでは共倒れになるとクロックは感じた。だから、自分も助けに出ようとしているのだが足が動かない。いや足だけではない。腕も、体自体が動かない。
石化したわけでも、まして臆したわけでもない。頭の中で不思議な声が邪魔をするのだ。
「クロックさん移動しますよ」
アリスがクロックの肩を叩く。マーリンたちは泉の方へ引き返しているようだ。しかしクロックはそれを目では終えているが体が動かない。そのうえアリスが肩をたたいたことに気づいていない。
「――。あなたに任せます」
アリスはクロックの背後を見てからそう言い、マーリンたちについて行く。
クロックはその場に残された。
マーリンたちは先程の泉まで戻って来ていた。
シオンが戦いに入ったことで手数は増えた。しかし、戦闘の要がマーリンからシオンへとなり、戦力的にはあまりかわりない。それどころかマイナスになりかけていた。
実際、術師の男に自由な時間を与えてしまっていた。
「こうなったら、もう一体も現れよ」
術師が、先ほどと同じ要領で杖を斬り、斬った方を炭焼き小屋の方へ投げる。そこから森で見た大きさの門が現れ、中からコカトリスが出てくる。大きさも先のと、ほぼ一緒くらいだ。
「ごはっ」
術師は血を吐き、膝をつく。かなり大きな門を人工的に作り出したのだ。その反動が体を駆け巡ったのだろう。
「まずい」
マーリンは背後の気配に気づき、もう一体のコカトリスの相手をしに向かう。ただ、それは今までシオンを護っていた者が一人いなくなるということだ。今、彼女を護っているのは自身の魔法だけだ。彼女はそのことに気付いていない。自身の力だけでコカトリスまで無傷で近づけていると思い込んでいる。その上もう一体のコカトリスに気が付いていない様子だ。
「あと一歩」
そう、あと一歩でシオンの剣の間合いに入る。コカトリスの細い足を切りつけて転ばす。そして、自身の周りを漂っている剣をコカトリスの顔に叩き込む。三本ほど石化してしまっているが、残り六本は炎の効果が残っている。これなら全部叩き込めば目をつぶせる。そして目さえ潰せれば自分の力ならば倒せる。そう過信していた。ただ現実はそう甘くなかった。
「ゴゲェエェェェ―」
コカトリスは怒号をあげながら自身のボロボロの翼をシオンに叩き込む。それは勝利を確信していた彼女にとって予想外の一撃だった。そこで、彼女は気が付いてしまった。今まで抑え込んでくれていたマーリンが後ろでもう一体のコカトリスの相手をしていること、そして自身の力でコカトリスまで近づけたのではないことに。
纏っていた炎の剣が守ってくれたおかげで、シオンはまだ無傷でいられている。ただ、防具などはところどころ石化しており、その護ってくれていた剣も全部石化してしまった。
「ぐげぇぇっぇ」
コカトリスはシオンをあざ笑うかのような鳴き声をし、彼女の足に視線を向けくちばしで攻撃しようとする。
シオンはせめてもの抵抗と言わんばかりにロングソードで自身の顔を遮り、そして石化してしまったそのロングソードをコカトリスの顔へと投げつける。しかし、炎の威力も無く、強化魔法もないただの少女の力では顔まで届かない。
「お父様、お母様、ごめんなさい」
シオンは、石化してしまった自身の両足を見ながら、自身にできることはもうないと諦めてしまった。




