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追跡 発見 飛び出し

 四人は村人が村に帰って行くのを見届けると、揺れた気がした茂みの奥を進んでいく。


「一応、ボクが逃げろと言ったら君たちは逃げろ」


 マーリンは真顔で走りながら言う。


「わかりましたわ。クロックもわかったわね」


 シオンが珍しく一番に返事をする。そしてクロックを牽制する。


「わかってるよ。――前ッ」



 クロックは気の抜けた返事をしようとした時だった。前方に小さな門が開かれそこから猪が一体現れた。


「天楯」


「大丈夫ですわ」


 アリスがシオンに魔法を掛け、シオンはそれを利用して攻撃をわざと受ける。そして眉間を二、三度刺した。


「とりあえず一体片付きましたわね」


「いや、後ろだ」


 マーリンが拾った石をシオンの後ろへ投げる。クロックがかろうじて見えただけで、他の二人はマーリンの動きが見えなかったようだ。


「炎楯」


 いや、もう一人も見えていたようだ。石が炎の壁に阻まれる。


「くそ…… 何ッ!?」


 ただ、その後のマーリンが距離を詰めて来ていたのには反応できなかったようだ。マーリンが背中の剣を一度縦にふるい、炎の壁を壊す。


「お前か、犯人は」


 炎の壁が壊れ、その奥の人物がよく見えるようになった。


「なんのことだ?」


 先ほどからクロックたちから逃げていた男が姿を現した。恰好から魔法を使うようだ。ローブ姿に、魔法を唱えるための1.5mほどの先に旗をつけた杖を持っている。


「君たちは逃げろ!?」


 マーリンはそう叫ぶ。いつになく本気のような声色だった。


「あれ、アリスは!?」


 クロックはマーリンの反応にこれはまずい、と思い二人を視界に入れようと思った。

 シオンはすぐそばにいたが、アリスの姿が見当たらない。


「クロック!?」


 先ほどまでとらえていたシオンの姿がクロックの視界から消えた。そして――。


「あれ? ここは?」


 クロック自身も一瞬視界がくらみ、気が付くとマーリンと男から少し離れた茂みに移動していた。


「私が転移させました」


 クロックが横を向くとアリスがいた。


「どういうことなのかしら?」


 アリスの横にシオンもいた。そしてなぜ転移させたのか聞いている。


「マーリンさんが逃げろと言ったからです。だけど心配なので、この位置から私たちにできることをしましょう」


 アリスは茂みから相手の男を指差す。


「相手は、私に気が付いていません」


「そんなわけ……」


「あの二人はお前が逃がしたのか?」


 男がマーリンに杖を向け質問していた。本当に二人しか認識していないのかとクロックは思った。


「そうだよ。そんな杖を見せられちゃね」


 そう言ってマーリンは男の背後から攻撃を仕掛ける。しかしそれは男も読んでいたようだ。


「炎楯」


 男は背後に先ほどと一緒の炎の壁を出現させた。そして泉の方へ走り出す。


「こっちから魔力を感じるな」


「ダミーですね」


 男のその言葉にアリスが小声で二人に伝える。


「待て、こら」


 マーリンはこちらに手を振ってから、男を威嚇する。一応クロックたちの場所を捕捉できているようだ。


「私の魔力をあそこと、もう二ヵ所に置いているんです。なので私は戦闘に参加できません」


クロックとシオンが二人の後を追いかけようとした時にアリスが補足する。


「なんでそんなことしてたんですか?」


「……。少し嫌な予感がしたからですかね?」


 なにかアリスは隠し事がありそうな感じではあったが、クロックはそれを無視して話を続ける。


「なんで疑問形かは置いておいて。だから相手に捕捉されていないんですね」


「そうです」


 アリスは短く返事をする。


「そこだー。炎槍」


 アリスが示した場所に男が魔法を放つ。茂みが炎の槍に貫かれ、燃え始める。


「残念。そこにはいないよ」


 マーリンが男を背中から剣で刺す。


「そっちもだな」


 男はそれを意に関せず、振り向きざまに手に炎を纏って攻撃しようとしていた。ただ、マーリンは刺した手ごたえを感じなかったため、男の言葉を聞く前に後ろに引いていた。


「炎の精ではないね」


 マーリンは男の分析をする。


 マーリンが男を刺した部分は、傷口が炎に覆われながら傷口がふさがっていた。そして手には炎を纏

い、顔にも炎を纏っていた。ローブは跡形もなく燃えて消えていた。ただ、人の身体の部分が多すぎると思い、完全な炎の精ではないと思ったようだ。


「それがどうした。お前の攻撃は私には聞かな――」

「いや、炎の精じゃないなら魔力切れまでお前を殺す」

 

 マーリンは男に今までで一番の速さで斬りかかる。そして、三回ほど斬ったところで後ろへ引いた。


「まぁ、そんなところだろうね」


 男は杖を炎の手刀で50㎝ほど斬り、斬ったほうを自分の真後ろへ放り投げた。


「出でよ……」


 男の後ろからゲートが現れる。これまでのゲートもこの男が出していたという現状証拠にはなったかなとクロックは思った。ただ、出でよの後の言葉が聞こえなかった。だからまた猪や鹿だと思った。しかしその予想は外れた。


「ゴゲェェェェェェー」


 それは奇声と共にゲートから這い出てきた。


「コカトリス」


 シオンがそう呟いたのをクロックは聞き逃さなかった。


「駄目だ」


 瞬間的にクロックは、シオンの腕を掴む。

 コカトリスはいわば、シオンにとって大切な人を奪った憎しみの対象だ。このままでは絶対にかたき討ちだと言って飛び出してしまう。


 シオンと自分ならコカトリスに勝てるかもしれない。そうクロックは思った。ただそれはシオンが普通の状態ならだ。今の状態では確実に負ける。


「大丈夫ですわ」


 クロックはその時に初めてシオンの顔を見た。あきらかに大丈夫な人の顔ではなかった。


「何が大丈夫なんだよ」


 クロックは自分もこんな顔をしていたのかなとふと思ったが、今はそれどころではない。シオンの腕を掴む力を少し強める。


「この距離なら……。あれを使えば……」


 あきらかに様子がおかしい。今にも飛び出してしまいそうな雰囲気だった。


「絶対に行かせな――」

「炎よ」


 クロックは絶対に腕を離すものかと思っていたが、魔法を使われるとは思ってもみなかった。だから一瞬だが手を離してしまった。


 その結果クロックは手のひらを、シオンは掴まれていた部分を少し焦がした。それでもクロックはシオンを繋ぎ止めようと再度腕を握ろうとしたが……。


「ごめんなさい――。炎よ、私と共にありて……」


 シオンは鋭い目つきと、その言葉とともにクロックの手を払って茂みから姿を出して魔法の詠唱を始めた。


 シオンのあの目を観た瞬間クロックの頭の中にある光景が浮かんだ。


 魔術医師のエバンスの顔面を思いっきり殴りつける自分の姿だ。クロックはこんなことをした覚えが全然なかった。


「何で出てきた。お前たちは逃げろ」


 マーリンは、コカトリスと術師の男を同時に相手しながら攻撃が後ろに逸れないように戦っていた。それをシオンは気づいていながら無視する。


―身勝手な私の剣となり護っておくれ―


 詠唱を終え、シオンの剣に炎が宿る。

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