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先輩冒険者と新人たちと

「いよいよ今日出発ですわね」

 

 朝食を食べ終わったシオンは魔法武具の装備の確認をしながらクロックたちに話しかける。


「そうですね」


 アリスは一つ余分に貰っていた、朝食のパンを食べながらいつもどおり、のんびりしていた。


「そうだね」


 クロックはそれと対照的に最近していなかったナイフの手入れを念入りにしていた。


 食べ終わった後、気まずいことを聞いたこともあり、すぐに自室に帰ろうとした。しかしアリスとシオンにどうせすぐに出発することになるからと引き留められた。


「緊張してますの?」


 シオンはクロックに話しかける。


「別に」


 クロックはそっけなく返す。


「あなたはあなたでいつも道理ですわね」


 クロックのそっけなさを見てかシオンはアリスに話を振る。


「緊張してもしょうがないですし」


 シオンはパンを食べ終え席を立ち皿をドア先の皿受けに置きに行く。


「お酒飲んだらかなり人が変わるよ」


 クロックのその言葉に、アリスは皿を落としそうになった。


「それはもう言わないでください」


 アリスは顔を真っ赤にして皿を置いた。


「わたくしもみたかったですわ」


「もう人前では飲みません」


 クロックは自分ひとりなら飲むのかと思った。


「あら、残念。この村一応ワインの工房があるのですけどね」


「え、この村に?」


「ええ、たしか、森の中の炭焼き小屋の反対側の方にありましたわ。それよりも、もう騎士隊の人は集まってるみたいなので行きましょう」


 シオンは窓の外を見ながらクロックたちに促す。


「はやくいきましょう」


 アリスはこの話題から逃れられると思ってか、いの一番にドアを開けて外に出た。


「ほら、クロックも」


「ああ、うん」


 それに続いて二人も部屋から出る。


 クロックの家よりはしっかりした壁の廊下を左に進み、ギシギシと音が鳴る階段を下りるとすでにアリスが女将さんに挨拶をしていた。


「あんたたちきちんと勉強してきなさいよ」


 女将さんが厨房の方から顔だけ出して大声で挨拶をしてくる。


 昨日チェックインした時も思ったが、肝っ玉の据わってそうな昔ながらの宿の女将のイメージそのもののような人だなと、クロックは思いながらお礼を言って外に出た。


「まだ出発まで時間が少しあるから楽にしておいてください」


 宿を出てすぐ、おそらく新人であろう気の弱そうな騎士隊員が話しかけてきた。


「他の冒険者はどちらに?」


 昨日この村に到着したのは日が暮れる寸前でそのまま騎士隊の所に挨拶をしに行き、チェックインしたのは日が暮れてからだ。その後に他の冒険者たちに挨拶に行こうとしたが寝ていたり、村の教会近くにある酒場に行っていたりしていたため出発前に挨拶しておこうということになっていた。


「あちらに集まってますね」


 クロックたちはお礼を言い、隊員が指差した方へ向かう。そこには5人の男女がいた。


「おはようございます」


 アリスの声に冒険者たちが反応する。


「ああ、おはよう。君たち三人でパーティーを組んでるのかい?」


 気の良さそうな、若い中性的な出で立ちの男性冒険者だ。クロックはこの人を宿で見たことがあるなと思った。


「はい、そうです。あなたはおひとりですか?」


 アリスは冒険者と話していた新人ぽい剣士の子に目を一瞬向け、その後冒険者に戻した。


「ハハ、やっぱり年齢的にパーティーには見えないか」


 冒険者はマーリンと名乗り、新人の子に振る。それと同時に剣士の子と後ろの魔術師と神官の二人も挨拶をしてきたのでクロックたちも挨拶を返す。


「それで僕のパーティーは他の依頼に出払っててね。病み上がりの僕だけでもって宿屋の人に頼まれたんだ」


 そう言ってマーリンは病み上がりの腕の傷を見せて苦笑いしていた。


「それにしてもうちの宿の有名人同士がパーティーを組むとはね」


 そう言ってマーリンはクロックとシオンの方へ顔をわざとらしく向ける。


「クロックさんは死にたがりで有名なんでしたっけ?」


 アリスがそう言うとマーリンは笑い出した。


「ははは、確かにそうかもしれないね」


「それでシオンさんも有名なんですね」


「集合してくれ」


 アリスの言葉を遮るように騎士隊隊長が大声で促す。


「この話はまたあとでね」


 それじゃあ、と新人の子たちを連れてマーリンは騎士隊の方へ向かう。

 クロックたちもその後について行く。


「今回この隊を任されることになった、ルシウス家三男、ルシウス・アーチスだ」


 アーチスと名乗った隊長は、金の髪をかきあげながら、キザッたらしく自己紹介をする。


「あれ? アーチスって」


「この都市を任されている貴族だよ」


 クロックの疑問にマーリンが答える。確かに村人の様子からしてその子息のようだ。


「やっぱり、都市を任される貴族の子息様ってすごいんですね」


 新人の子たちが感心している。確かに、キザッたらしいのに目をつぶって考えると、筋肉もつきすぎず、つかなさすぎず、武器がロングソードと楯なのも相まってオールラウンダーの雰囲気を纏っている。だが、魔法の適性はわからない。


「彼は、父親と一緒で文官の方が向いてると思うんだけどなぁ」


 クロックはマーリンが小声で言ったのを聞き逃さなかった。しかし、あまり突っ込んで聞くとやけどしそうな内容だったため聞こえなかったことにした。


「と、まぁ、新人君たちもいるが我々にまかせてくれ」


 アーチスの挨拶はかなり手短に終わった。


 やはり今回の依頼は冒険者を育てるために組まれたものだなとクロックは思った。それはわざわざ話の終わりに新人がいることを言わなくても良いのに言ったからだ。本当に危険な依頼なら村人に新人がいることなど知らせないだろう。それにギルドで受付の人が、安全な依頼と念を押すように言っていたのも加わり、そう思った。ただそれだと、新人が自分たち以外に二組だけというのはどうなんだと思った。


「それでは各人員、配置に着くように」


 騎士隊隊長の掛け声と共に各部隊が動き出した。


「君は前列で、僕たちは後列だよ」


 マーリンはもう一人の剣士風の男の子に前列に行くように指示を出す。クロックは、この子にはまだ挨拶ができていないのでとりあえず頭を下げる。しかし相手はそれを無視した。クロックは面倒事になりそうだったので何も言わなかった。


 そしてクロックたちはマーリンの言葉に同意して彼の後ろを歩こうとしたその時だった。


「これは、アリシオ商会のご令嬢の……」


 アーチス隊長がシオンに話しかける。


「ご挨拶が遅くなりまして、申し訳ありませんわ。アーチス様」


 シオンは、形式ばったお辞儀をして挨拶をかわす。


「いや、昨日宿舎の方に挨拶に来てくれていたのは知ってるよ。こちらこそ留守にしていてすまなかったね。それで、こっちの子と一緒に前列の方に来るかい?」


 アーチスはクロックを無視した冒険者の事を指差しながらシオンに聞く。


「いえ、仲間と一緒に後列の方にしますわ」


「そうかい。仲間と言うと、こっちの二人かな」


 そう言ってアーチスはクロックたちの方を見る。アリスはシオンとは違う形のお辞儀の仕方で、クロックはそれを真似して挨拶をする。


「二人とも、アリア教の神官様なのかな?」


「いえ、私の信仰する神は本来違うのですが、争いになりたくないので今は、アリア教の形を借りただけです」


「僕はとりあえず、アリスの真似をしただけです」


「クロック君は、まぁあれだったけど。アリス君はかなり洗練されていたように思ったのだけどね。それでそっちの君たちは……ああ、別に堅苦しくしなくてもいいから」


 新人たちが固くなっているのを見て、にこやかにアーチスは名前を聞く。新人たちは緊張しながらも名乗っていく。


「よし、挨拶も終わったし、隊列も整え終わったみたいだし、そろそろ出発するか。君は僕と一緒に来て。君たちは、この人の指示を聞きながら行動してくれ」


 隊長と無視した子は自身の位置に戻り、出発の号令をかける。


「じゃあ、僕たちも行くよ。君たちはこの子たちの前を歩いて、僕とこの子が一番後ろに着くから」


 新人組を一つの塊と考えて、シオンとアリスが前衛、新人組が中衛、クロックとマーリンが後衛となった。見たところマーリンは、背中に剣を携えていることもあり前衛職のようだが、新人の教育目的もあるし後ろからの攻撃に備えての事もあるのだろう。


「はい」


 クロックたちは元気な声で返事をし、森の中へ入っていく。


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