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アーランディアの魔導付与師  作者: 鋼矢
魔導付与師と全身甲冑の話
21/68

21 修復しよう

 少し目を離した隙に、イツキはミリィの魔束放筒(カノン)をぶっ放すというアホを盛大にやらかしてくれた。

 当然の結果として魔力を根こそぎ絞りつくされ、先の戦闘の疲労もあって完全に足腰立たないでいる。

 

 このポンコツ娘め……いったいどうしてくれようか?


「か、体に力がはいらない。身動き取れないんだが……いったい何が起きたんだ?」


「はぁ……魔束放筒(カノン)はとんでもなく魔力を喰うんだよ。普通の人間じゃあ一発撃つだけでお前と似たような感じになるだろうな」


「そ、そうなのか……? けどミリィは平気で使っていたような気がするのだが……?」


 俺が呆れて魔束放筒(カノン)の説明をしてやると、地面に倒れたままのイツキが不思議そうな声をあげた。


「ミリィは例外。こいつはちょっとあり得ないくらい馬鹿みたいな魔力を持ってるからな。(……魔束放筒(カノン)をいくら撃っても平気とか本気で化け物染みてるよな)――いひゃッ!?」


「こんな可憐な乙女を捕まえて誰が化け物よ、誰が?」


「じ、じびゅんでおひょめとかひゅうのはひょうかと……いひゃいいひゃい」


 ミリィに好き勝手に頬を引っ張られる俺である。

 さっきイツキにやったことが自分に返ってくるとは……これが因果応報というやつか。


「それでこれどうするのよ? 二人でイツキを担いで集落に戻る?」


「うーん、それはちょっとな。……二人で担いでたら魔獣が出てきた時に対処が出来ないし。こんなことなら魔力回復薬(エーテル)を持ってきておくべきだったな」


 俺の頬から手を離し、少し困った様子で訊いてくるミリィに答えた。

 一応基礎的な魔術は習得しているんだが、流石に魔術師ではないので高レベルの魔術は使えない。

 よって今まで探索中に魔力を使い切るような事態にはならなかったので、俺には必要なかったのだ。

 ……魔力回復薬(エーテル)は結構高いしな。

 後悔先に立たず、ないものを強請(ねだ)っても仕方がない。別の手段を考えないと。


「――よし、イツキを脱がそう」


「ええッ!? 脱がッ!? ええッ!?」


「何でそうなるのよ? 馬鹿なの? 変態なの? 死ぬの?」


「いやいや、馬鹿でも変態でもないぞ――ちゃんと理由はあるからちょっと待て!!」


 当然死ぬのも勘弁だ。

 だから魔束放筒(カノン)の砲口を俺に向けないでくれませんかね?


「甲冑に関しては『旅の鞄』に入れてしまえば運べるだろ? それで鎧なしのイツキなら俺一人でも担いで帰れるからな」


「……そうね、それならあたしの手が空くから魔獣が出ても対処出来るわね。よしっ、脱がしましょう」


「えええええっ!? ちょ、ちょっと待ってくれないだろうか! 私頑張るから、一生懸命頑張るから……だから待ってぇえええええっ!?」


 聞く耳持たん。

 身動き取れないイツキから手早く甲冑を剥ぎ取り『旅の鞄』に詰めていく。

 なにやら悲鳴が聞こえるが相手にするつもりはない。


「……控えめに言って完全に犯罪者ね。衛兵に突き出した方がいいかしら?」


「お願いだから勘弁してください……いやマジで」


 冗談なんだろうけど笑えない。

 これでもパーティの仲間を助けるために頑張ってるんだが。


「うぅ、またしてもこんな破廉恥な恰好を……」


 全身の甲冑を剥ぎ取られたイツキがさめざめと涙する。

 そのしなやかで健康的な肢体を包むのは薄い肌着のみだ。

 汗で服が薄く透けてる上に、うっすらと赤みを帯びた肌に張り付いて妙にエロイな。


「はいはい、ガン見しない。とっとと後ろ向く」


「えー、もうちょっと見てたら駄目か?」


「最大火力を撃ち込まれたいって言うのなら、別に見てても構わないわよ?」


「……」


 ニッコリと可憐に笑みを浮かべるミリィ。

 これはあれだ……いわゆる殺す笑みというやつだ。

 大人しく彼女の言葉に従って後ろを向く。

 流石に命をかける気にはならないからな。


「ほら、しっかり立ちなさい。いい? 今から背負わせるわよ」


「ほ、本当にこの格好でなければ駄目か?」


「観念しなさい。元はと言えば、あんたが無茶したのが原因なんだから」


 原因の半分はミリィが不用意に魔束放筒(カノン)を使わせたせいだと思うんだが……。

 まぁ、ツッコむまい。


「で、では失礼する」


「――おう」


 ミリィに手助けしてもらい、イツキが俺の背中におぶさってくる。

 かなり恥ずかしいようで肌を密着させないよう頑張っているのだが、脱力した身体ではそれも叶わないのだろう。

 意外と着痩せするほうなのか、背中からは柔らかな双丘の感触。

 手を回した引き締まった太ももからは瑞々しい肌の感触が伝わってくる。

 首筋にかかる艶のある黒髪がくすぐったい。


 ……これはある意味で試練ではなかろうか?

 子供の頃にミリィを抱えて運んだことは何度かあったが、伝わってくる感触が色々と別物である。


「くッ……この屈辱。決して忘れん……ッ!」


「耳まで赤くするほど恥ずかしいなら、早めに忘れたほうが良いんじゃないの?」


「そ、そうかな? ……そうかもしれないな」


 決意揺らぐの早いのな。

 ともあれミリィに周囲を警戒してもらいながら、俺たちは《森林迷宮》の集落へと向かうのだった。



 ◇ ◇ ◇



 〈白毛猿〉から得られた素材のうち、幾つか目に付いた物は再買い取りし、それ以外は売却した。

 〈特殊個体(ユニーク)〉が討伐されたことはギルド支部の職員から探索者へ伝えられるので、遠からず《迷宮》や探索者たちの様子も普段通りに戻るだろう。


 ちなみにミリィとはアーランディアのギルド本部で別れた。

 ギルドマスターと他の職員から、仕事が回らないと泣きつかれたためだ。

 別にギルドマスターが無能だというわけではなく、日頃ミリィが行っている仕事は彼向きではなかったのである。


「……仕事を任せる相手は選ぶべきだったわね」とは溜め息をついたミリィの台詞である。


 そして俺とイツキはと言えば、フォーン魔導具店へと戻り早速『キリキリ丸』の修復作業へと入っている。

 店までの道中でイツキは俺に背負われたまま(流石にギルドで予備の服を着させたのだが)だったので、かなり恥ずかしそうにしていたが。


「ところでエルト。私は魔導具の修復についてはよく知らないのだが、〈白毛猿〉の素材を直接使うのか?」


 未だに疲労が抜けず椅子に座り込んでいるイツキが、不思議そうに首を傾げて訊いてきた。

 その疑問は正しい。確かに『キリキリ丸』に〈白毛猿〉の素材を使う場所があるとは思えないのが普通だ。


「いや、今回は直接素材を使うことはないな。もちろん魔導具によっては素材を加工したりして使うこともあるけど、『キリキリ丸』の場合は効果付与の触媒として使うんだ」


「効果付与の触媒として?」


「うん、見た限り『キリキリ丸』には『硬度強化』・『切断強化』・『重量軽減』といった魔術が付与されてたみたいだからな。これらの魔術を定着させるためには繋ぎになる素材が必要なんだ」


 ベースとなっている『キリキリ丸』自体が貴重な素材で創られたからこそ、効果付与の触媒となる素材も厳選せざるを得なかった。

 加えて破損した状態を元に戻すのは一般の魔術師には不可能である。そのためには魔術の技術だけでなく、武具そのものへの知識と理解が必要だからだ。

 この辺は魔導付与師(マギス)の面目躍如といったところだな。


「修復には一晩はかかるからイツキは先に休んでいていいよ。今日は疲れただろう?」


「……いや、いくらなんでもそんなわけにはいかない。私に出来ることは何もないかもしれないが、せめて修復作業の間くらい待たせてもらおう」


 ……あー、駄目だこりゃ。

 人の良さと責任感が悪い方向で出てる。


「あのさ、イツキ。そんなことされるとハッキリ言って邪魔なんだ。気になって逆に集中出来ないだろ」


「うっ……どうしても駄目か?」


「駄目だ」


 少し厳しいかもしれないが、ここはキッパリと言っておいたほうがいいだろう。


「イツキが今するべきことは大人しく休んで疲労を癒すこと。そうしてくれれば俺も安心して作業ができるからな」


「むぅ……わかった。よろしく頼む」


 俺の言葉に不承不承頷いたイツキはペコリと頭を下げて、何度か振り返りつつも自室に向かっていった。

 さて、それじゃあ俺は俺でやることをやるとしようかね。

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