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朝岡美夜日は疾駆する 〜常識がバグり散らかした世界で、喋る刀と青春キラキラJKライフを勝ち取ります〜  作者: 叉火多
第六章 最後の剣闘

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第五十六話

 らみるちゃんとの剣闘から三日が経った。

 私はあの後、ハクと学園内を駆けずり回った。せつなさんが所属する三年桜花組の教室にも何度も足を運んだ。

 でも結局一度もせつなさんを捕まえることは出来なかった。

 いったいどういう人なんだろう。学園にも来たり来なかったり、来たかと思えばすぐ帰ったり。帰ったかと思ったら、どこそこで見かけたなんて話もあった。まるで意味が分からない。

 身体の傷も癒えぬまま連日駆け回り、私は身も心もくたくたになっていた。


「ねぇねぇミヤッピ、お昼食べないの」

「放っておきなって、ゆっこ。美夜日は《聖母》探しでお疲れなんだよ。母を訪ねて幾千里ってね」


 お昼休み、自分の席でボロ雑巾のようにへばっている私のもとへ、スズちゃんとゆっこがやってくる。軽口に付き合う気にもならない。


「きっとそのうち登校して来るよ。ここは気長に待とうよ」


 聖剣バーティミアスを構えて自撮りしながら、隣の席のエリちゃんが言う。


「でもなんで《聖母》のせつな姉上様を探してるんだっけ」


 手近な空いてる椅子に腰かけるゆっこ。スズちゃんは机の方にお尻を乗っけて足を組む。


「《小次郎》との剣闘がうやむやになったからね。美夜日としては《小次郎》よりさらに上の席次の《聖母》を倒すことで挽回狙ってるってとこじゃね」


 そんなんじゃないよ、と言おうと思ったが面倒臭いので黙っていた。カトリアーデの世界線に戻るためだなんて説明するわけにもいかないし。


「そういえば結局辻斬り事件の犯人は分からないまま?」


 パシャパシャと角度やポーズを変えながら自撮りを続けるエリちゃん。スマホを置け。


「みたいだね。《小次郎》の詳しいアリバイはその後取り巻きたちが事細かく証明したらしい。今後前回と同じ主張で美夜日が剣闘を挑もうにも、《小次郎》を姉上様って慕う連中が黙ってないよ」


 いくら勝てば是となるとはいえ、あまりに無理な理由での剣闘の申し入れは周囲の反発を招くだけだ。相手が十剣鬼ともなれば必ずことが大きくなるだけに尚更だ。


「じゃあ剣闘も中断したままか」

「幸いなことに《小次郎》も蒸し返す気は無いみたいだから、教頭預かりでこのまま凍結状態が続くだろうね」

「そっかぁ。ま、下手人不明の斬殺遺体なんて学園全体で毎年何件かは必ずあるものだしねぇ」

「だよねぇ」

「剣武会はもしかしたら辻斬り犯の正体を掴んでるのかも知れないけど、あーしらに情報が下りてくることはまずないよ。勝手に内々に粛正なり処分なりしてそれで終わり。あってもせいぜい掲示板に紙切れ一枚、『何月何日、下手人を処分した』くらいの発表でしょうよ」


 とんでもなく物騒な話を、相変わらず軽いノリでどうせいつものことだと了解し合う三人。まったくなんて学校だ、この士峰館学園てとこは。もはやツッコむ気も起きない。

 そういや、らみるちゃんはどうしているだろう。あれ以来一度も姿を見ていない。


 お母さんから聞いた話だと、あの後彼女は辻斬り事件の真相を《小次郎》永久子に全て打ち明けたらしい。犯人が確定した以上、私が《小次郎》永久子と剣闘する動機は消滅し、逆にらみるちゃんの姉上様である《小次郎》永久子の監督責任と、十剣鬼の学園内自治能力を問う形となって問題は剣武会全体へと向けられた。私は知らなかったが、らみるちゃんと《小次郎》永久子は正式な姉妹の契りを結んでいたようだ。

 つまりらみるちゃんは自分の辻斬りを隠蔽するために独断で中断中の剣闘に介入、私を始末しようとしたと解釈された。

 私はこうなることを見越して《小次郎》永久子に言ったわけじゃなかったんだけど……。らみるちゃんを倒して、ようやくカトリアーデの世界線に戻れると思っていたわけだし。


 そしてこれらを先頭に立って追及の声を上げたのはお母さんだった。娘が嵌められ、殺されかけた怒りも恐らくあったのだと思う。恐らくとか思うという表現なのは全く怒っているように見えなかったからで、私の希望的観測によるものだ。


 まぁとにかく、卒業生にして《剣帝》の名を持つ朝岡美菜萌の存在を、剣武会も無視出来なかったようだ。

 十剣鬼内でも《小次郎》と《無形》を処分する声は上がったらしい。お堅い木南ちゃんはさもありなんだが、面識のない皆方さんや冷泉さんもそれに賛成したというから、剣武会十剣鬼は改めてただの仲良しこよしの集団じゃないってことを再認識させられた。

 こうして私の知っているところや知らないところで、様々なやり取りがあったことが窺えた。

 なのに。


『肝心の会長である天空寺せつなが雲隠れして出て来やがらねぇとはな』


 ハクが私を代弁してぼやく。

 言う通りだった。まさか剣武会十剣鬼内がこんなことになってんのに、第一席の天空寺せつながほとんど姿を見せないなんて思いもしなかった。今回の件を剣武会会長として、十剣鬼第一席として知らぬ存ぜぬで済ませられたはずがない。絶対に裏や表で手や口を出しているはずなのに、私が彼女の姿を見ることはついぞなかった。

 今日こそはと待ち伏せても、空振りばかり。本当になにを考え、行動してんのかが分からない。

 おかげでそれに振り回された私は、こうして精根尽き果てているという有様なのだった。

 ため息を吐き出そうとした時、ガラリと私のすぐ横の窓ガラスが開いた。


「こんにちは! お届け物です」


 三階の外側から顔を覗かせたのは遥乃だった。彼女は昼休みになるとこうして、高等部校舎を外側から登って来る。


「あ、来た来たはるっち」


 ゆっこが慣れた調子で迎え入れる。


「遅くなりました!」


 でんっと大きな風呂敷包みを近くの机の上に置く。


「日に日にでっかくなってない? そんなの持ってここまで上がってくるなんて、あんたもなかなかやるね」


 感心するスズちゃん。


「今日のおかずも楽しみだね、ズーラン」


 うきうきのゆっこ。


「あ、写真撮っていい?」


 バーティミアスを仕舞って、スマホを向けるエリちゃん。


「どうぞ。みなさんで召し上がって下さい」


 風呂敷包みを解くと、中から三段になったお重が現れた。蓋を取って広げていく。


「お姉ちゃん?」


 身動きひとつ、呻き声ひとつ上げない私を遥乃が心配そうに見る。


「美夜日はほっといていいよ。そのうち動き出すから」

「はるっちはほんと料理上手だねぇ。ミヤッピには勿体ないくらい出来た妹だよ」

「ゆっこちゃん、マジピのVサインの間に遥乃ちゃんのお弁当入れて写真撮ろう。そっちから刀構えてくれる?」


 遥乃は私の妹なのに姉上様である私を差し置いて、好き勝手言う三人組。しかし今の私は怒る気力もないのだった。


「お姉ちゃん、はい、あ~ん」


 見ると遥乃の持つ箸が、分厚い卵焼きを摘まんで私の口元に近付いて来た。

 口を開ける。

 卵焼きが押し込まれる。

 もぐもぐ。


「……おいしい」

「ほんと? 良かった☆」


 気遣ってくれるのは遥乃だけだよ。


 ピンポンパンポーン。


 ――一年玻璃組の朝岡美夜日さん。至急剣武会執行室まで来るように。繰り返します……。


「ありゃ、呼び出しだねミヤッピ」

「あんたまたなんかやらかしたの?」

「遥乃ちゃん、伊勢海老食べていいかな」


 私は緊張感のない三人を無視して椅子を引くと立ち上がった。


「行くの、美夜日? いつかみたいにすっぽかさないんだ」

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫だよ。ちょっと行ってくる」


 私は腰に差したハクの位置を直すと、玻璃組の教室を出た。

 ついに来たね、ハク。


『まぁ、このまま捨て置かれるとは思っちゃいなかったがな』


 まったく冗談じゃないよ。遅いくらいだよ。


『さて、何が出るか。準備はいいか』


 とっくに出来てる。私は剣徒会館内にある剣武会執行室へと向かった。

 東校舎を出て武道場を思わせる建物へと入る。目的の扉の前に立ち、呼吸を整える。

 コンコンとノックをすること二回。


「どうぞ」

「失礼しまーす」


 重い扉を開いて私は剣武会執行室へと足を踏み入れようとして止まる。

 その瞬間強烈な圧が私の全身に叩きつけられた。

 正面を見ると、新品になった長机の中央に羽織りを纏った女子が座っている。後ろには九人の人間を従えて。

 その中にはらみるちゃんの姿も、《小次郎》永久子の姿も、辞任を申し出ていたはずの木南ちゃんの姿もあった。


「さぁ、こちらへ。朝岡美夜日さん」


 たおやかに微笑むのは剣武会十剣鬼の第一席・《聖母》天空寺せつなその人。


『ついに現れやがったな』


 学園最強の武人たちが放つ剣気の圧力が、容赦なく私を押し潰そうとしてくる。いったい今からここで何が始まるのか予想もつかない。

 刀の鯉口部分を左手で握る。


『ここでやるか、美夜日。それとも……』


 ハクの声に一歩を踏み出す。

 なんだろうと、青春キラキラJKライフを勝ち取るまで、私の足は止まんないよ。


『クク、だよなぁ!』


 私は正面を睨み据え、絶望と希望の真ん中へと、相棒と共に一歩を踏み出した。




〈了〉


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