表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才料理人のお姉様の影武者だった私、廃村に捨てられたので好き勝手に食堂を開きました  作者: P作


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/13

第十三話(最終話) 奇跡の美食村ガラン、そして私の名前の食堂

 王都での騒動から一週間後。 私たちの馬車がガラン村の街道を抜けると、目の前には信じられない光景が広がっていた。「……え? ここ、本当にガラン村?」 かつて不気味な朝靄に包まれていた廃村の姿は、そこにはなかった。王都から贈られた復興資金と、噂を聞きつけて集まった移住者たちの手によって、崩れかけていた家々は美しい木造の建物へと建て替えられ、街道は石畳で舗装されている。ゴルドじいさんの畑は何倍にも広がり、みずみずしい緑の葉が太陽の光を浴びて輝いていた。 そして、村の中央。 かつてボロ小屋だった食堂の跡地には、木の温もりが溢れる、広くて立派な新しい建物が建てられていた。入り口には、ゴルドじいさんが自ら最高級の硬木を削って作ったという、見事な看板が掲げられている。 そこに刻まれているのは、お姉様の影でも、誰かの身代わりでもない、私の本当の名前。 ——【食堂アンナ(Restaurant Anna)】「アンナちゃん、お帰りなさい! あなたの新しいお城よ!」マリナさんが満面の笑みで出迎えてくれた。

「カカッ! 突貫工事をしておいたわい! どうじゃ、気に入ったか?」ゴルドじいさんが腰を叩いて笑う。「みんな……ありがとうございます! 最高です!」 胸の奥から熱いものが込み上げ、視界がじんわりと滲んだ。

 私の、私だけの食堂。ここから、私の本当の物語が新しく始まるのだ。 【食堂アンナ】のグランドオープン当日。「おーい、アンナ! 開店前からとんでもねえ行列だぞ!」 窓の外を見ると、石畳の街道の奥まで、信じられないほどの長蛇の列ができていた。近隣の住民はもちろん、噂を聞きつけた王都の貴族、ルキウス様の姿まである。「よし……みんな、お待たせしました! 開店です!」 本日のグランドオープン記念メニュー。それは、このガラン村で出会った最高の仲間たちと、大自然の恵みを一皿に凝縮した、私の料理人人生の集大成。 『ガラン村の奇跡・極厚熟成鹿肉の薪焼きステーキ〜至高のハーブベリーソース&黄金マッシュポテト添え〜』。 ベルトさんが命懸けで仕留め、一週間熟成させた大鹿のロイン。それを、ゴルドじいさんが切り出してくれた薪の強火で、表面を一気に焼き上げる。パチパチパチ! と、薪が爆ぜる音と共に、猛烈に香ばしい匂いが溢れ出した。 マリナさんと裏山で摘んできた野生の甘酸っぱいベリーと数種類の新鮮な香草を果実酒でじっくり煮詰めた「ハーブベリーソース」。ゴルドじいさんが豪語した、バターと牛乳をたっぷり練り込んだ絹のように滑らかな黄金色のマッシュポテト。「お待たせいたしました! 【食堂アンナ】へようこそ!」 焼き立てのステーキを客席へ運ぶ。肉の断面は完璧なロゼ色。ナイフを入れるまでもなく、触れただけで溢れ出しそうなほどの透明な肉汁が表面でピチピチと跳ねている。 ルキウス様が洗練された所作で肉を切り、口へと運んだ。次の瞬間、彼はガタッと椅子を鳴らして立ち上がり、感動のあまり胸元をかきむしった。「おお……おおおっ……!! なんだこれは、美味すぎるッ!!」 ルキウス様の絶叫を皮切りに、店内のあちこちから「美味い!」「信じられん!」と、地鳴りのような歓声が湧き上がった。「アンナさん、今日も最高の料理をありがとう!」

「あなたの料理を食べるために、私はこれから一生この村に通います!」 みんなが、私の目を真っ直ぐに見つめて。私の名前を呼んで。私の作った料理を、心の底から愛してくれている。(お姉様。私は今、世界で一番幸せな料理人です) 胸の奥に深く刻まれていた「自分の名前で呼ばれたことがない傷」は、このガラン村の温かい笑顔たちの手によって、今、完全に、跡形もなく癒やされていた。 その日の夜。 すっかり静まり返った店内で、私は一人、窓の外に広がる満天の星空を見上げていた。「おい、遅くまでお疲れさん」 振り返ると、片付けを終えたベルトさんが、二つの木製マグカップを持って歩いてきた。中にはマリナさんが淹れてくれた温かいハーブティーが入っている。「ベルトさん、ありがとうございます」 ベルトさんは私の隣に並び、静かに窓の外を見つめた。「見違えるような村になったな。……お前が来てくれたおかげだ、アンナ」「ううん、私の方こそ、ベルトさんたちがいてくれたから、ここで自分の名前を見つけられたんです」 私が微笑むと、ベルトさんは少し照れくさそうに視線を逸らし、それから、大きな温かい手で私の頭を優しく撫でた。「これからは、もうどこにも行く必要はねえ。ここがお前のホームだ。……ずっと、お前の美味い飯を特等席で食わせてくれよな、アンナ」「……はい! 毎日、世界一美味しいご飯を作りますね」 顔がカッと熱くなるのを感じながら、私はベルトさんの隣で、嬉しそうに頷いた。 廃村に捨てられた影武者の少女は、今、自らの腕とガラン村の絆で、世界を虜にする本物の料理人となった。 美味しい匂いと笑顔が絶えない、この【食堂アンナ】の物語は——ここから、どこまでも、未来へと続いていく。


——完——

最後まで読んでくださってありがとうございます。

アンナの物語は、ここでひとまず完結です。

感想やブックマークをいただけると、作者がとても喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ