第十二章 オカン、たこ焼き伝授する
大阪名物たこ焼き。
皇帝により、一度は魔族に奪われたクロゴネンドとドドラームを取り戻したことが正式に発表された。
発表を知った貴族も平民も関係なく、皆の顔は明るい。魔王軍の侵攻はこの世界の人間たちにとってまじかにある危機であり、恐怖でもある。完全ではないにしろ、魔王軍を撃退できたのだから。
城の会議室に集まったのは皇帝のジョセフと皇女のシンシア、大臣のチャド、騎士団長のバーナードと真輔と貴族の代表者たち。
オカンは会議には参加していない、参加したところで確実に寝てしまう。真輔が後で解りやすく説明してあげる。
今回、話し合われる議題はクロゴネンドとドドラームの復興。新たな魔王軍の侵攻に対する警戒。
「クロゴネンドの件だが、奪還の礼としてオカン殿と真輔殿に領地として渡したいと考えている」
皇帝の一言に、
「お待ちください、皇帝閣下。あの者たちは貴族どころか、よそ者。領地を与えるなど、もってのほか。お考え直してください」
大臣が反対した。
「僕たちに領地の統治の仕方なんて解りませんよ、復興も同じです。何をやればいいか解りません」
大臣とは違った意味で反対。復興事業なんてネットやテレビの情報で見たぐらいか、義援金に寄付したぐらい。
「復興はこちらでやる。オカン殿と真輔殿には復興したクロゴネンドの領主になってもらいたい。統治に関しても専門家をサポートにつけよう」
皇帝の人となりから、押し付けるつもりなど無く、本当に感謝の気持ちから言っている。
「真輔さんは優秀ですから、統治のことは学べば出来るようになると思いますよ」
シンシアも父親と同じ考え。
日本では高校生をしていた真輔。学校の成績は良い方だったし、物覚えも良いと言われている。
皇帝と皇女が認めたので他の貴族らは反対の声は上がらなかった。大臣も不満な顔をしていたが、口に出して反対することはせず。
「クロゴネンドとドドラームの復興と復興後は避難民の帰還と新たな住民の募集を行う」
クロゴネンドとドドラームが襲撃された時、かなりの数の避難民が帝都へやってきた。皇帝は迷うことなく、全員を受け入れ、住む場所と仕事を与えた。だからこそ、皇帝は多くの民に慕われる。
「魔王軍の侵攻に対する件ですが、オカンさんを最大戦力とした騎士団で警戒に挑みたいと思います」
騎士団長のバーナード。異論は出てこない。クロゴネンドとドドラームを奪還できてのは紛れもなく、オカンの力によるもの。そこに疑う余地なし。
異論は出てこなかった一人を除いて。
「貴族でないうえによそ者に任せるというのは貴族の誇りに関わります」
こんなことを言いだすのは大臣のチャド以外にいない。他の貴族たちの中にはやはりお前かと、そんな顔をしていた。
「では貴族たちのみで魔王軍に勝てるというのか? チャドよ」
静かに皇帝が言った。
「オカン殿が来てくれるまで貴族どころか精鋭を集めた騎士団さえ、侵攻を食い止めるので精一杯であった。これは我らがラティストアン帝国だけではない、全ての人間の領域でも同じ。その中でオカン殿は圧倒的な力で魔族を撃退し、クロゴネンドとドドラームを取り戻してくれた。同じことが貴族たちのみで出来るのか?」
「そ、それは」
皇帝に言われ、たじたじ状態の大臣。
『地位に固執する者は、自分の地位より高い相手には逆らえないんだな』
心の中で呟く真輔。
「やぁ、オカンさん」
「オカンさん、今日も元気だね」
街を闊歩するオカンに帝都の住民は気軽に挨拶を交わしていく。
当初こそ、弩豹のコートを着たオカンを奇妙な目で見ていたが、人当たりのいいオカンと接しているうちに誰も彼もが打ち解けていた。
オカンさん、オカンさんと子供が集まってくる。
「よしよし、飴ちゃんあげるな」
子供たちに飴を配っていく。飴は街の店で購入したもの、元から持っていた飴が無くなったので。
街のみんなとの雑談を終えた後、オカンが向かったのは城から徒歩で往来できる一軒家。大きすぎず小さすぎる手ごろな大きさ。
戸をノック、
「入るで」
家の中へ。
「お待ちしておりました、オカンさん」
出迎えたのはニック。
「準備は出来とるか」
「勿論です、調理場へ来てください」
調理場へ向かうオカンとニック。
「おかげさまてお好み焼きは貴族平民問わず、好況でございます」
「そりゃ、良かった」
オカンも大阪の味が異世界で受け入れられて喜ばしい。
話しているうちに調理場に着いた。
「ここが私の調理場です」
コックの家だけあって広く立派な調理場、そこら辺の店にも負けてはいないだろう。
「オカンさんに言われた品を鍛冶屋に造ってもらいました」
ニックが手に持っているのは縦に四個、横に四個、計十六個の丸いくぼみのある鉄板。まごうことなきたこ焼きの鉄板である。大きさも手ごろ。
コンコンと叩いてたこ焼きの鉄板の出来具合をチェック。
「よく出来とるやないか」
オカンの合格を貰ったたこ焼きの鉄板。鍛冶屋がしっかり仕事をしてくれた。
「材料も集めれるものは集めました」
作業台の上にはたこを始め、小麦粉に卵にキャベツにネギに山芋に天かすに大根。天かすはニックの手作り。
「紅しょうと鰹節と青のりは無いんか」
「今、作ってもらっているんですが……。まだ、完成していないんです」
「それはしゃないな」
物は足りないが無い物は仕方がない。
「これが私が仕入れてきたたこです」
中々の大きさのたこを指し示す。
「こんなものをどうするのかと、漁師が不思議がったいましたよ」
「その漁師は可哀そうな奴やな、たこの旨さを知らへんのやから」
地球でもたこはその見た目から、デビルフィッシュなどと呼ばれて食べない国もある。
「下ごしらえ始めるで」
「はい」
まずはオカンがお手本で作る。
たこのぬめりと生臭さを取るため、塩で揉みこむ。ぬめりと生臭さを取った後は大根で叩き、柔らかくする。
「たこ焼きに使うんは足の部分だけ、足の先には毒があるから切り落とす」
ニックは料理の腕一本で平民から、城の料理長にのし上がった男。オカンの教えをしっかり見聞き、的確にたこの下ごしらえを学習していく。
塩を入れた熱湯に下ごしらえの終えたたこの足を上下させながらゆっくりと入れる。
茹で上がったたこの足をぶつ切り、一つ摘まんでニックが味見。
「これがたこの味ですか。初めて食べましたが、あの姿からは想像できません。独特の歯触りもいい」
生地は一晩寝かせた方がいいので昨日のうちに作っておいた。出汁はまだ鰹節が手に入らないので昆布だけ。
当然、この世界には冷蔵庫はないが、食材を冷やして保存するマジックアイテムの冷却箱で生地を寝かせた。
こんなご都合主義な便利な箱をどこで手に入れたかと言うと、クロゴネンドである。
奪還した後、回収した魔族のマジックアイテムの中に冷却箱があった。
魔族が残していった他のマジックアイテムの中で貴族たちが欲しがったのは戦争で使えそうな物や金目の物。
食材を冷却箱なぞ見向きもしなかっので、オカンが冷蔵庫にちょうどいいと貰って来たのだ。
魔族が冷却箱を何に使うために持っていたのかは不明、オカンも気にしていない。異世界でええもんもろた程度の認識。
十分に温まったたこ焼きの鉄板のくぼみに油を塗り、一晩寝かせた生地を溢れんばかりに入れ、たこにネギにキャベツに天かすを入れた。
生地の周囲が固まった頃を見計らい、鍛冶屋に造ってもらった千枚通しを使ってたこ焼きをひっくり返していく。
焼き上がったたこ焼きを皿に並べ、ソースとマヨネーズを塗る。ソースはお好み焼きの時に作ったものと同じたが、熟成させた分、味わいと香りが深まり、まろやかになっている。
「見事な球体になっていますな」
初めて見る球体に興味津々。
「熱いから、気つけや」
職人に作らせたつまようじで食べるオカン。
オカンに言われてこともあり、気を付けてたこ焼きをハフハフしながら食べる。
「熱い熱い、熱いがそれでも美味しい。外はカリカリ、中はトロトロ、たこはコリコリ」
美味しかったので、もう一つ食べるニック。
「やっぱり、ソースの熟成が足りんな。もう少し寝かせた方がええ」
試食が終われば、ニックがたこ焼きに挑戦。
「駄目だ、旨く球体になりません」
「まぁ、初めてやからな。あんたは筋がええんやし、すぐに出来るようになるで」
オカンにそう言われたニックはたこ焼きの練習に励むのであった。
たこ焼きは熱々が美味しい。




