先がない階段
目覚めると召使が焦ったように部屋を出て行った。
恐らく報告に向かったのだろう。
まず真っ先に気になったのは子供たちだ。
私以外に全く懐かない二人だから、きちんと元気にしているのか不安になった。
今すぐ確認に行きたかったけど、身体が思い通りに動かなくて、歯がゆかった。
そのとき、扉が開いて今一番見たくない男が顔を出す。
男は余程急いで走ったのか呼吸が荒い。
目覚めた私を見た彼は私に向かってずんずんと歩みを進める。
そして、ガッと私の顎を掴み上へと持ち上げた。
「随分と長い眠りだったな。お前の脳みそは借金があるということを当の昔に忘れたらしい」
明らかに怒りが含まれた声色に、痙攣が起きた。
「ごめ、ごめんなさい…。ごめんなさい。ごめんなさい…っ」
今彼に見捨てられたら、あの子達が死んでしまう。
その一心で泣き縋った。
そんな私を見た彼は怒りを通り越し呆れ果てたのかほどなくして部屋を出ていった。
彼が出て行った後も、しばらくは震えて泣いていた。
ようやく落ち着いたのは、子供たちを抱いた乳母が来てからだった。
すやすやと眠る子供たちを抱きしめ再度その存在を確かめる。
今日のことであの男がいつでも私を処分できる対象と認識していることぐらい分かった。
もう純粋だった頃になんて戻れない。
戻ることができないというなら、私は大切なものを守るために、深く、深く堕ちるしかない。
十七の冬、私は第三子を妊娠した。
つわりが酷い中でも仕事を突き進め成果も出したことで確かな地位を築いて行けた。
オリバーもオリビアも夜泣きはほとんど無かったから本当に助かった。
仕事に隙間ができればいつでも子供たちの元へ向かう。
この子達のために私は頑張れるんだと、思えたから。
十八歳の夏、第三子 イーライを出産した。
相も変わらず激痛に悶え苦しんだけど、その先にある存在に出会いたい一心で耐え抜いた。
オリバーが言葉を理解できる歳になったから、オリビアとイーライの名前を覚えさせた。
三人が皆、助け合える関係になるように。
出産が終えるとパーティーに出席するようになった。
もちろん、彼と同席で。
私の仕事はファミリーの内政に関わるためどうしても男は付いてきてしまう。
男のファミリーはイギリス最大規模ということもあってパーティーの規模は日本では想像もできなかったほどだ。
初めは緊張でがんじがらめにされていたけど、男の機嫌を損ねる以上に怖いことはなかったから、乗り越えることができた。
人との交流が増えるうちに、この世の醜い裏側を知っていった。
こんな世界に子供たちを置いてしまったことを酷く恨めしく思ったけど、どうにもならないことを嘆いても仕方がなかった。
私より酷い扱いを受ける人なんて五万といるのだから、今の境遇を悲観するなんてそれこそ傲慢だろう。




