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おばあちゃんの異世界漫遊記  作者: まめのこ
【第2章】丘の街ヴィトエート
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2 子供を助ける

子供をなるべく動かさない様に走り、急いで宿に戻る。


丁度日が落ちてアガットに気がつく者はいない。皆火元の方に注意が向いていたのも幸いだった。


宿屋に飛び込んできたアガットにロザールは驚いたが、噂で火事があったと知っているらしく、子供の手当てをしたいと頭を下げるとすぐに何があったのか理解して苦々しい顔をしてながら自分の部屋に通してくれた。


「俺の部屋だったら風呂場も勿論だが小さいが台所もある。自由に使っていい。何かあれば声を掛けてくれ。とりあえずあんたの荷物を持ってくる」


そういうと駆け出して行った。


ありがとうとその背中に声をかけて、急いで風呂場に駆け込み子供を包んでいた上着を解いていく。浴槽に水を張りつつ、肌にくっつき始めた服だったものをそのままに水をかけていく。


〜〜〜


「おい、あんたの荷物は居間の机に運んである。」


ロザールからそう言われるまでアガットは時間が経つのも忘れて子供の顔を水で濡らした冷たいタオルで包み、温くなると別のタオルと交換していた。体は浴槽にはった水で冷やせるが、顔はどうしよもなかった。粘着質な皮膚とそれを染み込んでしまった布がくっついているが気にせずそのまま水につけている。


「俺もそれを手伝おう。」


アガットの焦りが伝わったのか、ロザールは手を洗いながらそう申し出てくれた。

猫の手も借りたいほどだった。その優しさにアガットは泣きそうになるのをぐっとこらえた。泣いている時間なんてなかった。


「ありがとうございます。」


手洗いを終えたロザールに場所を変わってもらう。薬を作りたいからだ。


「薬湯をつくりたいのですが、桶か何かはありますか?」

「この子を入れられる大きさのは無い。浴槽を使え。後は俺に任せて薬を頼む。」

「本当にいいんですか? 薬草を煮るので、ロザールさんが次から使えなくなるかもしれませんよ?」

「構わん。それよりもこの子を助けてやってくれ。助けられるんだろう?」


そう聞かれてとっさに返答できなかった。助けられるという確証はない。応急処置をしている時に確認したが正直厳しい。でも助けたい。

あんな理不尽で不条理な出来事でこの子の人生を終わらせたく無い。

じゃなきゃこの子が可哀想すぎる。


「助けます。どうなるか分かりませんが、できる限りのことをします。」


そう伝えるとロザールは微かに微笑んでアガットの背中を押すように大きく頷いた。


〜〜〜〜〜


居間の壁に鍵をさし、異次元の部屋に通ずる扉を出現させ、必要な薬草と道具を持ってくる。


抗菌、解毒、鎮痛作用がある薬草と解熱作用がある木の根を瓶から取り出し、新しく水を貯めた浴槽に入れる。普段は薪で湯を沸かすがそんな時間が無いため、手っ取り早く火石とツェーラがくれたペンダントの先の黄色い宝石・雷石とを打つけて水の中に放り込む。火石が赤く発光していくのを確認して台所に向かう。


鍋には消炎、解毒、解熱作用のある薬草を入れ煮立てる。ある程度煮立せたら薬草を取り出し、もう一つの鍋と2つに分けて片方の鍋に蜂蜜と少量のシナモンそして精神安定作用のある木の実を少量を加えて混ぜ飲み薬を作っておく。


もう片方の鍋にはゼリー状の部分を切り出したアロエを加えて煮沸消毒するように煮立たせた後火から下ろす。冷めたら塗り薬が出来上がる。


終わったら氷石を持って急いで風呂場に戻る。

浴槽の薬草と火石を手桶で掬い出し、雷石と氷石を打つけ浴槽に入れてお湯を冷ましていく。


「お湯のままだとダメなのか?」

「酷い火傷を負っている時にお湯に入れると逆効果です。最悪ショックで死にます。むしろ水の方がいいんですが、煮立たせないと薬草の効能が出てこないんです。」


冷たくなったお湯に子供をゆっくり浸けていく。


「様子を見ながら、このまましばらく浸けておきます。」


〜〜〜〜


ロザールと交代しながら子供を薬水につけてどのぐらい時間がたっただろう。


皮膚と癒着していた布が薬湯で剥がれていくたびにすくい上げ、時々冷ました飲み薬を飲ませていく。低体温症になる前に引き上げ、風呂場のタイルに敷いた清潔なタオルの上に寝かせる。


台所から塗り薬の入った鍋を抱えて風呂場に戻る。


「筍を何に使うんだ?」

「これはカンツーオと呼ばれる植物で、割くと中の実は一枚一枚薄いガーゼの様になってるんです。」


実際に見た方が早いと思い、アガットは皮を剥いで薄緑色の実の部分を取り出す。

子供の腕を取り塗り薬を塗ってから、カンツーオの実を一枚割いて巻いていく。

割いた葉っぱが塗り薬の水分を少し吸って膨れ、葉と葉がお互いがピタッとくっつき始めた。


「割いた葉っぱは裏が粘着質で水分を吸うとお互いにくっつき始めます。逆に表はツルッとしていて水を弾くんです。」

「つまり保湿しながら汚れを弾くと言うことか?」

「はい。それに消炎作用もあるのでガーゼを使うより断然効果的です。」


説明を終えると後はお互い黙々と手を動かす。ロザールが塗り薬を塗り、アガットがカンツーオを巻いていく。全身に巻き終わると子供をそっと抱き上げ、居間に敷いた布団の上に寝かせる。

応急処置が終わり少しホッとしたのか2人に疲労の波がドッと襲う。


「後は飲み薬を少しずつ与えながら様子を見ます。多分、今晩あたりが山場になると思います。」

「とりあえず、ひと段落だな。お茶と何か食べる物を持って来よう。こいつの様子を見ててくれ。」

「ありがとうございます。台所片付けたのですが、もしかしたらまだ汚れが・・・」

「気にしないでくれ。こんな短時間でこれだけやったんだ。少しぐらい汚れてた方が可愛げがあるもんだよ。」


そういうとロザートさんはアガットの頭をひと撫でして、台所に向かう。



ひどい・・・


カンツーオの葉でミイラのようにぐるぐる巻きにされた子供の頬をさすりながら、アガットはなんとも言えない苦々しい思いが胸に広がるのを感じた。


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