管理という名のレベルアップ!
雑用係を始めてからとうとう9ヶ月。
今日は年末の棚卸。最終決算だ。
三月前には施設内備品が俺の管轄となり、損耗の激しい物を洗い出す。この解体用ナイフなんて、刃こぼれしている。潮時かな。
そうそう、今日は帳票の計算もしないと。
クイールさんが担当する伝票を集計しなきゃいけないんだ。もちろん、検算はクイールさんがしてくれる。さすがに俺一人に任せられないもんね。
日が沈む前には終わる。
冬の時期は冒険者も疎らにしか立ち寄らず、依頼も採取依頼がほとんどない分は楽なのだ。
寒い分、薪の管理が甘いと死活問題だけどね。
節約の為に、解体係以外のギルド職員はギルド長も含めて一階のロビーでお仕事だ。
「キース君」
「はい!」
俺は、俺の机。俺の机! からクイールさんに呼ばれて席を立つ。
「間違いはありませんでした」
「本当ですか!?」
伝票の集計は問題なかったらしい。ホッと息を吐く。
「ええ。計算を始めてからここまで、よく頑張りましたね」
クイールさんが満面の笑みを浮かべて褒めてくれた。嬉しくなって口許に笑みが溢れてしまう。
「これだけできれば次のステップに行っても良いでしょう。これを」
ゴソリ、と彼は足下に置かれた鞄を探る。
中から取り出されたのは濃紺に染色されたフェルト生地で装丁された分厚い本だ。
「これは……」
受け取った俺はしばらく放心していたようだ。クイールさんが微笑ましそうに眺めてくる。
「ありがとうございます。クイールさん」
「いいえ。ここまで辿り着けたのは貴方の努力が実ったからです。よく頑張りましたね」
手中にある一冊を、しげしげと見つめる。
「しかし、魔法使いとしての道は今からが始まりですよ。ここまでは予備知識ですから」
あ。
「そっか、そうですね」
「これから先も、努力し続けて下さい。道はずいぶん長いですよ」
息が詰まり、深呼吸する。
「はい……。ありがとうございます」
「さあ、机に戻って読んで来なさい」
「はい! ありがとうございました!」
クイールさんに、深々と頭を下げる。
受け取った本は『空間魔法上巻』と箔押しされていた。
感極まった俺は涙がこみ上げてきて、頭を上げられない。
「ほら。机で読んで来なさい」
「……はい」
グッと袖で拭い、席に戻って魔法書を開く。
魔法書は白紙だったが、徐々に黒い文字が浮かび上がってきた。
『空間魔法使い
キース の魔法書。
《索引》
レベル0「ウォレット」
レベル1「 』
『レベル0 「ウォレット」
小さな異空間を作り出す魔法。
五十枚ほどなら一瞬で出し入れできる。
最高百枚まで入金可。
入れた金額の把握が可能。
レベル1 「 』
んん?
そこから先は、ずーっと白紙が続いていた。つまり、俺の使える魔法はーー
肩を叩かれ振り向くと、帰り支度をしたクイールさんがいた。
「先は長いですよ。頑張りなさい」
あ。う。
「嘘だろうっ!?」
俺の魔法は貯金箱以下だった。