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青い春には赤い棘がある。  作者: 早坂かんた
第一章 消えた恋文(The Lost Love Letter)
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死んでいる青春

 少年は夢を見ていた。


 誰もが羨むような眩しい日常に彩られた青春時代を過ごすことを。


 友と語らい、甘酸っぱい恋の味を知り、大人の階段を一歩ずつ上がっていく。そんな理想の日々を、心から夢見ていた。



 しかし、現実は残酷だった。


 クラスで話す友達は作れど、休みの日に一緒に過ごすほどの関係性にまでは至らず、家で一人過ごす日々。


 女子と軽い挨拶は交わせど、お互いの恋愛観や誰それの恋バナを語らうような場面は一度もない。


 誰に聞いても「そんな人いたっけ?」と言われるような、微塵も興味関心を惹かれない、存在感の薄い脇役中の脇役。


 キラキラ輝く一軍の陽キャ主人公どころか、ぼっちで笑われる悲劇の主人公にすらなれない。


 学園ラブコメに出てくるモブAですら言い過ぎな、モブEの位置。


 それが少年の現実だった。


 もちろん、変わろうと努力した。


 オシャレ雑誌を読み漁って最先端ファッションを知り、貯金を切り崩して高い服を買ってみたりした。若者がこぞって行く有名なカフェチェーン店で呪文のようなオーダーをしてえるドリンクを片手に写真も撮った。


 しかしどれも長くは続かず、気づけば嫌悪感を抱くようになって距離を置く始末。


 結局、自分がいるべき場所に戻され、またいつものつまらない日常を過ごす。



 中学時代から重ねてきた数々の失敗を経て、少年はある一つの結論に至った。


「夢を見れば、バカを見る」


 生まれた時から自分の居場所は決まっていて、そこから抜け出すことは決してできない。


 夢を叶えられる人の数には限りがある。


 そして、自分はその中にはいない。


 だから、少年はこう思うことにした。


「俺の青春は最初から死んでいたんだ」



 * * *



「それで、俺にどうしろと?」



 一先ず空いている席に座り、勝手に頼まれて払わされたバニラシェイクを一口啜る。


 まだ全く溶けていないせいでいくら啜っても一向にバニラ味の液体が口の中に入ってこない。



「そうだな。まずは周囲への聞き込み調査から――」


「断る」



 寸秒の間も空けず、はっきりと告げた。


 どうしてよく知りもしない女子を助けないといけないのか。全く持って理解に苦しむ。


 俺は別に超能力者でもなんでもない。さらに付け加えるとするなら、探し物を見つけることに関してはどちらかといえば苦手だ。週に一回は消しゴムを買うくらいな。


 どうしてああもすぐどこかに行くのかね・・・。絶対に妖怪か何かの仕業に違いない。



「恵・・・おまえってやつは・・・」


「何だよ?」


「この状況で断るか? 普通」



 あからさまに大きな溜め息を吐く博の言いたいことはわかる。


 二人だけならまだしも、依頼人の女子が目の前にいる状況にも関わらず即答で断るのは確かに普通ではないかもしれない。


 だが、そんなことは知ったこっちゃない。


 この女子を手助けしたとして、俺にどんなメリットがある?


 助けてくれたという恩義が好意に変わったりするのか?


 そんなラノベでよく見かけるハーレムラブコメ展開になるとでも?


 俺の全財産三万三千円を賭けてもいい。絶対にそんな展開は起こらない。助けたくらいで惚れる女子など、現実世界にはいない。


 結局この世は顔と金と権力なんだよ。



「この顔。まーた脳内でめんどい論理展開してんな」



 またいつものが始まった、とでも言わんばかりの呆れ顔をしてテーブルの中央に置かれたポテトに手を伸ばす。



「あの、ちょっといい?」



 これまで無言だった目の前の女子が控え気味に話に入ってくる。


 すっかり存在を置き去りにして目の前の友人とくだらない会話を繰り広げてしまっていた。


 申し訳なさを抱きながら、黙って女子の言葉を待つ。



「えっと。とりあえず自己紹介してもいいかな?」



 テーブルを挟んで斜め向かいに座っている女子の発言に、博は「そうだった」と言ってどうぞどうぞと身を引くジェスチャーをする。


 そういえば、お互い自己紹介すらまともにしていなかった。


 あっちは博から俺のことを聞いているかもしれないが、こっちは全く何一つとして彼女の素性を知らない。


 もしかして、博の彼女・・・いや、それはないか。


 昨日の夜に『誰か良さげな女子紹介してくんねえか?』というメッセージが届いていたし。


 もちろん返信はしていない。いつものことだ。


 となると、あと可能性として考えられるのは・・・なんだろう?


 おそらく同じ学校なんだろうが、彼女の顔に見覚えはない。



「初めまして。嘉屋くんと同じクラスの藤沢紗奈絵ふじさわさなえです」



 手慣れた感じの愛想の良い挨拶。これだけで彼女の社交性の高さが窺える。


 博と同じということは三組か。


 おそらく染めているであろう茶髪のポニーテールが揺れ、ふわりと女子特有のシャンプーらしき香りが鼻を掠める。



「ども。七組の大和恵です」



 視線を少し下に落として頭だけを前に出す。誰が見てもコミュ障の自己紹介なのはわかっている。俺だってできることなら目を見て普通に挨拶したい。


 しかし、どうにも初対面の人間との挨拶はこうなってしまう。特に女子は挨拶した後にどんな話をすればいいのかわからない。


 まずもって共通の話題が一つもないんだよな・・・。


 そんなことをうだうだ考えている間にも時間は無常に流れていく。


 情けなさと惨めさが棘のように心に突き刺さる。


 この時、やっぱり自分は根っからの人見知り陰キャであることを改めて痛感した。

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