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策謀を裂く竜翼、聖光を駆る天馬

「今日は、Aクラス・Bクラス合同で、実戦形式の授業を行う」


晴れ渡る空の下、演習場には両クラスの生徒たちが一堂に会していた。緊張と期待が入り混じる空気の中、エレノアもまた、静かにリリスの気配をうかがっている。今日は、実戦さながらの合同演習――力と絆が試される一日が始まろうとしていた。

「対戦相手はくじ引きで決める。同じ番号の者同士が組むこと」

教師の声に従い、生徒たちは順番にくじを引いていく。細い棒の先には、それぞれ番号が記されていた。


「8……ですわね」

エレノアが手にした棒には、整った文字で“8”と刻まれていた。さて、対戦相手は――


「はーい! 私も8番です!」

元気いっぱいの声とともに駆け寄ってきたのは、リリスだった。


「リ、リリスさん……?」

「お互い、頑張りましょうね♡」


無邪気な笑顔を浮かべるリリスに、エレノアはわずかに戸惑いを見せる。だがその裏で、リリスは心の中でほくそ笑んでいた。

(ふふっ、昨夜、くじに細工をしておいて正解だったわ。これで確実に、あなたと戦えるもの)


可憐な仮面の下に、したたかな策略が潜んでいるとは、エレノアはまだ知る由もなかった――。


対戦組の名前が読み上げられると、演習場中央の円形ステージへと二人は歩み出た。砂を固めた土台の上には、六芒星の結界が輝いている。ここから外に出されれば失格――学園伝統の「陣払い」ルールだ。観覧席からは同級生たちのざわめきが聞こえる。


審判役の教師が声を張った。

「双方、殺傷魔術と呪禁系は使用禁止。それ以外の魔術は自由とする。準備が整い次第――はじめ!」


結界石が脈打ち、蒼い光がフィールドを包み込む。瞬間、エレノアは静かに手を掲げた。


「目覚めなさい――《蒼嵐の王》、ヴァエリオン」


その言葉に呼応するように、彼女の背後に潮霧を孕んだ蒼い嵐が渦巻いた。そして、潮風の轟きが一閃。そこから姿を現したのは、一頭の蒼きドラゴン。研ぎ澄まされた鉤爪と、空を裂く双翼。――風と水を操る《蒼嵐の竜》、ヴァエリオン。その威風堂々たる姿に、観覧席からどよめきが起こる。


一方、リリスは紅いリボンをふわりと解き、空に掲げた。

「羽ばたいて、光の乙女――ルミナ!」


まばゆい閃光とともに、純白の羽音が響く。舞い降りたのは、優美な白銀のペガサス。額に宝石のような角を持ち、虹色のたてがみが光を散らす。その名はルミナ。凛とした瞳で、ヴァエリオンを見据えた。


「ふふっ、お互い立派な使い魔を持ってますわね」

「ええ。でも、力を借りるのは同じ――こちらも本気でいきます」


二人の視線が交差する。リリスは微笑を浮かべたまま、密かに懐の細工に指をかけた。

(くじを細工して、あなたと戦う機会を得た。この好機、絶対に逃さないわ)


だが、エレノアもまた既に警戒していた。ペガサスの足元に残るわずかな魔力の痕跡――昨夜リリスが演習場に忍び込んでいたことを、ヴァエリオンが感知していたのだ。


風と水、聖光をまとった騎士と天馬の戦いが、今始まろうとしていた――。


結界が震え、蒼嵐の竜と聖光の天馬が向かい合った。砂塵を跳ね上げてヴァエリオンが巨翼を半開きにし、低い咆哮を漏らす。対するルミナは天幕のような翼をゆったりと広げ、銀白の鬣をすべらせながら軽やかに蹄で土を踏む。


リリスの指先が懐の内側をなぞると、細い銀糸で綴じられた札がひそかに現れた。

(――ここよ)


その瞬間、演習場の東側、六芒星の外縁に重なるようにして刻まれた〈補助陣〉が淡く発光した。昨夜、リリスがわざわざ夜風を避けて描き残した秘匿の魔法陣――“惑乱の迷図マーヤ・ルーン”。


「ルミナ、合図!」


リリスが腕を振り下ろすと、ルミナは一閃、天空へ舞い上がる。魔法陣の中心から無数の光の羽根が噴き出した。羽根はヴァエリオンの周囲で舞い散り、青紺の鱗に触れた瞬間、ゆらりと水面のような幻影を揺らす。視覚・聴覚・嗅覚の境界をねじ曲げ、敵味方の区別を曖昧にする幻惑波だ。


ヴァエリオンの金色の瞳が揺らぎ、鋭い竜翼が一拍震えた。


「やっぱり仕掛けてきたわね――でも!」


エレノアは胸元の魔具石――ロウ先輩からもらっていた細長いオパールを強く握りしめ、古代語を紡ぐ。


「《鎧風アイギス・ヴェント》――疾風よ、己を律せ!」


竜の周囲に蒼き旋風が巻き起こり、羽根の幻惑をまとめて吹き飛ばす。同時に巻き上がった水霧が呪波を洗い流し、ヴァエリオンの視線が再び焦点を取り戻す。

だがリリスはさらに二の矢を用意していた。指先で切った空中の印が六芒星の一点を弾く。そこから噴き上がった淡紅の光柱が、竜の陰に潜るようにして迂回し――足元の影と重なる。


「《影潰し(シルエット・クラック)》!」


光柱が影に接触したとたん、ヴァエリオンの尾が突如として硬直した。巨体を支える後脚がわずかにもつれ、空気がざわりと波打つ。


観覧席が騒然となる。


「今のは……影縫いの派生魔術!?」

「高等術だろ、あんなの授業でまだ習ってない!」


エレノアは歯噛みする。

(影を芯にした拘束……私が“浄化”で解くより、ヴァエリオンの風圧で相殺したほうが速い!)


「蒼嵐よ、影を裂け――《分水シュパルタ》!」


詠唱と同時に、ヴァエリオンが翼を大きくはためかせる。空気を裂く烈風と、水気を帯びた刃のような水流が編み紡がれ、影の上部を網目状に叩き切った。拘束が弾け、竜は一気に跳躍。


リリスの唇が愉悦にわずかに歪む。

(まだよ――“惑乱の迷図”は一重じゃない)


ルミナが高空で螺旋を描き、虹色の鬣を振り散らすと光点が雨のように降り注ぐ。それが地表に触れた瞬間、六芒星の外縁と補助陣の間に眠っていたもう一つの縮小陣が展開した。


――ギィィン!


耳に届くはずのない鐘の衝撃波。演習場にいる者たちの心臓を撫でる不協和音が、ヴァエリオンの感覚だけを狙い撃つ。竜は翼を半ば折り、上昇気流を失って態勢を崩す。


「今よ、ルミナ!」


天馬が駆ける。生み出した光の帯を鞭のようにしならせ、墜ちかけた巨体の脇腹を打った。痛撃ではなく方向を逸らす牽制。――狙いは、六芒星の境界線へ押し出すこと。


観客席がどよめいた。少しでも線を越えれば“陣払い”で失格だ。


だが砂塵の中心、落下姿勢のままのヴァエリオンの瞳が不敵に細められた。尾の付け根から巻き起こった烈風がまるで鞭のように地を叩き、轟音とともに砂を舞い上げる。その衝撃反動と翼打ち上げの複合で竜は一瞬にして空を掴んだ。


「え……!」

リリスの目が見開かれた。


吹き上がった砂煙を抜け、ヴァエリオンは姿勢を正してリリスとルミナの真上をとる。鱗間に潮霧が集い、喉奥で奔流がうねった。


エレノアは静かに息を吸う。

「ヴァエリオン――《蒼嵐轟そうらんごう》!」


蒼紺の水槍が圧縮された旋風とともに収束し、一点に集中して放たれる。照準はリリスではなく、演習場西端――“惑乱の迷図”の核心点。


直撃。突き刺さった水槍が陣の紋を浸して溶かし、疾風が回転しながら砂を払う。補助陣は破砕音を立てて崩れ、砂上に刻まれた線がすべて消え失せた。


「! 私の陣が――!」


リリスの計算が狂った刹那、ルミナの真下に生じた上昇気流が天馬の軌道を大きく跳ね上げる。天馬はとっさに翼をたたみ込み、高度を下げてかわしたものの――


竜と天馬、再び対峙。だが今度は幻惑も拘束もない真っ向勝負だ。


「――リリスさん、策略を巡らせるのはあなたらしいけれど」

エレノアは視線をまっすぐ相手に向けた。

「“絆”を揺さぶるより、あなた自身の意志で勝ち取りに来て」


リリスは唇を引き結ぶ。昂ぶる鼓動とともに、胸の奥にじくじくとした疼きが芽生えた。

(策が潰された?いいわ、なら――次は私自身が正面から叩き潰すだけ!)


ペガサスの虹鬣が翻る。蒼嵐の竜の青鱗が輝く。

風と水、そして聖光――再び空を裂く閃光となり、合同演習の第二幕が火花を散らす。

こんにちは、こんばんは。芝佐倉です。

作品をお楽しみいただけているのであれば、とても嬉しく思います。

そして、このたびはランクイン、本当にありがとうございます!

これからも楽しんでいただけるよう精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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