『戦争の天才』はセルストを攻略する!
ガナスを攻略してから2週間が経った。
すでにこの都市の補給路は安定しており、市民が飢えることはなくなっただろう。
我々が最初に接敵してからすぐ、我々の戦力、編成、兵器の質など細かい事がすぐにジェストカン神聖国上層部に報告されたそうだ。
そして、今ある戦力を点在させるのではなく、一転に集中させ、自国の奥に誘い込んで撃破する作戦に変更したそうだ。
なんでも、ヴァントリアス帝国の士官がその作戦を考えたらしい。
その士官は今回の戦争に際して、軍事顧問として派遣されたそうだ。
士官についた異名は『作戦の神様』
数々の革新的な作戦と兵器を使いこなし、今ヴァントリアス帝国で一番の知将と言われている。
確かに、電撃戦において攻略の最終目標に兵を置かれるのは厄介だ。
他の地点なら迂回もできるが、首都となればそうはいかない。
それに奥に誘い込まれては補給路も伸び、不利になる。
そこにほぼ消耗していない全軍を投入されれば勝機は薄いだろう。
前世の漸減邀撃作戦にも似ている。
敵が戦力を集中させた場所はヴェルディ要塞。
首都の目の前に位置し、辺りは山か川なため人が数人ならともかく、重い戦車となればここを突破しなくては首都にはたどり着けない。
要塞ということもあって、その防御力は圧倒的。
首都に籠るより効果的だろう。
それに対して我々は電撃戦を止め、今はそのヴェルディ要塞目前で待機している。
機動力で制圧する予定だったが、それができなくなった今、できる手は限られてくる。
はずだった。
私は既にそれに対処済みだ。
「全軍、進軍開始!」
私の号令とともに、部隊は進行を開始していく。
ここからセルスト要塞まではそう遠くない。
1日もあれば到達できるだろう。
‐‐‐
それから小休憩をはさみながらも13時間でセルスト要塞に到着した。
到着してすぐ目に入ったのは、もはや原形をとどめずに崩壊している建物だった。
そう、すでにセルスト要塞は陥落しているのだ。
なぜか。
それは少し前に遡る。
ガナスを攻略してからすぐ、秘匿兵器『翠嶺』『雪華』には一度帰還してもらった。
というのも、もともと『翠嶺』『雪華』にはジェストカン神聖国奥地の物資集積所並びに、後方の指揮所を爆撃してもらう予定だった。
しかし、ガナスで一時待機する事、それと敵が戦力を一点に集中したことを鑑みて、作戦を、その集中点に対して徹底的に爆撃することに変更したのだ。
当然、ジェストカン神聖国は対空兵器を持ってはいないし、対空という概念も薄い。
そこに3tの爆弾を搭載でき、尚且つ35糎連装砲を3門搭載している飛行船が2隻も来たらどうだろうか。
敵は意味も分からず、敗北するだろう。
事実、敵が反撃したという情報はなく、1回の爆撃で敵は壊滅したそうだ。
残党は首都に逃げ込んだらしいが、その数もたかが知れている。
それともう一つ。
我が国が誇る潜水艦だが、今回聯合艦隊には加わらず、単独で行動してもらっている。
理由は簡単。
艦隊決戦をするより、通商破壊をするほうが、潜水艦は向いているからだ。
技術が未発達ならなおさらだ。
我が国はあらかじめイレーナや諜報部によって手に入れたヴァントリアス帝国からの物資支援ルートを潜水艦で封鎖し、徹底的に通商破壊を行った。
故に、ジェストカン神聖国は十分な近代装備を入手できず、予定より戦力を整えられてはいない。
この2つの強力な打撃はよく効いたのか、敵は首都まで逃げ込むしかなく、もはや負けは時間の問題となった。
「明日は首都まで一気に進撃する」
間もなく日が落ちる。
今日はここで一泊だ。
明日が楽しみだ。
‐‐‐
翌日。
我々は一気に敵の首都目前まで来た。
今は首都まで残り1キロの地点だ。
我々は前進していると、前に人が一人立っていた。
その男はローブをまとっており、顔はよく見えない。
「私はグレイル教教皇、カルレシアと申します。よくここまでお越しくださいました。見事でございます。ですが、あなた方の進撃もここで終わりです。汚い異教徒共にここ、聖都『キリエル』には一歩も踏み入らせはしません」
教皇はそう言うと、懐から何か丸い水晶のような物を取り出した。
「偉大なる神よ!この者たちに神罰を!」
次の瞬間、辺り一帯が光に包まれた。
そして光が収まると、なんと、そこには10米は優に超えているであろう人型の何かが宙に浮いていた。
禍々しい服を着ており、纏っている雰囲気も人とは違う。
さっきの教皇はもうどこにもいない。
人型の何かはゆっくりと目を開け、そして話し始めた。
「我は戦いの神『ヴァルディオス』だ。今ジェストカン神聖国の危機と聞き来た。君達には死んでもらう」
そうか。
あれが歴史書に記載されていた神とやらか。
「乙戦術開始!」
私の号令とともに、戦車部隊は徹甲弾を装填し、発射する。
間髪入れず、戦略歩兵が、攻撃しにかかる。
しかし、そのどれも効いている様子はなく、ヴァルディオスは涼しい顔をしていた。
「所詮そんなものか」
そう言ってただ、こちらを見ている。
「怯むな!第二波攻撃準備!」
私の号令で、戦車は徹甲弾を装填する。
「撃て!」
一斉に発射された徹甲弾は見事ヴァルディオスに全弾命中した。
しかし、傷一つついてはいない。
「では、こちらも」
そう言って、ヴァルディオスは金色に光る剣を作り出す。
ヴァルディオスは何もないところから、剣を生み出したのだ。
それが物理的な物なのか、魔力を結晶化させたのか、それとも見当もつかないような物なのかは分からない。
この時、私の直感が叫んだ。
何かまずい。
そこからの行動はただ一つ。
「全軍、直ちに撤退せよ!大至急だ!」
私は声を荒げながらそう命令する。
戦車部隊は信地旋回を行い、くるりと向きを変えて撤退を開始した。
ヴァルディオスの剣は段々と光が強くなっていく。
そしてすぐ、ヴァルディオスは剣を軽く一振りした。
次の瞬間、後方の部隊は消滅した。
撃破などという言葉では言い表せない。
本当に、まるでもともとなかったかのように消滅したのだ。
骨はおろか、灰すら残ってはいない。
戦車20両が一気に消滅したのだ。
そこからの記憶はほとんどない。
ただ、一秒でも早く、1米でも遠くに撤退する事だけを考えていた。
幸い、敵の移動速度はそう早くはないようだ。
神の存在は知っていたが、まさかこれほどまでに強力だとは予想だにしなかった。
これは私の作戦上の失敗だ。
もっと慎重に動くべきだった。
今回のこの一件で、ここは異世界だということを再度実感させられた。
前世ではありえないことが、平然とあり得る。
こうなっては仕方がない。
『菊作戦』を実行するほかない。




