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4-5:温泉村

 俺達が向かう先はフーカイ峡谷で、そこで春の大嵐繚乱の進行方向を変えて、撃退する予定である。フーカイ峡谷までの航路と、街へと向かってくる繚乱の速さを計算しているが、こちらの隊列に起こる事故や、繚乱の加速でたどり着く前に撃退が始まってしまう可能性がある。


 それを見越してかなり余裕を持って出てきたおかげで、俺たちはフーカイ峡谷付近にあるフーカイネ村で休憩を取ることができていた。


「寂れた村ね。てか殆ど誰もいないじゃないの」


 フーカイネ村は小さな村だが観光地として知られている。この村の収入源は観光である。だがこの季節になると春の大嵐の通り道になることが多く、物好きな観光者しかやってこない。物好きな観光者というのは俺達のような春の大嵐目当ての人間のことだが。


「ようこそフーカイネ村へ、ヴェルサスのギルド員さん達ですね」


 フーカイネ村へ着くや否やそう言って一人の老婆に出迎えられた。


「ユカケさん今年もお世話になるわ」


 先頭にいるリーダーのリーベが挨拶をする。


「あれ誰よ」


「ユカケさんって言って、このフーカイネ村の長だ」


「ふーん。にしても、この村は長だけしかいないわけ?」


「例年通りならユカケさんと、ナキオさんが残っているんじゃないか?あとは避難しているはずだ」


 春の大嵐の通り道であるフーカイネ村の住民は通り道にならない町や村に避難している。長のユカケさんと、ユカケさんの夫であるナキオさんだけが残っている。ここを墓場にするって意味で残っている訳ではないと言っていたが、半分はその意味合いで残っていると思っている。


「みんなみんな、フーカイネ村って温泉が名物なんだよ」


「そうですよ!温泉卵がめちゃくちゃうまうまですよ!」


 ヴェルサスの人間なら休暇を取れば一度は訪れると言うフーカイネ村。風呂好きは温泉に惹かれやすい特徴をここの住人は知っている。


 クエピーの言う温泉卵はここの温泉にじっくりと浸けて作られた卵。とろみと甘みがあったり、固く甘くない卵もある。どうやって作っているかは秘密らしい。


「おいおい遊びに来たんじゃないんだぞ」


 繚乱が近いのか生暖かい空気を風が運んできていて、空は鼠色の雲を生成し始めていた。


「なーに硬いこと言ってんのよ。休める時は休む!仕事する時はキッチリよ!」


「お前は終始休もうとしてるだろ」


「あたしはタモさん見習ってるのよ」


 誰だよタモさんって。


「まぁまぁエウロスちゃん繚乱は明日の午後に来る予定だし、それまで休憩してましょ」


 イマテラスさんに諭されるたので、エウロスに噛み付くのをやめた。


「まぁハメ外さなければ何でもいいんだけども」


「よーしクエピー!温泉卵の食べ比べするわよ!どっちが多く食べ比べれるか勝負よ!」


「望むところですよ!」


「人の話聞いてんのか!?」


 俺のツッコミを無視してエウロスとクエピーは温泉卵売り場へと走っていった。他のギルド員達も疎らに散って行き始めて、エウロスとクエピーの姿が見えなくなってしまった。


「あのあのぉ」


 エウロスとクエピーが走り去っていく背中を見ていると、先頭の集団から連絡事項を持ってきたであろう、まだ幼さが残るホムホムが声をかけてきた。


「あらあらホムホムちゃん、どうしたの?悩み事?お姉ちゃんの胸貸すよ?」


「あうあう悩み事は無い……です。リーベちゃんからの連絡……です。明日の昼に出発するので、それまで割り振られたお宿のお部屋で待機してください……です」


 そう言ってホムホムは俺達に割り振られたであろう部屋の鍵をくれて、小さくお辞儀をしてから、リーベ達の元へと戻っていった。


「やーんホムホムちゃん可愛い。可愛すぎて食べちゃいたい!」


「知り合いですか?」


「うん!リーベちゃんとホムホムちゃんとよくお茶に行くよ!あ!エウロスちゃんも一緒に行こうよ!」


 リーベやホムホムと同じパーティだったが、イマテラスさんのことを知らないのは俺だけのようだ。俺だけ仲間外れにされていたってこと?あれ?なんか涙が出てきそう。


「ぜ、是非今度」


「今度と言わず今!今!」


「えっちょっと!」


 イマテラスさんは俺の手を引いてホムホムを追い。


「リーベちゃん!ホムホムちゃん!お茶しーましょ!」


 二人の前でそう言った。ホムホムは背筋を伸ばして驚き、リーベはため息混じりにイマテラスに。


「いやよ」


 と、バッサリと切り返したのであった。

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