第六話
小さな頃、母はよく歌を歌ってくれた。
母は歌うことが好きだった。
孝介もそんな母の歌が好きだった。
優しくて暖かくて、母の歌を聞いていると、よく眠れた。
孝介の家族の絆は母の歌で繋がっていた。
父も母の歌が好きだったから。
日曜日になると、父が趣味のギターを引っ張り出し、母がそのメロディに合わせて歌い始める。
観客は孝介一人の小さなコンサートだったけど、そこはどの家庭よりも幸せに満ちていたと思う。
しかし、そんな幸せも長くは続かなかった。
ある日、父が死んだ。
車を運転中に信号を無視して突っ込んできたトラックとぶつかったらしい。
それからは母が働くようになった。
朝から昼過ぎまでスーパーで働き、夜は酔っ払い相手に歌を歌った。
母の歌はすぐに評判になった。
孝介にとって大好きな母の歌が自分から母を奪った嫌いなモノに変わる頃には、街で母の歌を知らない人はいない程になった。
それからというもの、評判を聞いた人達が母に歌ってくれと頼んでくるようになった。
母は病院や老人ホーム、学校など様々な所で歌うようになり、孝介はさらに一人の時間が増えた。
そして、孝介が高校一年生の夏。ついに母も倒れた。
当然だろう。決して休むことなく働き続け、頼まれればどこへでも行き歌う母が、平然としていられるわけがない。
母は眠るように、静かに息を引き取った。
過労死だった。
孝介は泣いた。
ただひたすら泣き続けた。
何も出来なかった無力な自分が許せなくて。
いや、それ以上にもう母の歌が聞けないと思うと悲しくて。
母が死んだ日にまだ母の歌が大好きだったことに気付かされたのだった。




