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昨日消えた水母  作者: 小説が書けない初心者
第一章:『死に寄り添う海月』

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第一章3:『重い身体』

「ひっ――」


  あの冷徹な感触がまだ首元に残っているかのように、奏は猛然と目を開け、激しく息を荒げた。

  視界に広がるのは、やはりあの見覚えのある席。麦酒の臭いと汗の臭いが混じり合う冒険者ギルド。騒がしい喧騒が波のように鼓膜へと押し寄せる環境。


  奏は自分の首に触れた。無傷ではあったが、あの黒い鎌に断ち切られた苦痛は、まるで魂の深奥に刻み込まれているかのようだった。


「……また巻き戻ったのか」


  奏の手のひらは冷や汗でびっしょりだった。彼は異世界に転移してきた直後のタイムラインに戻っていた。

  だが、骨の髄まで染み渡る恐怖は、彼の心をへし折る決定打となった。


  最初の死はわけも分からぬうちのものだったが、この二度目は強烈な恐怖を伴っており、思わず吐き気を催すほど苦しかった。

  一度目の巻き戻りの時、奏はその原理を知らなかったため、「巻き戻り」をただのゲームのようなものだと捉えていた。


  しかし今、巻き戻りの前提が自分の死に基づいていることを知った彼は、この異世界がどれほど危険で恐ろしい場所であるかを正視せざるを得なかった。


「地球に帰りたい……家に帰りたい……この異世界は俺が想像していたような素晴らしい場所じゃない……どこもかしこも人殺しばがりだ……」


「母さんもきっと心配している……俺のテニスラケットが玄関に落ちたままで……俺が行方不明になったんだから……」


  あの鎌を持った奴は、まるで死神そのものだった――。


「なぜあいつが現れたんだ……それとも、あいつは本来あの時間点に現れる決まりだったのか……どうやって回避すればいいんだ……」


  奏が思考を巡らせる間もなく、八分後、ルフィアの足取りがゆっくりと近づき、真っ直ぐに彼の目の前へとやってきた。


「あの、私をあなたの冒険者パーティーに入れていただけないでしょうか?」


「うわあああ――」

  奏は過剰に反応し、勢いよく立ち上がった。

  周囲の冒険者たちの警戒する視線が一斉に奏の全身へと注がれ、彼は無理にでも冷静さを保たなければならなくなった。


「何か御用でしょうか?」――ルフィアは心配そうに尋ねた。心から奏の精神状態を案じているようだった。


「ごめんごめん……でも俺、冒険者パーティーは組んでないんだ……もし何か手伝手伝えることがあるなら、遠慮なく言って。俺にできることなら、力を尽くすから……」


  ルフィアの憂いに満ちていた両眸が、途端にパッと輝きを取り戻し、瞳の奥に強い光が宿った。


「はい。ここは人が多いですから、二階へ行ってお話ししましょう」


  ルフィアは頷き、奏を案内してギルドの二階へと上がった。その際、ギルドの職員にそっと目配せをし、関係者以外を近づけないよう暗に指示を出した。


「実は、私の名前はルフィアといいます。私、今、暗殺者に命を狙われているのです……暗殺者がいつ現れるかも分からず、だからあなたに保護をお願いしたくて……申し訳ありません……これであなたをトラブルに巻き込んでしまわなければ良いのですが……」


  ルフィアは話すほどに恐怖と罪悪感を募らせ、慌てて視線を落とし、奏の方をまともに見られなくなっていた。


「いいよ」


  ルフィアの予想を裏切る事態が起きた。奏は何の躊躇もなく頷いたのだ。心から彼女を助けたいと思っているようで、暗殺者に命を狙われる危険すら気にしていない風だった。


  だが、奏の視点からすれば、この承諾の速さは当然だった。何しろ同じ懇願を二度も聞いているのだから、今さら熟考する時間など必要ない。

  しかし、ルフィアは強い衝撃を受けていた。


「後悔を恐れないのですか?」


  それを聞き、奏は考えもせずに頷いて認めた。

「そりゃ怖いよ……だけど、君が危険だって言うなら、俺がそれを見て見ぬ振りすることなんて絶対にできない」


  ルフィアは呆然とした後、優しく微笑んだ。

「あなたは、本当に良い人ですね」


「話を戻しますが、先ほど申し上げた通り……私が暗殺者に狙われている件についてですが、彼らがいつ私を見つけ出すかは分かりません……それに、今ここにいる冒険者の多くは、すでに私の正体に気づいています。ですから、私が見つかるのは間違いなく時間の問題でしょう……」


  死と未知への恐怖を必死に抑え込み、無表情を装って冷静に見せようとしているルフィアの姿を、奏は見つめた。

  危険が伴うかもしれない。それでも奏は、あの死神の到来を引き起こす引き金になるかもしれない言葉を、敢えて口にしようと試みた。


「暗殺者は今日、君を見つける。だから、絶対に暗い路地裏へ行ってはだめだ」


  言い終えると同時に、奏は固く目を閉じ、冷や汗を流しながら死神の降臨を待った。

  しかし、三分が経過しても、死神が姿を現すことはなかった。前の二周とは明らかに巨大な差異が生じていた。


「回避に成功したんだ!」


  奏は歓喜に満ちた笑みを浮かべたが、横を向くと、ルフィアが顔いっぱいに茫然自失の表情を浮かべているのが見えた。


「暗殺者が今日来る? なぜそれを……」――ルフィアは心配そうに拳を握りしめた。命の危険を前にして、彼女は奏のこの断言を信じないわけにはいかなかった。


  奏は頷き、頭を働かせて、嘘をつくことを思いついた。嘘を交えて事実を述べるのも一つの手かもしれない。

「ゴホン……実は冒険者ギルドに入る前、偶然ある暗い路地裏を通りかかったんだ。そこで二人の冒険者と、不気味な黒服の男が接触しているのを見かけてね。微かに君の名前が聞こえたんだ……」


  この嘘は真偽を確かめようがないため、ルフィアはそのまま真に受けた。


「だからそれほど確信が持てたのですね……なるほど……冒険者は金銭のために……やはり私という王女の命を犠牲にすることを厭わないのですね……本当に感謝します! もしその情報が確かであるなら、私にとって、それは天よりも重い恩義です!」


  言い終えると、ルフィアは立ち上がり、奏に向かって深く一礼を執った後、そそくさと冒険者ギルドを後にした。奏が思わずその後を追おうとすると、ルフィアは足を止め、振り返って俺の目を真っ直ぐに見つめてきた。


「それじゃあ……私について来たいのですか?」


  彼女は不思議そうに首を傾げ、それからふっと動きを止めると、表情を強張らせた。

「すみません、やはりご迷惑でしょうか? あなたを不安にさせてしまって……」


  ルフィアのその言葉を聞き、奏は考えもせずに首を振って、自分は少しも気にしていないことを示した。


「でも、もし君が気にするなら……俺は冒険者ギルドの入り口のところで待機しているよ。君がトラブルに遭った時に俺を探せるようにね」


「私は別に気にしませんが、あなたに迷惑をかけてしまうかもしれません……だから、私一人で立ち向かうことに決めました。あなたがすでに、危険が訪れることをあらかじめ教えてくれたのですから」――ルフィアは毅然と言い放った。


  ルフィアの瞳には、奏の拒絶を許さないほどの強い意志が宿っていた。奏はまだ不安を抱いていたものの、彼女のその眼差しを見て、これ以上口を出さず、彼女の自由に任せようと決意した。


「じゃあ……また明日?」

「うん!」

  それを聞き、奏は一人で冒険者ギルドへと戻るしかなかった。


  そして、夜は瞬く間に訪れた。

  奏は冒険者ギルドの外にあるベンチから起き上がり、両目をこすった。時間はすでに深夜へと差し掛かっている。

  辺りには人っ子一人おらず、奏をギルド外のベンチから追い出そうとする者もいなかったため、彼はここで一晩を明かすことができたのだった。


「どうしても気になるな……」


  奏は首を振り、立ち上がると、ルフィアの姿を探そうと周囲を見回ることにした。

  奏は大通りや路地裏を歩き回り、背後を気にしながら、あらゆる暗い路地裏に頭を突っ込んで覗き込んだ。


  しかし、そこには何もなかった――。

「もう戻ろうか……」


  奏は力なく歩いて戻ろうとしたが、それよりも早く、血生臭い匂いが彼の鼻腔を突き刺し、魂を貫いた。

  奏は油断を捨て、すぐさま足に力を込めて走り出した。匂いの元を必死に手繰り寄せながら、どうかルフィアが被害に遭ったのではありませんように、と心の中で祈り続けた。


  だが、奏が角を曲がった瞬間、そこには血まみれになって冒険者ギルドの前に倒れ伏すルフィアの姿があった。

  ルフィアは奏の到来に気づき、彼の表情に目を留めたが、彼女にとってここまで逃げ延びてくること自体が、すでに限界だった。


「早く……逃げて……」


  言い終えると同時に、ルフィアの瞳から光が消え失せ、彼女は完全に息を引き取った。冒険者ギルドの門前で、その命を落としたのだ。


  奏は信じられない思いで激しく首を振り続けたが、彼が我に返るよりも早く、一本のナイフが奏の腹部へと深々と突き刺さった――。

「痛い、痛い、痛い――!」


  不意打ちを受け、奏の足からは瞬時に力が抜け、その場へ崩れ落ちた。ルフィアの最期の姿を目に焼き付け、それから彼女を殺めた暗殺者へと振り返る。

  暗殺者は全身を黒いローブに包んだ男だった。彼の手にあるナイフには紫色の液体が付着しており、おそらくは確実に命を奪うための猛毒だろう。


「がはっ……」


  奏は激しくもがいたが、どうしようもなかった。ナイフの毒は奏の腹部に突き刺さった瞬間からすでに血液へと侵入しており、彼の全身を麻痺させ、力を込めることすら、立ち上がることさえも拒んでいた。

  そこまで考えて、奏は地面へと一筋に伸びる血痕に気づいた。きっとルフィアは瀕死の身体を引きずりながらも、約束を果たし、奏に一目会うために必死でここまで這ってきたのだろう。


「糞っ……糞が……」


  暗殺者にとって、奏を処理することは単なる余計な仕事に過ぎず、これ以上時間を浪費したくないようだった。彼はナイフを逆手に持ち替えると、容赦なく奏の頭部を狙って突き下ろした――。

  しかし、まさにその瞬間、時間がピタリと停止した。世界は白黒へと変わり、奏一人だけが色彩を保っている――。


「まさか……」


  奏は自分を奮い立たせ、アドレナリンを爆発させることで、ようやく身体を反転させて確認することができた。


「死神」が、その巨体に似つかわしくない巨大な黒い鎌を引きずりながら、一歩、また一歩と歩み寄ってくる。暗殺者をも、ルフィアをも完全に無視し、真っ直ぐに奏の前へとやってきた。

 疑う余地もなかった。この「死神」の狙いは最初からルフィアではなく、他の誰でもない、始終、奏ただ一人だったのだ。


「お前は、一体誰だ……」


  奏は言葉を続けようとしたが、唇さえもすでに毒によって麻痺しており、口を開閉させることすら今や贅沢なことだった。


「死神」は躊躇うことなく、鎌を高く掲げた。純黒のフードの隙間から、固く目を閉じた女性の顔が覗く。

  次の瞬間、鎌が振り下ろされ、奏は麻痺の苦痛から解放されるように、地面へと転がった。


  奏は恐慌の中、麻痺した身体と共に、再びバッドエンドを迎えたのだった。

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