↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
keepAlive  作者: かけ座布団


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/38

Ep.1-1 魔術士エコと仲間たち(1)

「――ッ!」

薄暗い森の中、魔術士の少女は叫ぶ。叫びながら走る。

傍らに少女がもう一人。背中を覆うほどの大きな盾を背負っている。

二人とも必死になって逃げている。

後方には彼女達を追うように走る獣。

丸い胴体から伸びる長い四本の脚は、それだけで少女たちの身長を大きく超えている。

そんな獣が一頭や二頭ではない。両手でも数え切れない。

「――リッカのバカーッ!」

息が乱れているにも拘わらず、もう一度少女が叫ぶ。

森をかき分け逃げる二人だが、速度の差は大きく、獣達はもう背後まで迫っている。

加えて、二人の体力も限界が近かった。

「え、エコ――私、もう……ダメ、かも――」

盾持ちの少女が弱音を吐く。

叫んでいた少女は走りながら手を差し伸べようとするが――

「あ――」

振り返った事で注意が疎かになったのか、そもそも限界だったのか、躓いてしまった。

「エコっ」

盾持ちの少女が、咄嗟に伸ばされた手を掴む。

すんでのところで転倒は免れたものの、足が止まった少女たちに獣の群れが迫る。


――どうしてこんなことになったのか。

魔術士の少女、エコは前日のことを思い出す――



「――大事な話がある」

彼女達のパーティが拠点にしている宿屋、その食堂。

憂鬱な気持ちを振り払って、彼女、つまり魔術士のエコは切り出した。

「……ん?」

食事にはまだ早い時間で食堂は閑散としているものの、パーティメンバーは揃っている。

テーブルの向かい側、疑問形で返したのは剣士のリッカだ。

エコが彼を紹介するならば、男で、剣士で、トラブルメーカー。以上だ。

エコはリッカを無視し、隣の少女と視線を合わせた。

軽装鎧に身を包んだ真面目そうな彼女、騎士のベルは、いつも通り背筋よく話を聞いてくれている。

この二人にエコを加えて全員。まだ三人だけのパーティだ。

「あたしたちの生活費が、遠くないうちに尽きる」

「……おぅ」

何故だかリッカは歯切れが悪い。

まったく、なんでなんだろうねと心の中で毒づいて、エコは話を続けた。

「具体的にはあと三日分かな。今日含めて」

「きょう、ふくめて……」

ベルがぼそっと繰り返した。

ちなみに今は夕方だ。

つまり、あと二回陽が昇れば生活費が尽きる。寝食の保証がなくなる。危機だ。とてもまずい。

「……リッカが昨日買った剣の出費が痛かったね。『魔術を斬る剣』だっけ。ものは良いかもしれないけど、完全に予算オーバー」

エコは感情的にならないよう、淡々と事実を述べている。

ベルがびくっと震える。

エコは淡々としているつもりだ。出来ているだろうか。正直自信はない。

「……悪かったって」

リッカが頭を下げる。もう何度目か分からない。

エコはこの危機の元凶を問い詰めたくなったものの、隣のベルはかなり居心地が悪そうだ。

……やめよう。不毛だ。繰り返し口論したって仕方がない。

「……まあ、過ぎたことは仕方ないけどさ」

今はとにかく、話を進めよう。

「幸い他の装備は問題ない。消耗品も余裕があるから、当面大きな出費はない。だから、また出費が増えないうちに直近の生活費を稼いでいきたい。ひとまず一月分くらいかな」

「一ヶ月分……ちょっと大変だね」

「まあ、稼ぐならそれくらいじゃないとな」

エコ達は冒険者だ。多かれ少なかれリスクを取って、リターンを得る。

そういう生き方を選んでいるから、大まかな方向性は似通っている。しかし、方向性が同じでも度合いには個人差がある。

具体的にはこのリッカというヤツだ。やたらと難易度の高い依頼(クエスト)を選びたがる。

どの依頼を受けるか、何度揉めたことか。

「……で、時間もないから依頼を見つけてきた。明日はこの依頼に行こうと思う」

エコはギルドから持ってきた依頼書を鞄から取り出して、テーブルに広げた。

すかさずベルが身を乗り出し、依頼書を覗き込む。

「雲羊(くもひつじ)の羊毛の収集。羊毛一つにつき銀貨三枚。……雲羊って何だっけ」

「川の上流の方の山に棲んでるやつ。二枚目に描かれてるよ」

早速ベルは依頼書をめくった。そこには簡単な説明が書かれている。


・中型の獣

・数十頭の群れで餌場や水場を移動

・非敵対的。ただし体当たりや蹴りには威力があるため注意

・主な資源(リソース)は羊毛。脆いため繊維としての価値はなし。加工により砂糖の代用に


「砂糖……どうなってんだよ」

「知らないよ。そんなもんでしょ」

そう。この世界の資源なんて、だいたいそんなものだ。

世界には魔力が満ちている。魔力は魔物のような害をもたらす一方で、人間に有用な資源も生み出している。

砂糖に加工しうる羊毛がどうやって生成されているか、それをどうやって加工しているかなんて、冒険者は気にする必要がない。気にしていては始まらない。

「原理は分からないけど使ってるやつだね」

「うん。とにかく、この羊毛が高く売れる。需要はいくらでもあるからね」

「甘いものは血液だからね」

「うん。……うん?」

真面目な顔のベルの言葉は、笑うところだったのだろうか。


資料には挿絵もついていた。

通常の羊と比較して毛量がかなり多く、胴体部分は球体に近い。絵で見る限り、とてももこもこしている。そこから胴体よりも長い脚が伸びている。

バランスの悪い生物だけれど、これで挿絵は正確だ。

「かわいい……」

雲羊の資料を読むベルに対して、リッカは依頼書の一枚目に目を通している。

「銀貨三枚で……ん? 納品数の上限なしか」

「そうだよ」

リッカにしては鋭い。そう。この依頼の要点はそこだ。

羊毛の納品一つあたり銀貨三枚。仮に三人が一日がかりで稼ぐと考えた場合、少し心許ない。

ただし、納品数に上限なしとなれば話が違ってくる。

雲羊の群れ全体から羊毛を収集できれば、一月分の生活費を稼ぐことだって不可能じゃない。

夢が広がる。

「二十個納品できれば一気に金貨六枚……夕食後に氷菓子(アイス)が食べられるかな……?」

少なくともベルは共感してくれたようだ。

「もしそうなったら、一ヶ月くらいは毎食食べてもいいよ」

「――!」

たちまちベルの目の色が変わる。

籠絡完了。あとはリッカだ。

「リッカも異論はないよね?」

「俺はもうちょっと手応えが……」

「ないよね?」

エコはリッカを真正面から見つめる。

見つめる。

負い目もあってか、根負けしたリッカは目を逸らした。

「決まりだね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。