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退院!!!

春が終わり、鬱陶しい暑さが顔を出す頃。


俺は退院した。

手続きは淡々と。特に感慨もない。これから生活をどう立て直すか?を筆頭に、考えなきゃいけないことが、山ほどあったせいだろう。


特に見送りのようなことは無かったが、病院の若いスタッフ達にはお世話になった。特に担当の看護師は、忙しいだろうに手紙を書いて渡してくれたのだ。

手紙には、入院中の俺の努力を褒めたたえると共に、アドバイスや注意点が丁寧に手書きで書かれていた。この手紙は宝物として、今でも時折見返している。

改めて、彼等、彼女等にはお礼を述べておきたい。


帰宅すると、飼い猫は何事も無かったようにダルそうにしていた。


そして、早速病院との違いを思い知る。

病院では「しゃがむ」機会が無かった。だが、家では割とある。例えば風呂掃除中に、底を洗おうとしゃがむと、弱った右足が姿勢を支えきれずに、俺は後ろにひっくり返ってしまった。


このように、しばらくの間、俺は自分でまだ気付いてない身体の変化が不意に出くわしては、戸惑うことを繰り返すことになる。


退院翌日には、本当に車を運転できるか試した。田舎では最重要事項だ。

片手でも運転できるようにと、ハンドルスピナーなるアイテムを調達したが、上手く操作できずに、かえって事故りそうになった。


かといって、普通にハンドルを切ろうと右腕を動かすと拘縮で痛みが出る。


だから、小出しにハンドルを切ることにした。

別にこれで問題無かったから、ハンドルスピナーは速攻でゴミ箱行きだ。


時々、右腕がハンドルを握ろうとして空振りするし、握ったとしても、もんのすごくダルイ。

シートベルトを締めようと、体を右に捻るだけで腕に痛みが出てしまう。


だがともかく、運転はできるからAEONに出かけてみた。

そして、AEONを歩いてみた時、なんだか自分ではない気がした。


話がうますぎる。本当の自分寝たきりで、今見ているのは夢なんじゃないか?

そんなことを考えたが、現実だ。俺は、日常に帰ってきたんだ!



それはともかく、まだ俺は拘縮の深刻さをわかっていなかった。ただ単にひどい肩こりのような不快感に耐えていた。


だけど、日に日に症状は悪化していく。

病院では、スタッフにケアしてもらえてきたが、退院したからには別の方法を考えないと。

入院中に考えないわけじゃなかったが、特にいい考えは浮かばかったのだ。


俺は、仕事に復帰するまでの2週間で、いろいろ試してみた。お高いマッサージ機を買ってみたり、「あずきパッド」を買ってみたり、サロンパスを貼ってみた。だが、これらは全く効果ナシ。



病院の人間は右腕の痛みの原因が拘縮であるとは言ってくれなかった。だから俺は自分で原因に思い至るまでずいぶんと時間がかかった。さらに自分で整体に通うことを思いつくまでそれなり苦しんだし。

しまいには、普通に座っていることも辛くなった。右腕を楽な態勢で固定するように、アームレストを用意した。だが、このままだと職場にこんなものや、マッサージ機を持ち込むことになってしまう。


自分でも体の変化には気づきにくい方だから、他人には余計に気づきにくい。見かけは健康だから、以前より体が疲れやすくなっている事は職場ではなかなか理解してもらえなかった。(ちなみに顔面が少し歪んでいた。顔の形が変わるほど麻痺したのだ)


仕事に復帰してみると、体はちょっとしたことも疲労を訴えるようになり、簡単に口内炎ができるようになった。拘縮が噛み合わせにまで影響し、唇の裏側を自分で噛んでは、口内炎が出来る。治ったと思ったら、また唇をガリッとやってしまうことを繰り返した。

口内炎の薬「トラフル」がほぼ常備薬になった程だ。


残業も以前なら夜の10時位まで行ってきたものが、1時間程度の残業が限度だった。会社の人間は無理をするなと言ってきたが、実際には無理が効かない俺に苛立っていることが明らかだった。

まあ、俺も会社なんてモンに対しては、若い頃と比べるとドライな感覚になってるから、これはお互いさまだ。


とはいえ職場も全く理解がないわけではなくて、例えばノートPCを持ち歩いているとき。左腕でPCを持ってるから、右手で扉を開ける必要があったとする。右腕はまだほとんど力が入らない。つまり自分で扉を開けることができなかった。だから扉を抜ける必要があるときは、同僚についてきてもらって開けてもらう必要がある。こういう時、同僚は嫌な顔をせずに、ちょっとついて来てもらっては扉開けてくれたのだ。


俺は前より明らかに疲れ安くなって、脳のパフォーマンスも落ちていた。


というのは、いままでと同じに物は考えられるが、負荷が増えたらしく、

人の話を聞いていると、すぐ眠くなってしまうのだ。真剣に聞けば聞くほど。


これに気づいたのは最悪のタイミング。上司が復帰した俺のために、わざわざ開いてくれたブリーフィングで、俺は大欠伸を連発し、強烈な睡魔に襲われた。



教訓:退院してみないと分からないことはあるけど、事前に詰めたり準備できることはある。特にスタッフにやってもらっていたことを、自分でどうやっていくかは、ちゃんと考えよう。


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