第三十五話『ご武運を心よりお祈り申し上げます』
「なんですか一体……。 今の魔法は……! 」
また出たな神出鬼没のピュアボーイ。 こいつには住民の避難をサポートしろと言っておいたはずだが。
「う、うそ……。『 堅牢ノ煉神』が一撃で……? 」
リリィのママだ。 この熟女は本当に童貞殺しみたいな妖艶さを放ってるな……。 ジェフの義母にしておくには惜しい人材だ。
「ピュアボーイとリリィのママ。 怪我人がいるかもしれないから治癒魔法をかけにいってやってくれないか」
リリィのママはコクリと頷いてすぐに踵を返すと、呆気にとられている数人の冒険者に威勢良く声を掛ける。 冒険者たちは威勢よく返事をして四方に散っていき、ママもそれを追った。
「命だけは! い、命だけはっ! 」
「おっと? 駄々をこねるなジェフぅ……。 俺の故郷ではな、窃盗は殺人より罪が重い。 発覚したらその場で拷問からの斬首だ」
「そ、そんなバカな法が……」
「私刑で絶頂を味わっていたような下衆野郎が法を語るな。 俺が最も大切にしている学ランを盗んだ罪は重いぞ」
「返すっ! 返しますからっ! 」
学ランを脱いで丁寧に畳み、差し出してきた。 両膝をついて頭を下げている。 差し出すというより献上だな。
「そんなもの要らん。 まずは下を脱げ」
丸腰で全裸のジェフをホモのチョリスに掘らせるのもかなりの名案だが、絵面が汚すぎるからな。 とりあえず丸出しにさせて引きずり回すか。
「ん? なんだジェフ、ゾウさんがヴァンの半分以下しかないじゃないか。 こんな粗末なイチモツをぶら下げてよくもまぁあんなに踏ん反り返っていられたもんだな」
学ランの袖をジェフの首に回して固く結ぶ。 オランウータンを散歩させるにはリードがないと厳しいからな。
俺の魔法が派手過ぎたのと、ゴーレムが粉砕されたのもあって人が集まってきた。 忙しい奴らだ、野次馬根性というのは恐ろしい。
「ほら、行くわよジェフちゃん」
命だけは、と言っていたからな。 それ以外は全部奪ってもいいという事だろう。 まずは尊厳を奪うとするか。
ジェフの学ランを掴んでしばらく引きずり回した後、あえて残したゴーレムの巨大な腕を担ぎ、ジェフ家へ向かう。
「ジェフ様が負けている…… 」
「全裸で引きずられてるぞ……」
「なんだ……。 ゴーレムの腕を担いでる……! 」
「おい、誰か馬を一頭連れてきてくれないか。 このバカを縄で繋いで野に放つ」
民衆が道の両サイドを埋め尽くしている。 ジェフはおちんちんを隠そうと必死だな。
「みっ! 見せもんじゃねぇぞテメェら! 家に帰れ! 」
ジェフが喚いた。
「あ、あんたのゴーレムに潰されて、帰る家がなくなったんだよっ! 」
その一声をキッカケにジェフへの罵声が続く。 ギルドに差し掛かったので、一旦ジェフのリードを離し、ゴーレムの腕を使ってギルドの建屋を解体工事した。 三発振り下ろしたら粉々になったので、気を取り直してジェフの家に向かう。
「ミナトー! 何やってんだ! やっぱりお前だっ……たか……? ぎ、ギルドが無くなっているぅぅぅぅう! 」
「うるさいぞ部外者。 俺はジェフに学ランを盗まれたから断罪しているだけだ。 口を出すな」
「おい、なんで髪の毛が赤いんだ!? それにこの剣は……あっづぁぁあ"あ"あ"あ"あ"ぁ"ッッッ! 」
「どう見てもアチアチの刀身だろうが。 どうして触るんだうつけ者が」
「ヴァン……。 テメェ、許さねぇぞ! こんなバケモン連れてきやがって……! お前がこの街をめちゃくちゃにしたんだーっ! 」
「黙れ」
\ ドゴォンッ /
ジェフの家はすでに半壊してたので一発で粉々になった。 解体工事は終了だ。
それにしてもジェフ、最後の最後でチョリスに責任転嫁ときたか。 まったくクズのお手本みたいな振る舞いだな。
「ジェフちゃん、改めて紹介しよう。 俺が立ち上げた非合法旅団の副将、ちょりっすばんがーどクンだ」
「そんなのいいからミナトっ! ヤバイよヤバイよ、早く行こう! やべえって、ここに長居するのはやべぇよ」
本当にやかましいなコイツは。
「ジェフ、俺との約束を守れたら命だけは助けてやる」
「はいっ! なんでもします…… 」
「まず当たり前の話だが、壊した街やギルドを全て実費で再建しろ」
「はい…… 」
「俺が消し飛ばしたゴーレムで魔獣ニドランを倒したと言っていたな? その戦力の穴を埋めるため、後進の育成に尽力しろ。 私財を投げ打ってでもそれに力を注げ」
「はっ! お任せくださいっ! 」
地面におでこを付けて、もはや顔を上げようともしない。 顔の横に天羽々斬の溶岩みたいな雫が滴っているからだろう。
「ミナトやべぇって! ほんとにやべぇよ! こんなに荒らして……エルスター卿が黙ってないぞ! 早く逃げようって! 」
首筋に手刀を打ってチョリスを黙らせる。 泡を吹いて気絶してしまったが仕方ない。
「ジェフ。 お前はギルドでの覇権を維持するために、将来有望な冒険者を何人も潰してきたな? 」
「い、いえっ、俺はただ、生意気な奴に上下関係ってものを……」
「お、俺はたしかにこの耳で聞いたぞっ! 貴重なドリフターを何人も殺しているんだろうっ! 」
なんだ、またピュアボーイか……。 ずっと俺の周りをうろちょろしていたのか? お前の役目は怪我人や避難者のフォローだろうが、空気の読めないボンクラめ。
「とにかくその二つの約束を守れ」
「はい。 必ず守ります……」
「それからな、今後この街……『クラプトン』は湊一家が裏で牛耳る。 お前の一族を取り立てているアホ貴族にも伝えておけ。 この街は今日から俺達の縄張りだ」
「あ、み……ミナトのダンナ、そりゃあええ、構わねえんですが、貴族に逆らうってのは、王族や騎士団を敵に回すことになりやす。 いくらダンナでも……」
コイツ急に悪役の三下みたいな口調で媚びを売り始めたな。
「王族だろうが騎士団だろうがそんなものは関係ない。 いいかジェフ、お前これからは自分の命だなんて思うなよ? 俺が生かしてやってる命だからな。 そしてこの街には湊一家の内通者がゴマンといる。 お前が不穏な動きを見せたと情報が寄せられたら、五分以内に殺しにくるぞ」
連絡を取れるのはバレンティンだけだが、家庭的なブスは噂話や環境の変化に敏感だから、割と的確な情報を得られるだろう。
「は、はい、肝に命じておきます……。 この度は大変申し訳ありませんでした……」
気絶しているチョリスを担いで帰路につく。 帰路と言っても宿屋は知らんしな……。 街から出て森でキャンプでもするか。
「カミダ・ミナト様」
またリリィのママだ。 治癒魔法かけまくったな? なんとなく消耗してるのがわかる。 ふむ、出来ればこの美熟女に筆下ろしをお願いしたい所だが……。 ジェフの親父と穴兄弟になるのも癪だ。
「この度は息子の狼藉を……きっとどれだけの言葉を尽くしても、私に鎮める事は出来ませんでした。 心より、感謝申し上げます」
「感謝などされる謂れはない。 本来ならお前が説き伏せて感動の親子愛になる所を、ただのチートで捩じ伏せただけだ」
さて。 よく考えれば宿屋なんかに泊まるよりそこらにある山でキャンプをした方が楽しそうだ。 現世では半生をコンクリートジャングルで過ごしていたからな、大自然の中でキャンプなんかした事はない。 火を焚いてホットワインでも飲みつつ、早朝から渓流釣り……。 たまらんな、最高じゃないか。
「カミダ様っ! 」
「なんだリリィママぁ……。 俺は明日を生きる楽しみに浸っているんだ。 邪魔をするな」
「ご武運を……。 心よりお祈り申し上げます」
「やかましい。 俺の武運を祈る前に息子の更生を祈ってろ」




