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第二十話『招かれざる客』


 ハロー、リア。 おい聴こえるか。 応答を願う。


 【ハァイ、フゥ、フゥ、スゥー、はぁー、すぅー】


 なんだ? どうした息切れなんかして。


 【すません、ちょっと、運動、不足、だった、もんで】


 よほど激しい運動をしていたのだな。 息も絶え絶えだ。 しかし睡眠と運動はとても大事だ、どちらも疎かにすると身体にガタがくる。


 「ネロ、チョリス。 少し準備に時間が掛かるからな、奴らを足止めしといてくれ」


 「お、おうっ。 わかったっ! ネロ、行こう」


 「はいっ! 」


 【……フゥ、なんでしょう? 】


 アイテムボックスの現世に繋がる引き出しを大きくしたい。 過去最大級の物をかっぱらいたいが、あの大きさじゃ引っかかってしまって持って来れなさそうなんだ。


 【すんません、前後の流れを見てなかったんですが。 何を拝借するんです? 】


 屋台だ。 夏祭りか、やってなければスーパーの前でやってるたこ焼きの屋台を拝借する。


 【えっと……。 バカなんですか? 】


 あぁ。 友のためなら道化(ピエロ)になれるのが俺だからな……。 デカくできるか? あの搬入口を。


 【まぁ、出来ますけど。 タンス自体が巨大化しますから】


 お前は一番『タンス』と言ったらダメな存在だろう。 まぁいい、早く教えてくれ。


 【『異現結(いげんけつ)の穴、拡張ーっ! 』 と叫びながらスリーピスですね】


 なんだ……? 今までで一番よくわからんぞ。 それは造語なのか? まず、いげんけ……? なんだ?


 【いげんけつ。 異世界の『異』、現世の『現』、『結』ぶと書いて『いげんけつ』です】


 あなるほど。 異世界と現世を結ぶ、という意味か……。 ふむ、なかなか洒落が効いている。 それとスリーピースというのは一体なんだ? 指三本を立てればいいだけか。


 【『スリーピース』ではなく『スリーピス』。 これは『スリーピストン』の略です。 腰を前後に三往復させます。 激しく】


 なるほど簡単だ。 大きくする系のスキルは自分自身の巨大化もそうだったが、発動が楽でいいな? さて……。いくぞ。


 「いげんっけつのあな! かっくちょーうっ!」


 ん? 大きく三回、腰もヘコヘコと動かしたがうんともすんとも言わんぞ。 リア、何が悪かった?


 【ピストンがぎこちないし、遅いですね】


 「なんだと……? リアもう一度言ってみろ。 いいか? 俺のピストンはかなり早い方だ。 現世で幾度となく練習したからな。……実戦で使う機会はついぞ訪れなかったが。 それにな、ピストンは速さじゃない。 ガシガシ打ち付ければ女が気持ちよくなるとでも思っているのか? AVの見過ぎじゃないのか? 戯言を抜かすんじゃないぞ、この処女風情が」


 【めっちゃ声出てますよ。 というかミナトさんて童貞なんですか? 風俗とかは? 】


 「初めては好きな人と……。 学生時代からそう決めてたからな。 本番だけはしなかった。 25歳を越えた頃にはもはや意地になって強迫観念に変わっていたぞ」


 【かわいい】


 まったく……。 このポンコツヘルプは本当にアテにならんな。 自分自身のピストンを信じて道を切り開く……否、穴を拡張するしかないようだ。 本当なら先に無能なリアをリストラして永久追放したいところだが……。


 【全部聞こえてますけど】


 「いげんけつのあな! かっくちょ〜うっ! 」


 よし。 やはりな……。 俺のピストンは間違いじゃなかった。 間違えていたのは処女を拗らせた無能ヘルプだったということか。 いやしかし……。 かなり巨大化したな。 6m×6mくらいだろうか? これなら屋台をこちらに搬入できる。 さて、記憶のあるお祭りポイントを巡ってみるとするか。



 ◇ ◇ ◇



 ——ダメかッ! 季節は夏だが、やはり都合よく祭などやっているものではない。 生前お世話になったスーパーの前にたこやきの屋台があるが、あれはオンリーワンだしな……。 かっぱらうのは少々心苦しい。 世界最強にもまだまだ人間としての良心が残っているのだ。

 ……ん? 浴衣を着た女が歩いているッ!

 コイツを尾行(ストーキング)すれば祭会場、あるいは花火大会の会場に行けるのでは? ……やれやれだ。 まるで名探偵だな。


 「ミナト、急にタンスがデカくなったからみんな驚いてるぞ? そういえばいつも、引き出しを覗いて物を取り出すが……それはどうなっ、なっ、なにィィィィイっっ!! 」


 「うるさいぞチョリス。 今、転生史上もっとも過酷な陰茎操作を余儀なくされているところだ。 見たいなら黙って見ていろ」


 「引き出しが異国の風景と繋がって……! ミナトの故郷か!? なっなんだこれは!? 鉄の塊!? なんてスピードだ! 」


 「これは電車だ。 電車に乗り込む女をストーキングしている」


 「でんしゃ? いや、それにしても美人な女だな。 艶かしいというか、なんだか服装も色っぽいし……」


 「ふむ、お前も浴衣の良さがわかる男か? しかしそれが問題でな。 あまり遠出されるようだとおちんちんがもたない。 エレクトどころか射精まで持っていかれそうだ」

 

 お、二駅で降りたな。 ……電車内もそうだったが浴衣の女子供や家族連れが多い。 なるほど、分かったぞ。 神社じゃなく、野球の市営グラウンドで開催される夏祭だ。 小学生の時に一度だけ母親と行ったことがある。そうと分かれば引き出しを閉めて……。 場所をイメージして、開く。 やれやれ、ビンゴだぜ。


 「なんだここは、ミナト。 随分賑わってるな」


 「これが祭だ」


 「ほう……で、どうするんだ? 」


 まずはたこ焼きの屋台。発電機は二台あれば良いか……? よくわからんが。


 「ふんっ」


 「なっ! なんじゃこりゃァァァア! 」


 「うるさいぞチョリス。 これは屋台だ。 こっちにもあるだろう」


 「いや、こんな変わった屋台は……。 見たことのない複雑な器具が沢山ついて……」


 ふむ、後方で様子を見ていた貧乏人どもがザワザワしているな。 子供達は興味津々で近付いてきた。 さて、お次はフランクフルトの屋台、焼きそば、お好み焼き、イカ焼き。 わたあめとチョコバナナ、りんご飴。 そして缶ジュース、ビールと……。 あ、しまった。


 「はぁっ!? なんだこりゃあ! 」


 「なっ、ここは……! まさかワープした、のか……? 」


 うーむまずいな。慎重に盗んだつもりだったが二人ほど屋台にくっついて来てしまったようだ。

 両方二十代前半くらいの青年で、頭にタオルを巻いている。 眼つきは悪いし眉毛の角度がジェットコースターだ。 いわゆるDQNというやつだ。

 

 「すまないな、ちょっと屋台を貸してくれ。 あれだけあるんだから五、六台無くなっても誰も気付かないだろう」


 「ふっ、ふざけんな! テメェ誰だオラっ! さっさと俺たちを元の場所に帰せっ! 」


 「ほう、ミナト祭に協力する姿勢はナシか? やれやれ……。 なにしろこの屋台は借りるからな。 レンタル料もちゃんと払う」


 たしか神のジジイが宝石を持たせてくれたはず。 アイテムボックスに入ってるのか。


 【右下の引き出しです】


 ありがとうリア。 む、奥の方にかなりたくさん入っているな……。 大きさも色も様々だが、一番小さいのを適当に掴んでと。


 「七台ほど借りたからな。 それぞれ持ち主に一つずつこの宝石をやる、多分現世でも高級車くらいは買えるだろう」


 「バカ言ってんじゃねぇよボケ! 」


 釣り上げられたばかりだからか、さすがにイキがいいDQNだ。


 「待てマサっ! 」


 「どうしたんすか……? サトルさん」


 「なぁ、あんた。 これはまさか、異世界転移ってやつなのか……? 」


 ほう! サトルの方は物分かりがいい。 さては知っているクチだな?


 「その通りだ。 異世界の宝石を受け取ったらさっさと帰れ」


 「マサ……。 言う通りにするぞ」


 「何言ってんすかサトルさん! 」


 「おいサトル。 その宝石をちょろまかすんじゃないぞ。 ちゃんと持ち主全員に渡せ。 確認するからな」


 「……わかった」


 「ふざっけんなこのクソ陰キャが! ぶっ殺してやるっ」


 暴れ始めたマサをデコピンで気絶させて引き出しに放り込む。 サトルはそれを見て自ら飛び込んでいったな。 本当に物分かりのいい奴だ。


 「さて、サトルのやつちゃんと渡したか」


 引き出しの中を確認し、チンコンで周囲を見渡してみた。 おっと、とんでもなく卑しい笑いを顔面に貼り付けながらサトルが全力疾走している。

 こいつ……。 確実にやったな。 宝石持ってトンズラするつもりだろうが、そうはさせない。 もう一度一本釣りしてお仕置きだ。


 「ふんっ」


 「うっ! ウワァァァァァ! 」


 「おいサトル。 俺は約束を守れないやつが嫌いだぞ、物分かりが良いと思ったが……。 残念だ」


 「ここで働かせてください! ここで働かせてください! 」


 精神が破壊されてしまったか……。


 「サトル、もう一度無傷で現世に返してやる。 ちゃんと屋台の持ち主に宝石をくばるんだぞ」


 「ここで働かせてください! ここで働かせてください! 」


 「フルネームはなんだ? 」


 「本田(ほんだ)(さとる)です! 」


 「贅沢な名だな。 サトルか……。 今日からサルと名乗れ。 いいかサル? もし同じことをしたら今度は貴様の眼球をアツアツのたこ焼き機で転がして、ソースとマヨとかつお節と青海苔をまぶし、普通に捨てる。 いいな? 」


 「お願いしますぅ……。ここで働かせてください」


 「人手は足りているからさっさと帰れ」


 気絶させて引き出しに突っ込もうかと思ったが、俺が一歩近付いたら自ら帰っていった。 水泳のスタートみたいに引き出しへ飛び込んでいったが……。 ほかの屋台に突っ込んでないといいな。 ……ふぅ、やれやれ。 現世では説教ばかりされてウンザリだったが、説教をする方も心が痛いもんだな。

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ぶっ飛びヒロインと陰キャツッコミマシーンの主人公が織りなす入れ替わりコメディも書いてます。 『隣の席の美少女と身体が入れ替わってしまった件』 ←よかったらこちらも覗いてみてください!
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