第十九話『ミナト祭、開催決定』
「まったなー! みなとーっ! 」
あぁ、俺の貴重な〝さいかわ〟が離れていく。 というか、まりもが本当に速いな。 瞬く間に雲を突き抜け見えなくなってしまった。 ……それにしても、この序盤で貧しいさいかわ幼女と未来のさいかわ女騎士団長との『セックス権』を手にしてしまうとは……。 やれやれ。 近い将来おちんちんが乾く暇がなくなりそうだ。
『セックス権』か……。 ちょっと生々しいな。せっくす券、か? これも違う。 せっくすチケットか。 いや、もっと生々しいな。 えっちな券。 エッチチケット……ふむ、『エチケット』でいこう。 これからもネロやレオのように、年齢や状況的に「ハーレム待ち」が必要になる〝さいかわ〟には、この『エチケット』を発行させる事に全力を尽くす。
【ミナトさん】
おっ! どうした? リア。
【キモいです】
当たり前だろう。 脳内の思考がキモくない男はブッダかキリストくらいだ。
【ネロは兄のカルネに近親相姦で寝取られるし、レオは騎士団の上司に酔った勢いで寝取られますよ】
思考が腐り切ってるなリア。 誰の指示で俺の精神をどん底に叩き落とそうとしてるんだ? もう黙ってろ。
——さて、今日のたこ焼きパーティの下拵えと洒落込むか。 よく考えたら発電機とか色々と拝借しなくちゃならないしな。 ……ん? なんだ、珍しい虫がいる……。 異世界の虫は奇妙なもんだ。 ちょっと童心に帰って虫取りでもするか? 現世のホームセンターから虫取り網と虫かごをくすねて、と。
◇
——ふむ、しばらく夢中になったが、虫かごがいっぱいになってしまった。 やれやれ、昆虫博士になる気はないんだがなぁ。
【ミナトちゃん】
お、久しぶりだなリア。 かっこいい虫でもいたか?
【日が暮れる前に帰りなさい】
急にお母さんみたいだな。 やれやれ、少し虫取りに夢中になりすぎたか……。 ただ急ぐのは嫌いだし、のんびりとネロの家に帰るとしよう。 ところでリア、お前は一体どんな顔をしてるんだ? 初日にチラッと見たお前はVtuberみたいな3Dだったが。 チョリスに聞いたところによると、ちょくちょく俺の背後に現れては消えているらしいな。
【えっ。 見たいですか? あっしの顔、気になります? じゃあウィンドウに表示させますね〜! 】
声は可愛いんだがここのところガチでぶっ飛ばしたくなる時があるからな。 顔が可愛い事を確認できれば少しは寛大になれそうだ。 ……おっと? 出現したウィンドウに綺麗な日本人らしき女性が……ん?
「おい、これは女優の『葵優』じゃないか」
【ミナトさん好きでしたよね】
「もう好きじゃないぞ。 俺より不細工なコメディアンに寝取られたからな。 今は『黒季華』がトレンドだ」
【声出てますよ。 ミナトさんの好みって意外と渋くてアイドル系じゃないんですね】
いや、アイドルはもれなく全員好きだ。 ただあまりあざといのばっかり見てると食傷気味になってくるからな。 そういう時にスッとと喉越し良く入ってくるのが演技派清楚のちょいかわ女優だ。
【本当に女大好きですね】
当たり前だ。 女と飯と睡眠より好きなものなどない。
……吐いて捨てたくなるほどくだらない話をしていたら、もうネロの家に着くな。 ん? なんだあの人だかりは。
「おっ、帰ってきた! ミナトォーーーっ! ミ……ナ、ト……? お前、どうして全裸なんだ……? 」
自分が全裸で虫取りしていたのをすっかり忘れていた。 慣れとは怖いものだ。
「チョリッス。 なに、色々あってな。 気にするな」
「その……。 虫の入った緑のカゴと、それは網……か? どうして全裸で麦わら帽子を……? 」
「チョリス……。 人の格好に文句ばかり付けるな。 大切なのは心だろう! 」
やれやれだ。 人の格好に文句ばかり付ける奴は現世にもウジャウジャいたしな。 コイツも人間だから仕方ないか。
虫カゴの中の虫さんたちをリリースしつつ、そうだな、一番楽な短パンとTシャツを現世のファッションセンターキタムラあたりから拝借するか。
引き出しを開け、陰茎操縦桿を握って、と……。 現世は夏だから甚平が売り出されてるな。 セールか……。 ふむ、お得な20%オフをチョイスするとしよう。 甚平なら日本人っぽいし、一目でドリフターだとわかるだろう。 これで行こう。
「これで文句はないか? それよりもチョリス、なんだあの人だかりは」
「おぉ、かっこいいなその服……。 あ、そうなんだ。 実は折り入ってお願いがある! あの人だかりは、この村でロクな飯を食えてない奴らを集めてきた」
「……は? なんだと? 」
「頼む! この通りだ! 今日だけでいい、あいつらにたらふく、ミナトの料理を食わせてやってくれ! 夢を見させてやって欲しい! 」
友達に土下座などするなこのアホめ。
「まずはその無様な格好を今すぐにやめろ、 気分が悪いぞ。 いいかチョリス、俺は慈善事業をやる為に帰ってきた訳じゃない。 ネロやカルネやお前にメシを振る舞って、一緒に食べるために帰ってきたんだ」
「ミナト、頼む……! この通りだ……! 最初で最後、一生で一度のお願いだ! 」
一体なんなんだこいつは……。出会って一日でこんなに厚かましいお願いをしてくるとは。 やれやれ、こんな子に育てた覚えはないのだがなぁ。
「考えてもみろ。 俺はすぐ冒険に出るんだぞ? たった一日こいつらに夢を見させたところで、明日にはまたドン底に逆戻りだ。 中途半端に夢を見せて希望を持たせるのはお前の自己満足じゃないのか? 」
「えっ。 あ、いや、俺は……ただ……」
「タダもクーポンもあるか。 俺はお前やカルネロ兄妹には思い入れがあるが、奴らの事など知らんし全く興味もない。 とっとと集めた貧乏人どもを解散させろ。 四人でメシにするぞ」
「ミナト……! 頼むよ。 頼む! 俺は昨日、お前のメシを食ってるとき、今まで感じたことのない幸福を感じたんだ! 」
「ほう、たかがマグロと日本酒で幸福か。 おめでたい胃袋だな」
「なんでも構わねぇ! 俺はただ、メシを食うだけで人間はこんなにも幸せを感じられるのかと……。 本当に驚いたんだよ! これからも頑張ろうと思った……。 クソッタレの俺にこんな奇跡が起きるなら、人生はまだまだ捨てたもんじゃねぇって本気で思えたんだ! 本当なんだ! 」
こいつはなぜこんなに必死なんだ。 貧乏人どもだって赤の他人だろう。
「あいつらは……。 もう人生に絶望しちまってる。 俺が落ちぶれてこの村に来た時、良くしてくれた奴らだっ! 当時ギラギラしていたやつも、今は目が曇っちまって……。 だから、俺と同じ気持ちを味あわせてやりたいんだよ……! 」
「……俺の知ったことか。そんなにメシで人を救いたいなら村の用心棒など辞めて料理の修行でもすればいい。 毎晩お前のポケットマネーで大規模な炊き出しでもすれば、奴らも生きる希望を持つだろうよ」
言いすぎたか……。 しょげてしまったな。 ……どうしたものか。
「……そうか。 そうだよな。 自分勝手に動いて、無理を言って悪かった……。 うん。 あいつらを送ってくる。 俺のメシは大丈夫だ! ネロとカルネが腹を空かせてるから、よかったらまた食べさせてやってくれ! 」
食い下がってこない、か。 そしていい笑顔だ……。 最高に気持ちのいい爽やか野朗め。 はっきり言って俺は心の底からこいつが好きだな。 さいかわポイントボーナスをくれてやるか。
「ミナトお兄ちゃ〜んっ」
ふむ、ネロが飛びついてきた。 抱き上げてやろう。
「おかえりなさいっ」
「なんだネロ。 顔が泥だらけじゃないか」
「えへへ」
結局カルネが奮起していた畑の拡張を手伝ったのか……。 やれやれ、このさいかわと来たら底が知れんな。
「おい待て、チョリス」
「ん? なんだ? 」
「メシは振る舞わないぞ」
「わかってるよ。 無理言って悪かったって、本気で思ってる」
「しかし、奴らを解散させるな」
「え? 」
「俺は今日、ここで『ミナト祭』を開催する事にした」
「みなとまつり……? 」
「あぁ。 参加資格は『生きている事』だ。 友達じゃなくても、思い入れがなくても、足を運んでくれた人間は全て全力でおもてなしする。 それがミナト祭主催者としての矜持だ」




