第十三話『騎士団再来。激おこポイント上昇』
「おい、まりも」
「はぁい」
元のサイズに戻ったチビまりもを抱きかかえて歩く。 これからこいつには俺を乗せて飛び回って貰うわけだから、こんなことは苦でもなんでもない。 むしろ幸せだ。 全裸で大草原を歩く爽快感もクセになりそうだぜ。
「俺はお前がどう生きてきたとか、魔王に捕まってからどんな暮らしをしてたとか、そんな事には微塵も興味がないんだ」
「は、はい……? ぼくは、みなとしゃまが誘ってくりたことを……」
「黙らっしゃい。 お前は俺と出会うこの日まで、こんなにも〝さいかわ〟で居てくれた。 それだけでいいんだ。 余計な事は考えるな。 この異世界で俺が死ぬその日まで、ずっと隣にいて欲しい」
「……はいでしっ! 」
やれやれ……。ん? なんだ、感じた覚えのある魔力が近付いてくる。 なんだっけかこれは。 あぁ、王国騎士団だ。 また初日と同じ展開だな……。 うんざりだ。
「まりもは森に隠れていろ」
「え? なぜでしゅか? 」
「お前は聖獣だからな、騎士団に欲しがられても困る。 それに、下賎な者たちの目に触れさせたくない。 ほら早く行け」
ふむ、ちゃんと隠れたな。 飛べばいいのにわざわざ木を登っていく姿もアホみたいにさいかわだ。 それにしてもまた騎士団か……。 ホント=チンコスコーやカメダ三兄弟もいる。 しかし初日よりも随分と大所帯で来たみたいだな、百人以上で完全包囲と言ったところか。
「カミダ……! な、何故……全裸なんだ……? 」
昨日のカメダ次男だ。
「なんだカメジロー。 まるで全裸で歩いてはいけないルールがあるかのような口ぶりだな」
「あっ、あるに決まってるだろうが! 」
「ここは俺のプライベート草原だ。 そんなルールは設けてない」
カメジローがぶったまげている後ろから、チンコスコが颯爽と現れた。
「……漂流者・カミダミナトくん。 今から我々と王都に来てもらう。 国王様が君と直接話をしたいそうだ」
「何故俺が出向かなきゃいけないんだ。 俺と話がしたいのなら国王とやらが直接会いに来るのが筋じゃないのか」
「キミは本当に何から何まで無茶苦茶だな! いいかい? これは我らの国王様から直々に下された命令だ! 従わないならこの場でキミを拘束し、強制連行する事も辞さないぞ」
「『拘束』だと? 貴様ら俺が一番嫌いな言葉を持ってきたな。 激おこポイントが急上昇した」
「……すまない、君のためを思って言っているんだ。 まずは落ち着いて聞いてくれ。 私どもはね、君がなぜか魔族と同等の暗黒魔法を操る事をこの目で確認し、規格外とも言える戦闘能力を有していると判断して、そのように王国側へ報告をさせてもらった」
「あぁ。 なにも間違っていない」
「国王様は半信半疑であられる。 昨日打ち上げられたあの暗黒魔法が、本当に一人の転生者の手から放たれたものだとは信じられず、是非とも目の前で披露してくれないかとおっしゃられているのだ」
「ほう! 好奇心旺盛な王なんだな。 見たかったら自分で見に来てくれって言っといてくれるか。 じゃ、俺はこの辺で……」
「……実は、ここからが本題だ。 当然だが、この国だけではなく、近隣諸国も君の暗黒魔法の波動を察知してしまったようでね。 昨日からひっきりなしに使者を寄越しては、君の情報を聞き出そうといる」
【んふっ! 大ごとになっててワロタ】
「……もうそういうの面倒だから帰ってくれないか? もう二度と撃たないからあれ。ね? なんかの間違いだった事にしといてよチンコスコっち。 頼むよ」
「ここで我々が聞いておきたいのは、キミの『思想』だ。 この世界で何を成そうとしているか、それによっては世界の平穏に亀裂が走るのではないかと危惧している」
「……思想? 俺は自由に冒険をしたいだけだと言ったよな? お前らに敵意はないし、王都とやらには興味が湧いたら行く。 お前らの指示で動くつもりは毛頭ないぞ」
「国王様の命令、つまりこの王国の意思選択に従うつもりはないという事か」
「ないと言っているだろうが、わからない奴だな」
「……ふぅ。 では国王に代わり、私個人が問おう。 君の目的は何だ。 この世界で何をしようとしている」
「話聞いてたか? 冒険だって言ってるだろ。 歪んだ思想や悪意など一切ない俺の冒険計画を教えてやろうか? まずはこの大陸を離れて、異種族達の島々を放浪する。 この王国では冒険するだけで王の許可が必要なのか? あぁん? 」
なんだ……? チンコスコーの顔色が変わった。突然殺気を剥き出しにしてきたな。 こうやって何をきっかけにキレるかがわからない相手が一番めんどくさいんだ。
「外界に用があるのだな……」
「るーざえいじ? おい、もう限界だ。 これ以上わけの分からないことを抜かすようならここにいる全員を挽肉にして魔王城に直送するぞ」
「……もう仕方ない。 カミダミナト、君を拘束させてもらう……! 全隊っ、かかれぇーっ! 」
情緒不安定かこいつは。 ホント=チンコスコの号令で全方位から魔力の込められた矢が降ってきた。 やれやれ、まるでゲリラ豪雨だな。 いやゲリラ豪矢か。 晴れの日に傘は持たない主義なんだがなぁ。
【矢が降ってるんで傘、送りますね】
「あ痛っ」
ゲリラ豪矢に混じって数千本のビニール傘が降り始めた。 矢よりも高速で降ってくるビニール傘は流石の俺でも避けきれない。
というか騎士団は拘束どころか確実に殺しにきているだろう。
ざっと見た感じ、カメダ兄弟の他にもバリア要員がたくさんいるようだ。 みんな光のシルードに守られながら矢を射っている。 俺のバーストレクイエム対策だろうか。 ……ん? 遠くから炎の魔法を連発してくる奴もいるな。
【これ全部、陽動ですね】
……リア。 ふむ、お前もなかなかわかる奴なんだな。
【本命は正面でバリア部隊の後ろに隠れている剣士ですね。 あれが強い】
わかるぞ、そいつの殺気が一番強い。 ……なんだか変わった魔力を感じるから、おそらく昨日は居なかった奴だな。 弾数の多い魔法で撹乱しつつ、あの剣士で刺す、ってとこだろうか。
【ミナトさん、降り注ぐ矢の上から雷魔法が展開してますよ。 やっぱり相当な兵力をぶつけて来てますね】
あぁ、カミナリ落ちてきたな。 雷魔法はかなり楽しそうだからもう少し冒険してからコピーしたかったもんだ。 俺はお楽しみを最後まで取っておくタイプだからな……。 ところでリア、さっきから飛んできている炎の魔法はどうなった?
【コピーは完了しています。 『火遁・豪火焔の術』に練り上げられました】
ふむ? どこかで聞いたことのある名前だな。 ……その前に降ってくる矢とか雷魔法を全部防げるバリアを張るか。 避けるのも面倒だし、さっきから肉弾戦を誘ってきてるタンク野郎もいるしな……。 昨日タートルズからコピーしたバリアはどうなってる?
【はい。 熟成済みです。 えっと、発動するには詠唱が必要ですね】
詠唱だとッ!? ……やれやれ、やっと来たか。 早く詠唱がしたくて堪らんぞ、かっこいいセリフだといいなぁ。
【一回で覚えられますかね。 では言いますよ? 覚えてくださいね。 『時は満ちた……。深淵に惑う光達よ。 汝を憂う純潔なる傾慕に集い、我が身に収斂し、頑愚なる者達の干渉を拒絶せよ! 聖なる魔光壁、カメさんシェルターっ! 』と唱えてください】
長いし技名だけ園児レベルだな。 まぁ詠唱はそれなりのクオリティだし我慢するか。 しかし一回聞いただけじゃ覚えられないぞ、しばらく体術で避けているから何度か復唱してくれ。
【わかりました。 ちなみにめっちゃカッコつけて詠唱してくださいね? 『時は満ちた』の時は髪をかきあげながらアゴを上げ、前方の人を見下す感じです。 その後の詠唱は舞台を大きく使って、身振り手振りを交えながら】
——しばらく集中攻撃を避けながら詠唱の暗記に意識を割いた。 多分もう大丈夫だ、いっちょやってみるか。
「ときはみちた…… 」
【おぉ、いいですね……】
「シールドを展開しろっ! 何か撃ってくるぞ! 」
「しんえんにまどうひかりたちよ! なんじをうれうっ、じゅんけつなるけいぼにつどい……! 」
【んふふっ! 振り付けかっこいい! いいですよミナトさんっ! 】
「わがみにしゅうれんしっ。 がんぐなるものたちのかんしょうをきょぜつせよ……! 」
【……んふふっ! カッケェ! 】
「せいなるまこうへきっ、かめさんしぇるたぁー! 」
よし、成功した。 透き通った青いバリアがドーム状に俺を囲っているな。 いやしかし、バリアを張ったら寝転がってても敵の攻撃をじっくり見ていられるレベルで、ドーム型の水族館に居るみたいだ。
おいリア、さっき見た炎の魔法でコイツらを一掃するぞ。 おしおきだ。
【え、ミナトさん演劇とかやってました? モーションがめちゃクールでしたよ】
「やってないぞ? 文化祭でやった劇では草むらの役だったしな。 詠唱の練習は週五でやってたが」
【へぇ〜。 キャスティングした人才能ないですね。 あ、炎の魔法でしたっけ? では、柏手を打ちながら『火遁・豪火焔の術! 』と】
「かとん、ごうかえんのじゅつ! 」
……何も起きないぞ? リア。
【もうっ! なんで最後まで聞かないんですかミナトさん! せっかちなんですか? バカなんですか? 】
すまない。 どうすればいい?
【火遁、豪火焔の術! は脳内で唱えてください】
かとん! ごうかえんのじゅつぅ!
……おい出ないぞ。 どうなってる?
【あの、いい加減にしてもらえます? どうして焦ってるのですか? 最後まで聞きなさいよ】
……すまん。 いや、向こうの樹上からマリモが見てるからな……。 早くかっこいい所を見せたかった。 リア、最後まで聞くから頼む。
【……では柏手を打った手を合わせたまま、脳内で火遁・豪火焔の術! と唱えつつ、大きく息を吸い、思い切り吐いてください】
さては口から火が出るんだな? やれやれ、まるで曲芸師だ。
かとん! ごうかえんのじゅつぅ!
【う〜っ! もういっかいっ! 】
かとぉん! ごうかえんのじゅつぅ!
【まだまだいくぞぉ〜? う〜っ! よいしょォーっ! 】
——ふぅ。 完全にやり過ぎたな……。
辺り一帯が焼け野原になった。 見事に全員丸焦げでぶっ倒れている。 いやはや、調子に乗ってマリモの方には吐かなくてよかった。
おっと、よく見たら一人だけ盾を構えてギリギリ持ちこたえた奴がいるな? 例の冒険者みたいな身なりをした剣士だ。 少し近いてみるか……。 お、膝から崩れ落ちたと思ったら持っていた盾も手放した、茫然自失といったところか。
「ハァ、ハァ、……ゴホッ! ハァ、」
それにしても女だったとはな。
着衣が六割ほど燃えてしまって絶妙な露出具合になっている。 息も荒いしなんかエッチだな……。
ブクマ嬉しいです。更新を追ってくださっている皆様、本当にありがとうございますm(_ _)m
タイトルをちょいちょい変えますが、ウザかったらごめんなさい。




