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黒猫姫  作者: violet
22/24

推測

事情聴取が終わって、警察署を出る頃には深夜になっていた。

警察署では記者発表があり、周りはたくさんの報道陣がおり、一実の別荘も同様であろう。

報道陣を避けるように、広田の車で警察署を後にした。

もちろん、チーズケーキの店は閉まっている、コンビニでケーキを見繕(みつくろ)う。


「この中にイチゴが入っているのが旨いのお。」

3個目のスイーツを食べながら、御玉が話を聞いている。

一実の別荘で捜査が行われたが、異常は見つからなかったらしい。

幸子が潜伏していた物証は確認できたが、それ以外は 家の中も庭も異常はなかった。

この辺りは、別荘地帯で人通りも少ない。夏の間はともかく、冬場は別荘が使われることはさらに少ない。全く人通りがないことはないが、目撃者を探す事は不可能だろう。

ましてや、幸子が術をかけて存在を消している。

だが、別荘地帯にある山林の中で浮浪者と思われる男性の遺体が見つかったのだ。

外傷もなく自然死によるものか、幸子が関与していたかは捜査しないとわからない。


「その死体の下には陣が書かれていたであろうな。

だからと言って、幸子が関与した証拠にはなるまい。

人の命のような供儀なくては、屋敷全体に自身の気配や姿を隠す術はできまい。」

妾の血はずいぶん薄れているが、たまに華子や幸子のような力のある者が生まれてくる。華子は妾が洗礼をして力を高めているが、幸子は違う。濃い力であろう、人の世には生きがたいものじゃ、と御玉は思う。

ましてや幸子の力は人心を惑わすものじゃ、周りからは不気味がられたであろう。

道を間違えてしもうた、聖女と呼ばれる道もあったであろうが、可哀そうなことよ。

かつて、山の鬼と呼ばれていた頃の自分を思い出させる幸子。


ソファで孝明にもたれかかってコーヒーを飲みながら、華子が言う。

「幸子さん、父親に化物って言われたって言ってた。和泉沢の理解のない人間からするとそうなるのよね。」

「とんでもない!

華はかわいい黒猫だ。爪をたてて引っかかれても平気だぞ。」

孝明が華子をかばうが、広田も御玉もひっかかれるような事したんだな、と思っている。

「あれは父親が悪い。選挙の票を集めろ、っておかしいだろう!

離婚して放っておいた娘に言うことか。」

前回、幸子が和泉沢家の離れの屋敷で殺人を犯して逮捕された時に父親も調べられた。選挙の時以外は接点がなく、ましてや娘が思考を誘導していたなど警察は思いもしない。

「父親のNPO法人だが、ちゃんと活動しているんだ。ただ、和泉沢浩がボランティアとして登録している。一実さんの別荘で見かけられた車というのは、浩さんが使用していた車だと調べられた。

食物などを幸子さんに持って来たのだろう。」


「警察は庭は調べたのかぇ?」

御玉は気になることがあるらしい。

「捜査してましたが、何もありませんでした。

明日また捜査すると思いますよ。」

答えたのは広田だ。

そうか、と御玉は言ったきり口を閉じた。

しょせん人間の幸子、一実の別荘に大きな術を使うならば、供儀が浮浪者一人では力が足りないだろう。

庭で草花の手入れをしていても、姿を感知されないようにするには、そこに術を仕込むのが一番いい。

草花も栄養のある肥料をもらったのであろう。

警察は庭を掘り返すことまでするかのぉ。


「御玉様、どうされました?」

華子が聞くが、御玉は笑うだけだ。

「2年前も、幸子は術の為に人間を捧げた、と言って精神鑑定になっている。

警察では呪術など認めないので、同じようになるだろうね。

逃走手段も経路もみつけるには困難だ。

センター試験会場近くに突っ込んだ車も運転手の記憶が曖昧(あいまい)で、幸子さんとの接点がわからない。」

広田の説明に孝明が疑問を言う。

「運転手の記憶が曖昧なのは、事故のせいか。それとも幸子さんがそうしたのか。」

広田は両手をあげ、それさえ曖昧なんだよ、と言う。

「警察では、幸子さんと事故は別件で管轄も違う。

幸子さんが関与しているとは、思いもしてないだろう。

共通点が和泉沢華子、という事さえわかっていない。」


「思うだけで、確証がある訳ではないんだが。」

孝明が、言ってもいいかなと確認する。

「幸子さんの、今回の逃走は華を狙うだけではなかったと思う。」

「他にもあるの?」

「幸子さんは、浩さんに協力すると見せかけて共倒れしたかったんじゃないかな?」

「一実さんの為に?」

華子の確認に孝明は苦笑いする。

「子供の頃は親交もあったらしいけど、大人になってからは、さほどでもなかったって一実さんが言っていたわ。」

「それでもだ。

最初から一実さんの為だったと思うよ。」

どれほど思っても、一実には迷惑な事なんだろう。

「そっか、報われないね。」

子供の時の一実との楽しい時が幸子には忘れられないのかもしれない。親の手助けをした罪悪感がさらに追い詰めたのかも。幸子さんの中では、一実さんは昔のままの優しい一実さんなんだろうね、と華子も思う。

「警察が調べれば、幸子さんと浩さんの繋がりは近い内にわかるでしょうね。

幸子さんの目的はもう一度、逮捕されることだったのかな?」


幸子の気持ちは誰にもわからない。命という供儀をしてまでも自分の術を高めて、華子や靖親達を殺そうとした思い。精神異常者と言われ、逃走してでも得たかった物はなんだろう。

そこまでしても一実には会いに来ていない。

遠くから見ていたのかもしれないが、一実に会う事はしていない。


「力があると試したくなるのじゃ。」

御玉が呟いた。

自分より力があると言われる華子や靖親を、認めたくないのだろう。

「力のある自分は誰よりも尊い、という思いがあるのかもしれん。

過信じゃ、そこに間違いを正してくれる者がいない者は哀れじゃ。」

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