幸子の最後
和泉沢浩は、幸子の逃亡幇助が立証され逮捕された。
浩は、幸子が医療刑務所から逃亡後に接触があったと言っているが、これからの調べとなる。
たとえ、接触があっても一実を引き摺り落とそうと思ってなければ、こんなことにはならなかった。
和泉沢一族の中だけでなく、マスコミにも大きく取り立たされ、和泉沢家の事は深く調べられた。
マスコミ各社の大株主である和泉沢靖親であっても、今回は鎮めることは出来なかった。
ミャー。
「専務、はなちゃんが、来てますよ。」
黒猫の華子はいつの間にか、孝明の会社のアイドルになっている。
警備も受付もフリーパス、秘書がエレベーターまで迎えに行く。
何故か、総務や事業部の女性までもが華を抱っこしている。
華子も孝明の性格をわかっているので、女性にしか抱っこさせない。
ミャー、と華子が秘書の女性にスリスリしているのは、ケーキを出されたからだ。
パクッとケーキにかぶりついて、飾りのイチゴは両手で押さえて食べている。
「キャー、可愛い、賢い。
職場だから写真撮れないのよねー、残念。」
そんな所に孝明が視察から戻ってきたのだ。
良くできた秘書の安川は女性秘書を引き連れて専務室を出て行く。
「表の部屋にいますので、専務は少し休憩を取ってください。次の会議の書類の準備をしてますから、30分後には参ります。」
「ああ、助かるよ、ありがとう。」
パタンと扉が閉まり、安川達がいなくなったのを確認して華子が口を開いた。
「もう、マスコミが凄くって!
黒猫に為れてよかったー!」
ふー、と黒猫が孝明の膝の上に飛び乗った。
和泉沢家に張り付いた取材陣は人間の出入りに敏感だけど、猫ならば自由に出入りできる。
チュッと孝明にキスして人間の姿に戻った華子は裸だ。手慣れた様子で壁のクローゼットから洋服を出す。
孝明がいたずらしてくるので簡単には服が着れない。
「華ぁー、昨日実家から帰って来なかったから心配したよ。お義父さんから話があったんだって?」
うんうん、と頷きながらボタンを留める華子。
「御玉様に呼び出されたんだけど、用事はなかったみたい。」
あのご先祖様が!
僕の大事な妻なんだぞ、と孝明は顔に出さず、どす黒い心の中に隠す。
「だけど、お父様が帰ってきて話があったの。
もう外のマスコミは大騒ぎよ。」
昨日、幸子が警察病院で亡くなったと報道してた事は、孝明も知っている。だから、華子が和泉沢家から帰って来なくとも迎えに行かなかったのだ。
「お父様が、警察から説明されたことは、幸子さんが亡くなったこと。それまでの行動が、私の力がない、と暴れたということ。」
「力がない?」
孝明が呪術のことか、と聞いてくる。
「多分ね、私、一実君の別荘で幸子さんの呪術を破った。
その反動がきているはず。幸子さんは、もう乗り越える程の体力はなかったんだわ。」
華子の言葉で、孝明は華子の瞳の光彩が猫のようになった時を思い出す。
「あの時の華は、妖しくて、綺麗だったな。」
孝明の言葉を聞いてる華子は赤くなりながら、ダメだこの人と思う。
「幸子さんが亡くなったことで、事件も収拾に向かうだろう。
マスコミもいずれ家から減っていくさ、他に事件が起これば、そっちに行くよ。
ところで華、ここまでどうやって来たんだ?」
「うーん?
いつものように電車よ。」
「踏み潰されたら、どうするんだ。
止めるように前も言ったね?」
孝明から、黒いオーラがでている。
「大丈夫よ、猫で電車に乗ると、みんな席をあけてくれるのよ。写真撮影になるけど。」
知っている、SNSに話題になるから孝明の目にもついている。
「賢い猫と話題だよ、連れ去られたらどうするんだ!」
人間の華子も猫の華子も可愛いくて、孝明の心配はつきない。
コンコン、ノックと共に安川が入って来た。
もうそんな時間か、と思った時には華は猫になっていた。
脱ぎ散らかした服を、足でこっそり机の下に引き寄せる。
ミャー。
「華、車で一緒に帰るから、ここにいるんだぞ。」
そう言い残して、孝明は安川を連れて出て行った。
帰るまで、ここで遊んでいよう、黒猫の華も専務室を出て行くが、その姿は注目の的である。
もし、自分が人心を操れるとしたら、どう思うだろう?
無意識に操ったのでは、と他人の誠意も優しさも信じられなくなるかも。
幸子さんは、孝明が私に注ぐ愛情をみていたんだ。だから、貴方も一実も、と言ったのかもしれない。
羨ましさは妬みに変わったのだろうか、寂しかったんだろうな。
恨む対象が欲しかったのかもしれない、それが私だ。
年も近く、総領娘で、婚約者もいる。
勝手に恨まれて冗談じゃないわよ。私に落ち度ないし、それで殺された人も巻き添えだ。
幸子さんに私も恨みはあるけど、幸せになってやる、それが私の復讐よ。
廊下でミャー、と鳴くと、女子社員達が寄ってくる。
「はなちゃん、お菓子あるわよ。」
ミャー。
「まるで返事だわ。はなちゃん、賢い!」
女性達がキャーと騒ぐ。
これだって十分に人心を操っているわ、どうだ。




