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黒猫姫  作者: violet
14/24

華子の入試

受験当日、華子は緊張した面持ちで試験会場に向かった。

現役生に比べ自分が8歳年上であるということが、目立つような気がしてならない。

容姿だけをみれば、華子は十分現役生で通る。


二日にわたった試験も最後の科目を終え、誰もが一時の安堵をおぼえていた。

まだ試験がある者、これで終わる者、様々だが、とりあえず一区切りである。

帰りは孝明と待ち合わせをしている、ご馳走してくれるらしい。

華子が受験の土日は孝明は出社して仕事している。

少し気が緩んでいたのかもしれない、周りへの注意がおこったっていた。

校門は受験生であふれかえっているから、迎えの車は駅とは反対方向の少し離れたところで待機していた。

孝明の会社までは2駅程で歩いて行く事も出来るぐらいの距離だ。


華子が人ごみから離れるのを待っていたかのように、1台の車が近づいてきた。

それはスピードをあげたのと人々が悲鳴をあげたのが同時だった。

「危ない!!!」

歩道を歩いているのは、華子を含め少ない人数ではない。そこに車が乗りあげてきたのだ。

ガーン!!!

すごい音がして車は歩道の壁にぶつかり大破して止まった。

「救急車だ!」

「警察!」

救急車と何度も叫びながら、駅方面に向かっていた学生達も救助に集まって来る。

たくさんの悲鳴と受験会場の学校から職員関係者が走って来る。

血を流して倒れている学生達の間から、1匹の黒猫が出て来た。

華子だ、猫の小さな身体になって車を避けたようだった、そのまま集まる人々の隙間をぬって消え去った。




孝明はビルの外から聞こえる沢山の緊急車両のサイレンの音に気が付いた。

騒々しいどころではない、何か大きな事故があったかと思い見たネットのニュースで愕然とした。

華子が受験した会場だ!

身体中の血が凍りつく感覚に目の前が暗くなる。

会場に行かなければ、きっと華子は無事だ、と自分に思い込ます。

ビー。

鳴り響く内線の音で、受話器に飛びついた。

「どうした!」

返ってきたのは、警備員ののんびりした声だ。

「秘書課の方達が言っていた専務の猫かな、ミサンガをつけた黒猫、いるんですが。」

警備室からの内線だったが、全部を聞く前に、すぐ行く、とだけ言って駆けだしていた。

エレベーターを待つ時間さえ惜しいが、さすがに37階から階段で降りるよりは待った方が早い。

今日は休日出勤の社員だけなので、受付には警備員がいる。

普段よりもビルに入るのはチェックが厳しい。

エレベーターがやけに遅く感じる、孝明の中でサイレンが鳴り続いている。

やっとたどり着いた受付には、血まみれの猫がいた。


『センター試験から帰る受験生の列に車が突っ込み、5人が重軽傷。運転手は運転中に意識を失い運転が出来なかった模様です。』

テレビを映したモニターからは、緊急速報として現場からの映像が流れている。

お湯で濡らしたタオルでゆっくり丁寧に猫を拭くとタオルが赤くなる代わりに黒猫の艶やかな毛並みが現れた。

「本当にケガはないんだな。」

孝明の問いかけに、黒猫が答える。

「傷はないわ、血は他の人の血よ。

足を挫いたの、ここまで来るの大変で疲れた。

ちょっと休憩したい。

服もバッグも置いて来ちゃった、スマホも受験票も入っているのに。」

「誰かに取りに行かすよ、ともかく病院に行こう。」

猫の耳は誰よりも先に車の音に気づいた、違和感があった。

幸子さんかもしれない、思った時には黒猫になっていた。

人間のままだと車と壁に挟まれていただろう。

「事故でケガをした人には悪いが、華が無事でよかった。」

華子ではなく、孝明がボロボロ泣いている。

華子は人に戻ると、孝明が先日もって来たバッグから衣類一揃えを出して着た。

そのまま病院に連れて行かれ、警察の事情聴取を受けることとなった。

警察もバッグと下着を含め衣類一式を残して行方不明の華子を探して、受験票から和泉沢家に連絡をしていたのだ。受験票から会場関係者に確認したが、美少女の華子は覚えている者が多く、本人が受験したことの確認を得て、事故後不明とされていた。

衣類はお泊まり用で、事故でケガしたものの、動けたから助けを求めて孝明のところに向かった、という苦しい言い訳でも、気が動転していたのだろう、で終わった。



その日は入院となった華子の部屋には孝明が一人残っていた。

靖親と玲子も来ていたが、先ほど帰って行った。

「もし、幸子さんが運転手に何かしたなら近くにいたはず。

車が突っ込んでくるまで気がつかなかった。」

時間がたつと華子の足首は腫れてきたが骨には異常ないので、明日脳波の検査で異常がなければ退院となる。

「私のせいで、みんな巻き込まれた。

受験生なのに、すぐに次の試験があるかもしれない。

今年の受験はどうなるの?」

「華子、ただの事故かもしれない。

何でも幸子さんだとは限らない。」

「ごめん、孝明にあたった訳じゃないの。不安なの。」

大丈夫だよ、という孝明は面会時間ぎりぎりになって帰って行った。


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