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981.~990.

981.

折角のお祭りなのに雨が降り始めた。すぐに人々がざわつきが悲鳴に変わる。雨が赤い。血だ。血の雨。群衆はパニックに陥った。会場の神社から出られないのだ。鳥居に縋っていた私の前に、奇怪な面を被った白装束の集団が現れた。掠れた声で、でも確かに言った。「久方ぶりの祭じゃ」


982.

つばの広い麦わら帽子、黒のロングヘア、くびれのないワンピース、細い素足を洗う碧い波…これらの組合せは劣情を煽るので禁止になって、世界から消えた。突然の雨に濡れる制服も、暑熱に赤らむ頬も、次々と禁止になり、最終的に女子の存在が禁止になった。ほどなくして人類は滅んだ。


983.

田んぼの真ん中に、キリンが立っている。アフリカにいる首と足が長い草食獣のキリン。稲を食べているわけでもなく、サギのようにしれっと立っているのだ。とりあえず横目に通り過ぎた。次の日キリンの長い首にセミが集って鳴き騒いでいる。三日目、キリンは稲をなぎ倒して死んでいた。


984.

夏休み、初めて母の実家に来た。絵に描いたような日本の原風景。虫の声とご近所さんが五月蠅い。一人になれる場所を探していたら、古井戸を見つけた。覗き込むと、街があった。向こうからも緑色の肌の子どもが覗いている。母の化粧の下と同じ色の肌。あっちが本当の実家のようだ。


985.

「きみは人魚?」僕の硝子張りの住処の前に現れた少年は目を丸くして言った。わからないので首を傾げる。僕は父さんが造った液体の中からは出られない。言わなかったけど、僕と彼は瓜二つだ。「僕は人魚なの?」液体を震わせて訊くと、父さんはせせら笑って夕飯の鰯を投げ入れてきた。


986.

賑やかなお囃が聴こえる。住宅街のど真ん中、しかも平日にお祭り?角を曲がると、神輿が向かってくる。神輿の下に人の姿はなく、人の胴ぐらいの太さの触手がうねくり這い進む。頭から提灯を生やした真緑の猫が「参加する?」と朗らかに訊いてきたので、首を振って元来た道を戻った。


897.

一人暮らしの部屋で寝ていると、時々髪を撫でる冷たい手が出る。祖父母も両親も生きている。死んだ親類縁者・友人はいない。誰の手なんだろう。何が目的なんだろう。ネットで手触りの良いものを撫でると癒しになるとあった。シャンプーとリンスを高いのにした。時々から毎晩になった。


988.

宇宙には音を伝える大気がない。だから音などしない筈。ましてや声などするわけがない。これは宇宙船の中の音なのだ。でも、でも、彼女の声がすることもあり得ないのだ。火星に向かう宇宙船。選ばれなかったのを苦にして首を吊った彼女の大はしゃぎする声が日に日に音量を増していく。


989.

幼い娘がくまのぬいぐるみとこそこそ話している。「内緒話?」と訊くと、にこにこしながら頷く。良かった。弟が生まれてから赤ちゃん返りが酷かったが、最近機嫌が良く弟にも優しい。「おねがいね」弟が寝るとぬいぐるみを傍らに置く。座りが悪いのか、いつも顔に上に倒れているけど。


990.

井戸に突き落とした父が煩い。井戸水を真っ赤に染めて一度ぷっかり水面に浮いたのだが、暫くして覗いたら壁をガリガリ引っ掻いてもがいていた。頑丈な鉄の蓋を閉めて見なかったことにする。たまに井戸に行くとガリガリ音がする。井戸水を使っている水道の蛇口からもガリガリ音がする。

最早、ただの怖い話になっていますなあ…

もうすぐ1000話…さて如何いたしましょう

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